My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

「東進」運営会社ナガセが”訴訟テロ”最後通牒 どこが虚偽なのか、なぜ虚偽なのか、なお不明

情報提供
ReportsIMG_J20151103130613.jpg
10月29日付でナガセ代理人の小原健・齋藤雄司弁護士からMNJに送られた「通知書」。記事削除に応じないとして、訴訟を起こす意思に変わりがない旨書いてある
 ウソを書いているとして「東進」運営会社の予備校大手・株式会社ナガセ(本社・東京都武蔵野市吉祥寺、永瀬昭幸社長)がMyNewsJapanに対して記事削除を求めている問題で、ナガセよりMNJに宛て、近く民事訴訟を起こす旨の“最後通牒”が10月29日付で送りつけられた。どこが虚偽なのか、なぜ虚偽なのか、誌面を提供するので語ってほしい――。7月に最初の内容証明郵便が届いて以降、まずは意味が判然としない主張の真意を確かめるべく、編集部は同社に働きかけを続けてきた。だが、ナガセの言い分は3ヶ月を経た今もよくわからない。対象となった記事は、特定のフランチャイズ校での経験を「私は」という一人称で書いた体験記だが、ナガセの解釈によれば、直営校を含む日本中の「東進」での話のように読めるらしい。要は、気に入らない記事はすべて「虚偽」ということなのだろうか。教育産業らしからぬ、曖昧かつ難解なナガセの要求を、あらためて検証する。
Digest
  • 最後通牒届く
  • ナガセの現代文教育は大丈夫か
  • 「本件記述」の場所特定に3ヶ月
  • 「本件記述」を検証する
  • ゆがめられた「事実」
  • 「示唆」ってどこに?
  • 旧武富士と同体質か

最後通牒届く

 「通知会社としても、貴社に対し訴訟を提起する方針に変更がないことを申し述べておきます」

 10月29日付でMNJに送ってきた通知書で、株式会社ナガセはそう書いてきた。事実上の最後通牒である。

 〈「東進」はワタミのような職場でした――ある新卒社員が半年で鬱病を発症、退職後1年半で公務員として社会復帰するまで〉という記事を削除し、謝罪せよと書かれた7月29日付内容証明郵便が同社より届いてから3ヶ月、ナガセから届いた手紙は、計5通。MNJ側は3度の返事を、株式会社ナガセとその代理人を名乗る小原健・齋藤雄司弁護士に送った。記事を削除しろというのはわかる。しかし、どこがどう虚偽だというのか、いまひとつはっきりしない。編集部としては少しでもナガセの言わんとすることを理解しようと試みた。質問に加え、代理人を通じて再三取材を申し込み、寄稿も依頼した。

ナガセは教育産業大手である。おそらくは、旧武富士のような、誰もが認めるブラック企業とは違うはずだ。存分に反論してください、記事を批判してください、という呼びかけに対して、きっと快く応じてもらえるだろう。編集部としては、高をくくっていた。建設的な議論を期待していた。

しかし、期待ははずれた。返ってきたのはこんな答えだ。

 貴社と通知会社は、すでに民事上の紛争状態にあり、このような状態である以上、「取材」の名のもとに、書面による応答を求められても事実上拒否(する)…

ReportsIMG_I20151103130614.jpg
駅前のビルに並んで入居する「東進ハイスクール」と「河井塾」。少子化で塾産業の競争は激化している

「民事上の紛争状態」とは穏やかではない。漠然と抱いていた「東進」の知的なイメージは変わった。対話を求めても、響かない。高飛車な最後通牒で訴訟をちらつかす。「反知性」のにおいが漂ってくる。

ナガセの現代文教育は大丈夫か

「紛争状態」だから取材は拒否する。そう言いながら、ナガセはMNJに対して、逆に質問をしてきた。それがまた、よく意味がわからない代物なのだ。たとえばこうだ。

 貴社は本件新記事(筆者注=編集長名による該当記事への追記)において、「本件記事は全て、真実又は真実相当性のある事実である」との記述(ママ)しておられます。それでは、本件記事中「真実」であるのはどの部分であり、また、真実でないとしても真実相当性のある事実とはどの部分なのか、それぞれ根拠を付して明確にしてください。

