「上司の暴力で鬱病」労災認定で病気休職中の社員を労基法無視して解雇した、「みなと銀行」の横暴体質
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上司の暴力が原因で鬱病を発症、労災認定を受けて休職中に解雇された「みなと銀行」元社員のAさん。労基法19条違反の違法な解雇だとして裁判をおこし、争っている。 ※原告代理人・横瀧洋弁護士ほか。被告(みなと銀行)代理人・井口寛司弁護士ほか |
- Digest
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- 監視カメラがとらえた上司の暴力
- 暴力のきっかけは上司自身のミス
- 上司は現役キックボクサー
- 「口止めを指示されました」
- 急性ストレス障害をこじらせる
- 「業務上疾病」と労災認定
- 労災補償金の給付中に解雇の暴挙
監視カメラがとらえた上司の暴力
大阪市内に住む男性Aさん(49歳)が長年勤めてきた「みなと銀行」から解雇予告通知を受けたのは2018年3月のことだった。折しも病気休職中で、労災給付金を受け取っていたAさんは、驚きを通り越してあきれかえったという。弁護士に相談すると、こう説明された。
「あきらかに違法な解雇です」
そして、すぐに解雇無効を訴える裁判を大阪地裁に起こした。
Aさんがあきれたのは、ここ2年の間に起きたさまざまな出来事を振り返っての率直な感想だった。ことの発端は2016年にさかのぼる。
みなと銀行は旧阪神銀行と旧みどり銀行(旧兵庫銀行)が合併して1995年に設立した。Aさんは1994年、阪神銀行行員として入社した。以来20年以上まじめに勤めてきた。その、文字どおり半生を預けた会社で、2016年3月29日、事件に遭遇する。
職場で仕事をしていた最中、直属の上司にあたる班長から、両襟を強くつかまれるという暴力を受けたのだ。
事件があったのは、この日の午前8時過ぎ、場所はAさんの勤務先である「融資事務センター」(神戸市北区西神中央)だった。職場の天井に設置された監視カメラが、状況を生々しく捕らえていた。
――事務机がいくつも並ぶ広い職場で、20人ほどの行員が机に向かって事務作業をしている。画面左端の机の列にはコンピュータ端末が5~6台見える。手前から3台目の端末の前に座る男性が、Aさんだ。
Aさんは端末を操作している。一席おいて隣の(画面左手前)女性社員と短く言葉を交わしたようにみえる。
と、画面に向かって右手から背広の男性が、Aさんらの席に大股で歩いてきた。背広の男性は不機嫌そうな表情をしている。男性はAさんの席のすぐ脇までくると何か話しかけ、きびすを返すように戻りかける。だが、すぐにまた体を反転させてAさんのほうに再び向かう。そして両手でAさんの背広の襟をつかみ、持ち上げるような動作をする。相当力が入っている様子で、Aさんの体が椅子から持ち上がりかけている。
すぐ横で作業をしていた男性社員が、驚いた表情で、背広の男性の背に手をあてて制止している。周囲のほかの社員らも心配そうに見ている。
1-2分の後、男性はつかんでいた手を離すと、大股歩きで立ち去っていく。女性社員がなだめるように男性のほうに手を出すが、興奮しているのか取り合わない。
やがて何人もの社員がAさんの席付近に集まり、職場は騒然とする。――
暴力のきっかけは上司自身のミス
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Aさんが上司(B班長)から暴行を受ける瞬間(訴訟に証拠提出された銀行のカメラ映像より)。![]() |
映像に音声は記録されていないが、Aさんによれば、ことの顛末は次のとおりだ。(引用する会話はAさんの記憶にもとづく)
「この日の午前中、私は融資の入金処理をするために、共用パソコンに座り、自分のIDでログインしようとしました。ところが直前に使用したB班長(50歳後半)のIDのままになっていることに気づきました」
「またか」とAさんは内心あきれた。B班長がログアウトをし忘れるのは一度や二度ではなかったからだ。
共用端末を使って離席するときは、たとえ短時間であってもログアウトせよ――というのが銀行内の厳格な規則だ。そうしないと誤操作や情報漏洩などの事故が起きてしまう。だれもがわかっているはずの基本手順なのに、B班長はいっこうに学ぼうとしなかった。
あきれながら、Aさんは自分のIDで端末に入り直す操作をやろうとした。ところが、うっかりキー操作を誤ってしまう。そしてその様子を、一席あけた隣の席にいた女性のC社員が見て、こう言った。
