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【内側から見た東芝】半導体メモリー事業のキャリア採用社員が分析する“ドМないい人”カルチャーと不正を生む構造――みんな上司しか見てない、「成功したこと」にしてしまう…

情報提供
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キャリア採用で中途入社しメモリー部門に在籍するインタビュイー
 2016年半ばに粉飾決算発覚後の混乱やリストラにメドがついたと思ったら、年末になって今度は米国の原発事業で7千億円超の巨額の隠れ損失が表面化、2017年3月期は1兆円超の最終赤字見通しで債務超過転落が決まった東芝。それでも2018年3月期ボーナスは昨年より上積みされ「最低でも年2.5カ月分」で妥結(2017年3月22日)し、来期入社の新卒採用も再開するなど、国策依存の巨大企業らしく、危機感はみられない。4月1日付で分社化した「東芝メモリー」の売却益で復活を見込む。だが不正を生む企業カルチャーは、人が入れ替わらない以上、変わるものではない。他社から中途採用でメモリー部門に入社した“外様”の中堅社員(理系・院卒技術者)は「この会社は感覚がズレており、不正は再発する」と分析する。外部の視点で、「内側から見える東芝」の現状と問題点を聞いた。
Digest
  • 会社分割で、東芝メモリーに
  • 面談2回で新会社に自動転籍
  • 技師長を通さないと進まない
  • 『東芝を変えてゆく7つの心がけ』
  • 「政治力に長けた無能」が出世しやすい構造
  • 感覚がズレてる、とにかく甘い
  • 向いているのは「与えられたことをやる人」
  • 提案力がない下請け部品メーカー
  • 半国策の「インフラ企業向け下請け技術者集団」

会社分割で、東芝メモリーに

私は4月1日付での分社化が決まった「東芝メモリー」約9千人のうちの1人で、既にマジョリティーを売る方針が決まっているので、会社の目論見どおり進めば、事業と一緒に売却され東芝の社員ではなくなる身です。メモリー事業は好調で、去年半ばまで「原子力と半導体メモリーの2本柱で行く」と経営陣が宣言していましたから、想定外の展開に驚き、怒り、呆れています。

「東芝メモリー」の概要。ストレージ&デバイスソリューション社のなかでフラッシュメモリーとSSDの関連部署だけを分社化。

東芝は、全体では大卒総合職の9割超を新卒採用からの生え抜き社員が占めている感じですが、フラッシュメモリー事業は長らく好調で事業拡大してきたため、他社からの中途採用も「キャリア採用」という名で断続的に実施しており(2017年4月現在もDODA等で約20件の職種を募集中)、私も、その流れで入社しました。大量にいる中堅社員の1人です。(※理系院卒技術者で、社会に出たのは就職氷河期以降。特定を避けるため年齢は明示しない)

東芝よりも他社に勤務していた時期のほうが長いので、東芝のカルチャーには染まっていないつもりです。むしろ、強い違和感を感じています。

思い起こせば、東芝への転職活動では、面接2回だけですんなり決まり、正直、「ある程度、ここで落ち着こう」と考えて東芝に来たのに、こんなことになってしまって…。このままだと私は外資に売られるわけですから、皮肉なものです。

1兆5千億円とも2兆円とも見込まれる東芝メモリーを売却することで東芝本体は生き延びるでしょうし、去年凍結した新卒採用も2018年4月入社分から再開していますので、今後、東芝で働くことを検討している人たちに向けて、東芝の企業カルチャーの特徴や問題点について、他社での勤務経験がある私の視点から、体験ベースでお伝えしようと思います。

面談2回で新会社に自動転籍

東芝メモリーへの移籍における労働条件の変化(労組資料より、詳細は記事末尾PDFの①参照)

まず直近で起こっていることですが、東芝メモリーの設立とその会社への転籍について、今年の2月中旬に、上長との個人面談がありました。その後、新会社の株式の大半を売るという報道があってから、3月上旬に、もう1回やりました。

どちらも内容は同じようなもので、「雇用条件は新会社になっても何も変わりません」という、形式的で一方的な説明でした。

何らかの意思表明や選択を求められたわけでもなく、サインも求められません。あれは何だったんだろう、という感じです。

会社分割では、このように、ごく簡単な説明だけで、社員が新会社に自動的に転籍させられてしまいます。そして、新会社ごと、社員も一緒に、外資に売却されることが、ほぼ決まっているのです。