記事のどこが「真実」の事実で、どこが「真実相当性」のある事実なのか答えろというわけだ。虚偽だ、名誉棄損だ、と言ってきたのは、ナガセのほうである。ならば、ここの記述はウソだ、と自ら具体的に指摘すればよいだけのことである。

意味のよくわからないナガセの質問にいちいち反応すれば話が混乱する恐れがある。質問に対する回答は当面やめておいたほうが賢明だと編集部では判断した。なにせ、「紛争状態」なのだ。

それより、原点に戻ってナガセの主張内容を確かめる必要がある。ことの始まりは、ナガセの記事削除要請なのだが、その内容からしてはっきりしないのでは話にならない。

ReportsIMG_H20151103130614.jpg
都内駅前の東進ハイスクール

「本件記述」の場所特定に3ヶ月

10月13日、編集部は、ナガセに次の質問を送った。

御社の当社に対する要望事項とは、以下の趣旨であると当社では理解しておりますが、間違いないでしょうか。

1 本件記事中、「本件記述①」~「同⑤」の5ヶ所の記述は虚偽であり、ナガセ社の信用を毀損するものである(見出しを含めて読んだ場合を含む)。よって記事全体、あるいは虚偽だと指摘した部分を削除し、謝罪せよ〉

2 虚偽である旨指摘をされている「本件記述①」~「同⑤」について、それぞれ厳密な記述ヶ所を具体的にお示しいただけないでしょうか。再度のお願いですが、貴社のご要望を正確に理解するため、なにとぞご回答願います。

これに対する回答が、冒頭で触れた10月29日付の手紙、「通知書5」だ。質問の2――「本件記述①」~「本件記述⑤」が具体的にどこを指すのかーーに対して答えてきた。ひとつ、疑問が解決した。

そして1の質問――つまり、ナガセの要求とは記事のうち5つの記述が嘘だから削除・謝罪しろということですね、という確認の問いについては、まずはこんな説明をしてきた。

 当職らの2015年7月21日付通知書にも記載されているように、本件記述①ないし本件記述⑤(略)により適示された事実はいずれも虚偽であり、通知会社の信用を毀損するものです。したがって、通知会社は、貴社に対し、記事全体あるいは、虚偽と指摘した部分を削除し、謝罪をするよう求めました。

「本件記述①」-「本件記述⑤」に虚偽の事実があるから削除を求めている、という理解は大筋で正しいようだ。ところが、そのあとに「ただし」としていささか長い説明が続く。

 ただし、ご承知とは思いますが、当職らが虚偽と指摘しているのは、名誉棄損事件の法的構成に従い、記述そのものではなく、記述から適示された事実です。したがって、虚偽と指摘したのは適示事実の部分であり、最低限削除を求める部分を絞るとすれば、本件記述①~⑤のすべてではなく、この適示事実を直接裏付ける部分のみということもあり得ます。ただし、その場合は、本件記事が記事として意味をなさなくなることもありますので、当職らとしては、本件記事全体の削除をも求めたものです。

「記述」「適示」「適示事実」。筆者は一読して首をひねり、なんどか読み返した。やはり判然としない。まるで「適示事実」と「記述」というのが、別ものであるかのような言い方だ。「本件記述①~⑤のすべてではなく、この適示事実を直接裏付ける部分のみということもあり得ます」という表現にいたっては、日本語能力を疑う。「ここの記述は嘘の内容が書いているから削除せよ」と、どうしてはっきり言わないのか。言葉をこねくり回すような表現に、いらだちを禁じ得ない。

