クロチアニジンの新残留基準値案が施行されると、ほうれん草1.5株(40g)食べただけで、子どもの急性中毒リスクが発生することになる。
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マルハニチロ事件で問題になった農薬による急性中毒。実は市販の普通の野菜でも、急性中毒が起きかねない事態になろうとしている。住友化学が製造する「クロチアニジン」という農薬の残留基準を、厚労省が現在見直し中で、改定に必要な手続きはすでに終了し、担当課長の判断で早ければ直ぐにでも実施可能な状態なのだ。作物によっては最大2000倍も基準値が緩和され、高濃度の農薬が合法的に野菜に残った状態でスーパーに並んでしまう。現在の案では、ほうれん草の基準値案は40ppmに緩和されるが、これは、たった40g(1.5株相当)食べただけで子どもに急性中毒が起きかねない値である。複数の環境NGO団体がこの取り消しを求めており、2月3日に厚労省へ申し入れた。危険になる野菜一覧表と危険量のビジュアル写真を付けたので、気を付ける参考にしてもらいたい。
【Digest】
◇急性参照用量
◇ほうれん草2株、レタス半分で急性毒性のリスク発生
◇レタス、ニラは現在でも危険
◇急性毒性を予防する基準がない日本
◇国際的には基準値強化の流れ
◇厚労省へ申し入れ
この問題の背景には、住友化学など農薬メーカーに甘い農水省と、急性中毒リスクに対する理解に欠けた厚労省、それを追認するだけの審議会の御用学者、役人任せの政治家、報道しないマスコミといった、政-官-業-学-報の典型的な癒着がある。
◇急性参照用量
昨年12月29日に起きたマルハニチロの冷凍食品問題では、子どもに急性中毒が起きかねない量であることが問題になった。当初マルハニチロは、動物実験で半数が死ぬ量をもとに、「一度にコロッケ60個食べない限り大丈夫」と説明し、厚生労働省から即訂正を要求された。
厚労省が12月30に発表した資料によれば、急性中毒が起きかねないケースでは、半数致死量ではなく、急性参照用量(ARfD)という摂取基準値と比較すべきで、それだと大人でもコロッケ8g(3分の1個)で超過してしまう、という説明を行なっている。
急性参照用量(ARfD): 24 時間またはそれより短時間に経口摂取しても、健康に悪影響が生じないと推定される 1 日当たりの量。 単位はmg/kg(体重)/日。残留農薬摂取による急性影響を考慮するために1994年にJMPR(FAO(国連食糧農業機関)とWHOの合同農薬残留部会)で設定された。
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事件性のある意図的混入に対しては、厚労省の反応は速かった、と評価できる。
しかしその一方で、驚くべきことに厚労省は、普通の市販の野菜への残留農薬基準の決定に対して、この急性参照量をまったく考慮していないことが分かった。
その結果、現在、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会で検討中の残留基準値改正案では、子どもがほうれん草2株(40g)を食べるだけで、この急性参照用量を超えてしまう値を、厚労省は残留基準値として認めようとしているのだ。
特別な犯罪だけではなく、普通の市販のほうれん草が急性中毒を引き起こす可能性が出て来てしまうことになる。
◇ほうれん草2株、レタス半分で急性毒性のリスク発生
問題になっているのは、ネオニコチノイド系の「クロチアニジン」という農薬で、住友化学が製造している。
まずは、現在、厚労省が認めようとしている残留基準値がどれくらい危険なのかを、お示ししよう。
下の図を見てもらうと分かるが、カブの葉は現在の基準値の0.02ppmから40ppmへと、2000倍もの緩和となる。みつばも、0.02ppmから20ppmへと、1000倍の緩和だ。
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新残留農薬基準案で危険になる野菜と摂取量の一覧。筆者作成 |
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つまり、今よりも、2000倍、1000倍の量の農薬が残留したまま販売しても合法になる。
ただ単に何千倍の緩和と言っただけだと、どれだけ危険なことなのかピンと来ない。危険性を評価するためには、どれだけ食べても安全かという摂取許容基準と比較する必要がある。
そこで、マルハニチロ事件で使われた急性参照用量と比較したものが左図だ。
新基準案では、ほうれん草だと、一株と半分の量を食べるだけで、急性参照用量を超えてしまう。レタスは、小玉の半分くらいの量だ。1回の食事で食べてしまいかねない量といえる。
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各野菜毎の子どもの急性中毒リスクが発生する量。筆者作成 |
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ほうれん草の40ppmなどの残留基準値を承認した厚労省の部会の委員名簿 |
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