この形式的な説明は、法律に従って行われているようだ。労組も「会社分割にあたっては、労働契約継承法に基づき労働契約を継承することから、従業員の個別同意は取得しない。なお、同法の定めに基づき、個々の従業員全員への説明や通知を行うとともに、必要な対象者に対しては異議申出手続きを実施する」(TOSHIBA UNION配布資料より)と解説している。

2001年4月の商法改正で創設された会社分割制度と、同時に施行された「労働契約承継法」が利用される場合、「主従判定」が行われ、その事業に主に従事している社員は、事業と一緒に分割され、本人の同意は必要とされなくなった(本社など共通部分に所属する者のみ異議申し立てはできる)。

これにより、従来の営業譲渡や事業譲渡(社員の身分が守られ、転籍させるには同意が必要)に比べ、経営側にとって不採算事業の売却といった事業の売買がしやすくなった。同時に、社員は事業もろとも他社に売却されやすくなり、身分は不安定になった。

東芝メモリーのケースでは、メモリ事業、SSD事業に従事していると判定された従業員が、①直接該当する組織のなかで、8,240人。直接の対象部門(メモリ事業部、SSD統括部、四日市工場、先端メモリ開発センター、イメージセンサー統括部、MRC)のうち、対象外となったのは45人だけだった。

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東芝に「残る人」と、「売られる人」。東芝メモリーに分割される社員の部門別人数(詳細は末尾PDFの②参照)

②共通部分(本社のスタッフ部門や営業など)では、2,018人中、新会社継承が570人、対象外が1,448人と分別された。

①と②の合計で、8,810人が新会社継承、すなわち「本体を救うために外資に売られる要員」と判定されたことになる。

勤務地別でいうと、対象者(①)のうち、技術者は大船がメインで、工場が四日市に集積している。詳細は左記の通りで、「大船分室」(横浜市栄区、大船駅から徒歩5分)に計1,703人、三重の四日市に計6,156人(うち技術者が887人)もいる。本社(浜松町)は256人。以上が、部署として主対象となった組織の人たちだ。

これ以外(②)に、本社(浜松町)や小向(川崎市幸区小向東芝町1番地、中央研究所等がある)にいる、カンパニー共通スタッフや営業、技術者など共通部門(2,018人)のなかから、570人が「新会社の運営に必要となる」として、東芝メモリーに分割された。総務人事畑だが、たまたま半導体メモリーを担当していた、といった人などだ。

 吉と出るか凶と出るか、運命の分かれ道。売り先によっては「外資に移籍となってよかった」という人も出てくるかもしれない。

経営陣の責任で不正会計が起こり、ボーナスを大幅に減らされ、半導体とは全く別事業である原発の隠れ損失発覚(減損)で自分たちが事業ごと外資に売り飛ばされようとしているのに、現場の生え抜きの東芝社員たちがきわめて大人しいことには、驚いています。

※東芝は、2015年7月の第三者委員会による調査結果報告で、2008年度~2014年度に、営業利益で計1518億円の利益水増しがあると指摘、下方修正を実施した。つまり、新卒・中途とも、利益が実態よりも水増しされたBS/PLを見て入社している社員が多数いることになり、“求人詐欺”で損害賠償に発展してもおかしくない。

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2016年冬ボーナスのカンパニー格差。カンパニー業績×5段階の個人査定(S~B)で差がつく仕組み。夏のボーナス(2016年7月支給)含め、詳細はPDF参照。

それでもなお、社員が文句を言っている場面に、ほとんど遭遇しないのです。これが東芝のカルチャーなんだ、と思います。

上から「何も変わりません」と言われているので安心しているようですが、外資に売却された後は、買い手が同業他社なら事業統合にともなう重複部分のリストラがあるでしょうし、給与制度も親会社の成果主義体系に合わせて、東芝のような年功序列ではなくなる可能性が高いでしょう。

「(売却先が)キヤノンだったらいいね

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インタビュイーの2016年源泉徴収票。前年に比べボーナスが半減した影響が大きい。(詳細は末尾PDFの③参照)

国別の海外出張日当支給額(見直し前・見直し後)。詳細は末尾のPDF参照。

東芝のキャリアパスと報酬水準(詳細はPDF④参照)

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shunmiopapa01192017/04/21 10:30

後で読む。東芝。分社化。待遇。社風。技術者中途。

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まつもと2017/04/18 01:30会員
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