ReportsIMG_G20151103130614.jpg
東進ハイスクールの案内冊子に掲載された講師の紹介

◇記述にない「適示事実」

 わかりにくい議論に対抗するには、用語や定義、前提事実、論理の流れについて、ひとつひとつ確かめていくのが効果的だ。筆者は、武富士から1億円の損害賠償請求訴訟を起こされた際の経験で、そう学んだ。

「本件記述①」〜「本件記述⑤」というのが記事のどの部分かわからないという問題は、先に触れたとおり、ナガセの回答によって解決した。その回答に基づき、各記述に関してナガセがどう言っているのか、どう解釈し、なぜ虚偽だというのかを、逐一検証していきたい。

まず、「本件記述①」からである。ナガセによれば、前文(リード)の部分すべてのことを指すらしい。

 「代ゼミ」が大リストラ(来年3月末で27校中20校を閉鎖、40歳以上に早期退職募集)に踏み切るなど少子化で苦しい予備校業界。「勝ち組」の東進ハイスクールは、「今でしょ!」の林修先生に代表されるスター講師の授業を全国にデジタル横展開することで躍進してきた。その授業は、ほぼ全てが人気講師によるDVDやネット配信によるオンデマンド講義で、首都圏の直営校だけでなく、同じ内容が全国に約900あるフランチャイズ校でも提供される。一見、合理的なチェーン展開にも見えるが、その現場は、教育分野の持つ理性的なイメージとは裏腹に、社員に過酷な労働環境を強いて本来支払うべき残業代を利益に換える“ブラック企業”が支えている面もある。「まるでニュースで聞く居酒屋チェーン店(※ワタミのこと)の様な職場だった」――新卒で、ある東進衛星予備校に入社後、連日深夜に及ぶサービス残業でタクシー代も自腹、給料が額面20万円未満という環境のなか、半年で鬱病と診断され退職を余儀なくされた元社員が、自身の体験を振り返り、病に至る経緯とその対処法を語った。

この「本件記述①」のうち、ナガセが虚偽だという「適示事実」は次のとおり。

 本件記述①は、他の記述部分と同じく、普通の読者の、普通の読み方によれば、上記記事には、あたかも通知会社(ナガセ社)が運営する東進ハイスクールや東進衛星予備校全体もしくはその多くがいわゆるブラック企業と称されている「ワタミ」と同じような企業であり、「ワタミ」と同じように残業代を支払わず、社員を低賃金で長時間労働させる違法行為を敢行する企業で、その過酷さのため新卒社員も半年でうつ病を発症するほどであるとの事実が適示されています。
 しかし、上記事実は、虚偽であり、本件記事は、通知会社の信用をいちじるしく毀損しております。

ReportsIMG_F20151103130614.jpg
都内駅前の東進ハイスクール

訴訟テロ予告①および訴訟テロ予告②でも触れたが、やはり、ナガセの「適示事実」には、疑問がある。「通知会社(ナガセ社)が運営する東進ハイスクールや東進衛星予備校全体もしくはその多く」とあるが、そんな読み方がどうしてできるのか。記事のどこをみても理解できない。

「本件記述」を検証する

続いて、「本件記述②」である。これはナガセによれば、本文の冒頭部分、フランチャイズ会社に入社した男性の体験記の部分だ

この先は会員限定です。

会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。

  • ・本文文字数:残り6,139字/全文9,894字

東京都武蔵野市吉祥寺のナガセ本社

公式SNSはこちら

はてなブックマークコメント

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

風の便り2015/11/07 12:53
訴訟マニア2015/11/04 18:37
四畳半2015/11/04 16:12
2015/11/03 21:55
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報

本文:全約10300字のうち約6500字が
会員登録をご希望の方はここでご登録下さい

新着のお知らせをメールで受けたい方はここでご登録下さい(無料)

企画「CMリテラシー」トップページへ
企画「オリコン言論弾圧訴訟」トップページへ
本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、info@mynewsjapan.comまでご連絡下さい。会員ID(1年分)進呈します。