アマゾンジャパンの元社員、島崎敦美さん(仮名)。アマゾンからは雇用契約書(オファーレター)への署名を求められるその時まで、雇用条件に関する詳しい説明がなかったという。
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アマゾンジャパンの中途採用で内定した島崎敦美さん(仮名)。だが、計4度の面接中はおろか、内定が出た段階でも雇用条件の明示がなかった。雇用契約書は入社10日前に手渡されると言われ訪問したところ、アマゾンは彼女に「契約書を持ち帰っての検討は不可」「この場でサインしなければ内定取り消し」と通告。そこで初めて明らかになった各種不利な条件――基本給に月70時間分の残業代が予め組み込まれていることや、賞与の代わりとなるRSU(制限付き株)が4年勤続しないと満額支給されないこと――を理解・検討する時間がないまま、署名せざるを得なかった。入社後も「できるだけシフトは固定」「転勤なし」などの口約束を反故にされ、体力的限界から1年持たずに退職。賞与はゼロとなり、「前職並み」と言われていた給料は15%も減ってしまった。不利な条件がばれて内定辞退されることを防ぐため検討する時間を与えない――アマゾンの姑息な手口を報告する。(オファーレターはPDFダウンロード可)
【Digest】
◇「羽田空港以上」のセキュリティチェックをくぐっての面接
◇「本当にいいんですか?本当にここでいいんですか?」
◇「今この場で雇用契約書に署名を」
◇基本給は「月70時間分のみなし残業代込み」
◇「制限付き株全額支給は入社4年後」
◇「やり直しの利く年齢の人にしか薦められない」
◇「羽田空港以上」のセキュリティチェックをくぐっての面接
島崎敦美さん(仮名)は転職活動をしていた数年前(※特定を防ぐため具体的な時期は伏せる)、当時登録していた人材紹介会社から、アマゾンジャパン(以下、アマゾン)の中途採用求人を紹介され、採用試験に応募した。
アマゾンは15年8月現在、埼玉県に3つ(川越FC、川島FC、狭山FC)、千葉県に2つ(市川FC、八千代FC)、神奈川県に1つ(小田原FC)と、関東に合計6箇所のフルフィルメントセンター(FC=配送拠点)を持っている。島崎さんもこのうちの一箇所での勤務を希望して応募し、採用後、実際にそこに配属された。
採用試験も、のちに勤務地となったそのFCで行われた。面接を受けに行って、まず印象的だったのは、入り口のセキュリティチェックが「羽田空港のゲートよりも厳しかった」ことだったという。
「セキュリティゲートを通過する際、ベルトや鍵を身につけているだけでもアラームが鳴るんです。センター内での録音、撮影などは厳禁で、スマートフォンなども当然、持ち込むことはできません。ただ、社員に対しては部外者ほどセキュリティが厳しくないようで、社員になると個人のスマホ、携帯は持ち込み可能でした」
◇「本当にいいんですか?本当にここでいいんですか?」
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ご存知、アマゾンドットコムのジェフ・ベゾスCEO(写真は、「FORTUNE」誌の「ビジネス・パーソン・オブ・ザ・イヤー2012」を受賞した際の同誌表紙) |
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島崎さんに内定が出されたのは、最終面接が終了した、その場においてだった。
すると、人材紹介会社のエージェントからは、アマゾンの年俸制度に関する説明がなされた。実は、島崎さんが同社の給与制度に関する説明を聞くのは、これが初めてだった。これまでの面接の中で、本来あってしかるべきはずの説明が、全くなかったというのだ。
「紹介会社のエージェントからは、『アマゾンの年俸制は3つの柱で構成されている』と言われました。本給と職能給(後述するが、以上の2つが「基本給」となる)。さらに自社株を賞与の代わりに支給する「RSU(Restricted Stock Unit Award=制限付き株)」という制度の3つです」
RSUはストックオプションと似ているが、ストックオプションの場合は従業員が自社の株を一定期間、ある一定の価格で購入できる権利であるため、その権利を行使しなければ損にも特にもならない。それに対してRSUは、一定の株そのものを数年に分けてもらうことができ、実際に配当もなされる、というものである。
なおこの最終面接の日、島崎さんは紹介会社のエージェントから気になることを言われたという。
「内定を貰った時、紹介会社の担当者が『本当にいいんですか?本当にアマゾンでいいですか?』と、こちらが驚くくらい執拗に念押ししてきたのです。元々その会社との契約では、紹介して貰った企業の内定を辞退した場合、他の仕事を紹介しない、ということになっていたのに、『なぜいまさらこんなことを聞くのだろう…』と思いました」
この執拗な念押しの原因は、後に明らかとなる不利な報酬条件が発覚した際に入社辞退されることを防ぐための伏線と考えられる。エージェントは、アマゾンの手口をわかっており、いわば共犯関係だった。
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【画像1】ファーレターと一緒に島崎さんに渡された採用通知案内。文面の上では「返送」を指示しているが…… |
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◇「今この場で雇用契約書に署名を」
エージェントから上記のようなアマゾンの年俸制に関する簡単な説明があった一方で、アマゾン自体からは、内定が出たこのタイミングでも、雇用条件に関する詳しい説明は、依然としてなされなかった。
気になった島崎さんは、エージェントに「雇用契約書はいつ頂けるのでしょうか?」と尋ねたという。おそらく郵送で送られてくるであろう雇用契約書には、雇用条件が明記されているはずであり、仮にそれがあまりにも納得できないものだった場合は、最終的にサインしないという選択もある、と思ったのだ。
だがこれに対してもエージェントは、島崎さんの想定外の回答をしてきた。
「正式な雇用契約書にあたるオファーレターなどの書類を貰うためには、(面接を通じて)すでに決まっていた入社予定日の10日ほど前のある日に、アマゾンに来社しなくてはいけない、というのです。この時エージェントからは、『よほどのことがない限り、この場で断ることは不可能ですよ』と念押しされ、アマゾンの人事担当者からも、その日に間違いなく来社する旨を、確約させられました」
数日後、言われたとおりの日時に来社すると、さらに予想外の展開が待っていた。アマゾンの人事担当者はたしかに島崎さんにオファーレター、機密保持契約書などの書類を手渡したが、これらの書類を受け取るならば「すぐに、その場で署名をしてください」と迫ったのだ。
上に掲示した【画像1】は、そのオファーレターと一緒に島崎さんに渡された採用通知案内(兼福利厚生説明書)である.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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【画像2】島崎さんが交渉の末に入手したオファーレターの写し。基本給に「毎月70時間分のみなし残業代」が含まれていることがわかる。 |
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【画像3】RSU(制限付き株)に関する説明。全額もらえるのは入社4年目以降。 |
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アマゾン労働環境の過酷な実態を伝えたニューヨーク・タイムス電子版の8月15日付記事。アマゾンの労働者搾取に対し、世界的な批判が巻き起こりつつある。 |
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