「金はないがやる気はある」人向けドイツMBA――インターン、卒業、そして就活の、しんどい現実
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- 企業に勤めながら論文を執筆する欧州型インターン
- 具体的な募集要件を一つ一つ満たす必要あり
- 履歴書・カバーレーターの書き方「完璧なドイツ語が必須」
- 電話インタビューだけで採用決定も
- 「フリーランス的なコンサル」で英文レポートを作る雰囲気
- 年齢的に「これでいいのか」と思う葛藤
- 解雇の可能性、無期限休暇など厳しい面もある現実
- 同級生の励まし「我々は同じ船に乗った仲間」
- インターン→直接雇用にはならないパターンが多い
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- 60社応募して2社Face-Face面談の確度「俺はラッキーだ」
- 求職ビザの発効・ビジネスレベルのドイツ語準備
- 高度専門職の外国人採用の壁
- ドイツに生きるアフガニスタンの青年との話
〜インターン就活編〜
企業に勤めながら論文を執筆する欧州型インターン
筆者のMBAでは、1学期・2学期が座学中心の講義で、3学期からはインターン生として企業に所属しながら、そこで問題解決型の論文を執筆することが義務付けられている。
3学期目の科目は、CPR(Corporate Project Research、企業内の問題分析を主とした論文)、MT(Master Thesis:企業の問題解決とその評価・実行案の論文)、Colloquium(口頭試問・プレゼンテーション)、の3部から成り立っている。
筆者は2018年3月ごろにMasterarbeit(論文執筆に特化したインターンシップ)での採用に焦点を当てて就活を行い、2018年4月にPraktikum(インターンシップ)採用として内定をもらい、2018年8月から2019年1月まで、ドイツ大手メーカーであるRobert Bosch GmbHの、IoT関係の分野に特化したBosch Connected Industryという組織に在籍した。
そこでは、2本の論文(CPRとMT)を執筆し、2月に口頭試問(Colloquium)を終え、2月12日に「通過」の結果を受けて、2月22日に卒業式を迎えることができた。
インターンシップ生とはいえ、Robert Bosch社とは雇用契約書を交わしているため、そこでの業務内容は一切、記載することはできない。しかし、日本人としてドイツ企業で働くこと、修士論文を企業に所属しながら苦労する点、それを乗り越える点について、示唆を与えるつもりで記載したい。
「企業に所属しながら論文を書く」と言うのは、聞きなれないものであると思われるかもしれない。一般的に、米国のMBAでは論文執筆が卒業の必須条件となっていないところが多い。
しかし、ドイツのMBAは「修士課程」の一部で、ドイツの修士課程は論文執筆が義務となっているのが大多数である。その論文は、会社の上司である"Indusry supervisors"と大学側の教授や講師である"First examiner"の2者によって評価される。
さらに、その論文執筆もインターンシップとして企業で働きながら論文を完成させるMasterarbeitという形式を取ることが多い。これは修士課程だけでなく、学士でも、博士でも、このような形を取るのがドイツでは大多数である。
日本で「インターンシップ」というと、就職活動中の学生が「企業体験」とする程度のものが多く、1日だけ模擬プロジェクトを行ったり、長くても2〜3週間程度の期間で就業体験をする、というものが多いようである。筆者が就活をしていた2006年ごろでも、大手企業のインターンシップは短期のもので、長期でやるものでもベンチャー企業でバイト社員が仕事を任される、というものぐらいしか聞いたことがなかった。
参考:日本のインターンシップリンクhttps://internship-career.com/
しかし、ドイツでのPraktikum(インターンシップ)および、Masterarbeit(修論執筆の就業インターン)は、半年ほどの、普通に期限付きの非正規雇用的な社員として仕事を行うことが一般的である。中には、大学内でのプログラムの一環で、2年もインターンとして働き、その後、大学に戻って勉強を再開するという学生も目にしたことがある。
実際に筆者は、2006年に日本的な一括採用の新卒就職活動を経験し、さらにドイツのインターンシップの就活の双方を経験しているので、現場にいながらそのメリット・デメリットを感じることができた。現場での苦労や、それを乗り越えた点を記述していく。
まずは、ドイツの就活とは、どのようなものなのか。日本の就活・転活とどう違うのか、について説明したい。
具体的な募集要件を一つ一つ満たす必要あり
