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東電・労災隠し実名告発事件(上)――心身壊れる過酷な被災者賠償業務で鬱病発症も、「私病」扱いで解職を通告

情報提供
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東電で賠償業務の部署で、非常に難しい仕事を長時間つづけて鬱状態になった一井唯史氏。休職していたが、11月5日付で退職とされ、会社は労災と認めていない。手にしているのは、かつて社長表彰を受けたときの賞状。ツイッターで詳細を語っている。
 東京電力で被災者への賠償業務を担っていた社員の一井唯史氏(35歳)は鬱病を発症、産業医も加担して「私病」扱いとされ、傷病休職期間切れで16年11月5日付で解職となり、退職を余儀なくされた。原発事故後、東電社員=犯罪集団と白眼視されるなか、一井氏は、約600人から成る法人部門の賠償審査の実質トップとして睡眠時間3~4時間で複雑な賠償案件にあたり、適正な賠償額を支払えるよう努め、最高時の実質時間外労働は月160時間にのぼったという。心身喪失の果てに鬱病と診断され、13年9月から休職。労災扱いを求め続けたが、東電は応じなかった。そこで16年10月31日、中央労基署に労災認定を申立て、現在、審査中だ。被災者のために激務にあたった社員の労を認めず冷たく捨て去った東電の「都合の悪いことを封じ込めて隠す」企業体質について、一井氏がその経緯と現場の実態を語った。(労災認定申立書はPDFダウンロード可)
Digest
  • 内定した3か月後に原発データ隠しが発覚
  • 原発事故の賠償業務へ異動 実質的な“謝り部隊”
  • ノルマが2倍になり賠償の現場が混乱
  • 通勤時間が往復3時間半、新幹線通勤をする人も
  • 法人賠償の頂点に抜擢され危機に直面
  • 睡眠3時間半、休日も終日賠償の勉強
  • ”壊れる”一歩手前

内定した3か月後に原発データ隠しが発覚

2002年は、就職難の時代でした。上智大学文学部の史学科に在籍していた4月末、事務系の総合職正社員として東京電力に内定したのですが、「内定してよかったね」と率直に言われたのは、ほんの3、4か月でした。なぜなら02年の8月に、原発の検査データの改ざんが発覚したからです。

■東京電力、原発データ改竄・隠ぺい事件

 福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所、柏崎刈羽原子力発電所の原子炉計13基地において、1980年代後半から1990年代にかけて行われた自主点検記録に、部品のひび割れを隠すなどの改竄が29件あった。2002年に明るみに出、当時の南直哉社長や幹部が引責辞任した事件。

原発事故前は営業をやっていました。営業といっても、セールスというよりはメンテナンスと言ったほうがいいでしょう。停電を処置したり、電気料金の検針や料金の督促などの現場業務を経験した後は、本社や支店で現場部門を総括する立場で働いてきました。

原発事故の前年、2010年3月には「社長表彰」(写真参照)をもらいました。当時は埼玉県内全域の営業所をまとめる埼玉支店にいましたが、支店営業部での社長表彰取得は異例のことでした。組織全体を見直して大きな業務改善に繋げたことが評価されて清水元社長から表彰されたのです。

以前の業務の流れは、たとえば「停電してしまったのですが」とカスタマーセンターに電話が入ると、作業員が停電対応に行ってその結果を持ち歩いている機械に入力します。

このように、現場で作業員が機械を使って作業結果をデータ化しているのに、そのあと行程で、データ管理部署の社員がデータ反映を行っていたのです。再入力の二度手間でした。

①カスタマーセンター ②現場作業員 ③事業所での結果入力と三つに分かれて一連の作業をしたことになりますが、全体的な仕事の流れと部門間の連携を考えてルールを位置から見直しました。

作業員がどのように作業データを登録すれば、再入力の二度手間を省けるかを考えて、事業所内での結果データの反映ルールから逆に追っていきました。

このように全体的なことを意識して縦割りの組織のルールを変えて仕事を行うと、東京電力は非常に規模が大きいので効果は大きくなります。これらの改善を通して、全体最適を考えて組織運営を行うことが重要だと改めて認識させられました。

原発事故の賠償業務へ異動 実質的な“謝り部隊”

事故から約半年が経って賠償業務が開始されるということで、賠償の第一陣として「産業補償 協議第8グループ」への配属が決まりました。東京の日野市にある研修所内にコールセンター用の電話機を置いて、審査された内容や金額に納得していただけない方からのお問い合わせを受ける係を行いました。

賠償が開始された頃は、審査する係と、審査結果についてのお問い合わせを受ける係とに分かれており、私は法人関係の審査結果のお問い合わせ窓口に配属されて、被災された個人事業主や企業からの疑義の電話を受けていました。

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一井氏は3か所で賠償に関係する業務に従事した。部署が変わるごとに内容が高度になり、役職の範囲を超えるハイレベルの業務を遂行しなければならなかった。

「協議」とは名ばかりで審査の内容や金額の変更権限を持たない部署なのです。そのため、ご納得いただけなくても、とりあえず謝るしかありません

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疲労困憊になっていたことを示すメールのやりとりの一部。

異常な長時間労働がつづいていた。

現場のチーフリーダーや同じグループ内の社員も過重労働を認識していたことを示すメール。

鬱状態になったのは労災ではないかと一井氏は会社にメール等で何度も問い合わせてきたが、およそ2年間も会社は無視してきた。休職期間満了間際になって、「職場復帰支援」の適用対象にもされず、結局は献身的に働いた社員を捨てた。

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コアキャッチャー2016/12/28 21:09
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