「入力方法が違うだろう。ほんまに。そんなこともわかってへんのんか」
C行員はAさんの後輩にあたる。しかし口調は乱暴で、声も大きかったという。そのモノ言いにカチンときたAさんは、思わず言い返した。
「他人のことよう見とるなあ。朝から。だまっとけ」
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みなと銀行本店(神戸市)![]() |
上司は現役キックボクサー
B班長が席を立ったのは、このやりとりの直後だった。
「朝から何をごちゃごちゃ言うとるんじゃ」
大きな声を出しながら共用端末の席に方に歩いてきた。てっきり、最初に大声を出したC社員を注意するものだ、とAさんは思ったという。
ところがB班長はC社員の席を通り越して、Aさんの横までやってきた。そして感情を爆発させるように怒鳴った。
「ごちゃごちゃ言うんだったら(仕事を)するな!」
Aさんはショックを受けた。こんなにひどい言われ方をB班長からされたことはこれまでにない。理不尽だという思いが募った。
(Bさんの失敗から生じたことにもかかわらず、なんでこんな怒られ方をしないといけないんだ・・・)
怒鳴り終えたB班長は、Aさんに背をむけて自席に向かって歩きはじめていた。面白くない気分のAさんは、ついひとりごちた。
「かっこええ、カウボーイが」
自分のミスを棚にあげて、カッコつけるんじゃない――という趣旨のAさん独特の言い方だった。
ひとりごとのつもりだったが、B班長は聞き漏らさなかった。反射的に振り返り、Aさんのもとに再び近づくと、やおら両手で襟首をつかんだ。そして上から顔を近づけると、激高した形相ですごんだ。
「お前、ほんまにやってもうたろか」
Aさんが振り返る。
「殺気を感じました。殴られると思いました。すごい強い力で、当時100キロくらいあった体が持ち上がりました。首に痛みを感じました」
力が強いのは当然だ。B班長はアマチュアながら現役のキックボクサーだった。企業間の大会に出場して勝ったこともある。また、マラソンもやっている。Aさんより年配だが、スポーツマンなのだ。
なお、暴行の加害者となったB班長は、後の労働基準監督署の聴取に対して、年度末で忙しく、いらいらしていたところ、A氏の一言にカチンときて自制心を失った、と供述している。また、暴行の引き金となったAさんの一言については、「なにもようせんくせに、えらそうに」と聞こえた旨述べている。
「口止めを指示されました」
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みなと銀行は、労働基準監督署の労災認定が誤りであることの確認を求める調停を、労働基準監督署ではなく、Aさんを相手どって申し立てた。意味不明というほかない。![]() |
デスクワークをしている社員の襟首を突如上司がつかんですごむ。そんなことが起きる職場というのは、「ブラック職場」といわれても仕方ないだろう。しかし、それでも会社側が常識的な対応をしていれば、Aさんとすれば、ことを荒立てるつもりはなかったという。
事件直後に上長らがみせた態度は、とてもまっとうな会社のものとは思えなかった。Aさんの身を案じるどころか、「口止め」をされたというのだ。
Aさんが証言する。「職場の長であるセンター長に食堂に呼ばれ、こう言われました。病院に行かないでくれ、警察にも行かないでくれ。誰にも口外せんとってくれ
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Aさんの鬱病が業務上疾病であることが明記された労働基準監督署の書類。
労災給付金から休職中の補償を受け取っていたさなかにAさんに送りつけられた「みなと銀行」の解雇予告通知。解雇は違法であるから中止するよう弁護士を通じて警告したが、60日後、解雇を強行した。
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読者コメント
みなと銀行に限らず、この類の不祥事が頻発していることがこの業界の未来の無さを物語っている。
記者からの追加情報
「(前略)現在訴訟手続で係争中であるため、大変恐縮ですが、回答を控えさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます」
2018年11月30日、筆者追記
本文:全約6300字のうち約3500字が
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