ドイツ就活について日本と異なり、かつ注意しなければならないところは、「採用にかなり慎重である」ことと「募集要項が厳密に一つ一つ合っていなければならない」というところである。
日本の新卒採用の場合、学生はポテンシャルで採用されることが普通にあり、学生時代に打ち込んだことを元にストーリーを自分の言葉で語れるか、組織とのフィット感があるか、などを見ていると、筆者の経験から言える。しかし、ドイツでは提示した募集要項が厳密に一つ一つ合っているかを書類で見る。
例えば、シュツットガルトで人気企業であるポルシェ社の、さらに華やかそうな「戦略マーケティング」のインターンシップの要件はどうなっているのか。
・経済学、産業工学、ビジネス情報学または同等の学位プログラムを学ぶ人であること。
・理想的にはここが初めての実務経験であること。
・自動車業界に関する優れた業界知識および独自に自動車への親しみがあること。
・MS Office、特にExcelとPowerPointが十分に使えること。
・英語が流暢であること。
・独立した分析かつ効率的な働きができること。
・チームとのコミュニケーションスキルがあること。
・柔軟性があること。
・開始期間:柔軟に対応
・インターン期間:3-6ヶ月
大学の学問の指定がはっきりと述べられており、文学部か法学部でマーケティングに興味があるという学生が応募しても、まず学部ではねられてしまう。
日本の様な「文系学部出身のプログラマー」というのは、ドイツではまずあり得ない。ドイツでプログラマー職となると、大学でInformatik(情報工学)か経営学と情報工学をどちらも学ぶ学部で学問を修めようとしている人でないと、まず就くことはあり得ない。
筆者の知り合いで慶應大学の文学部を卒業してJavaのプログラマーをやっている知り合いがいるが、その様な事例をドイツに目にすることはない。
さらに参考までに、同社のインターンシップではない、中途採用の「シニア・デジタルマーケティングマネージャー」の募集要項は以下のとおりである
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ドイツ語による"Anschreiben"と呼ばれるカバーレター(志望動機書)のサンプル。WecomeCenterStuttgartでもらったもの。カバーレターというのは日本にはあまり無い見られれないスタイルであるが、日本で外資系企業を受ける場合は、英語でのカバーレターの提出を求められることがある。(もらったサンプルを元に筆者がアレンジしたもののリンクを本文中に記載してます)
ドイツ企業・大学でよく見られる「ワークショップ」について、"CustomerJournayMaps"というマーケティングのフレームワークを使ったワークショップの一例の画像。ヨーロッパで「ワークショップ」というと、こういう大きめの付箋紙をボードにぺたぺた貼りながらする作業を指す。筆者は大学のみならず、会社でもこのようなワークショップの様子を多々見た。ヨーロッパ人が好む手法であると言えそうである。出典はflickerより。
筆者の大学による論文の評価シートを筆者が日本語訳したもの。アカデミックな客観性を求められる修士論文の評価の割には、ややざっくりした評価項目となっている。同級生と話をすると、ただ単に論文の内容だけでなく、スーパバイザーとの相性によって評価はなんとでもなるということを感じ取った。ドイツの学問の場では物事を厳密な客観性で決めるイメージがあるが、実際にはそんなことは無く、評価者の好き嫌いが加味されることが結構あるということをドイツ人から聞いた。「日本の筆記試験だけで決める入学試験制度が羨ましいと思う」と言われたこともある。
WelcomeCenterSuttgartの要点は「1.ドイツ語をビジネスレベル(最低でもB2)までにあげること」「2.会社情報を事前によく調べておきカバーレターを書き、面接に臨めるようにする事」「3.自分の強みおよびなぜ自分が採用されるべきかを明確にする」であった。移民の受け入れで長年の経験があるドイツでは、まず移民にしてもらうことは実務上でドイツ語を使えるようになることである。ドイツでも苦労することがあるが、日本で高度専門職の外国人採用はどこまで進められているのかふと疑問に思った。
在日ドイツ大使館のEUブルーカードについて説明サイト。EUブルーカードとは「Uの高資格外国人労働者新指令に従い、EU加盟国から発給される滞在許可証」のことを指す。昨年では今年の最新情報を。ドイツの役所関係の情報は年度、地域、さらに担当者によって違うことが多々あるので、実際に役所に自分の足で赴いてドイツ語でしっかりとチェックをしないとプロセスを進めることができないことに注意すべき。ドイツ本国の英語説明サイトはここ。
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