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「基地局の設置で、子供が電磁波に直撃される」フィンランド人女性がKDDIに悲痛な訴え、住居の真上で工事中

情報提供
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上:基地局を設置している作業員
下:自宅のバルコニーから基地局を見上げる子供
「バルコニーで2人の子供が遊ぶので、基地局が設置されると子供が電磁波の直撃を受けます。近くには小学校や老人ホームもあります」(クリスティーナさん)
 新世代の公害として化学物質による被曝とともに挙げられているのが電磁波による被曝であるが、人体への悪影響は、通信会社による巨額の広告宣伝費もあってほとんど大衆への認知は進んでいない。2018年11月、米国・国立環境衛生科学研究所の一大プロジェクト「NTP(国家毒性プログラム)」が、ラットの実験でマイクロ波(スマホ等の電磁波)に発がん性が認められたとの研究結果を発表するなど、専門家の間では明らかになりつつある。そんななか今年2月、KDDI(au)は川崎市宮前区で住民の強い反対を押し切って、住居の真上に通信基地局を設置する工事を開始した。苦情を訴えているのは、フィンランド出身のクリスティーナさん、2児の母親である。北欧では基地局を住宅の近くに設置することはなく、KDDIのやり方に暴力を感じている。5G元年となる2020年、基地局設置の現場では何が起きているのか、リポートした。
Digest
  • 北欧の常識から日本を見る
  • 「フィンランドでは、住居の上に基地局は設置しません」
  • ペンディングを勝手に白紙に
  • KDDIによる説明会
  • KDDIの断固たる基地局設置の方針
  • 電磁波とは何か?
  • 電磁波の種類
  • 電磁波問題の争点
  • KDDIの主張と米国国家毒性プログラムの最終報告
  • ドイツの疫学調査
  • 視覚できないから危険な電磁波
  • KDDI広報部の見解

国際的な非難の的になりかねない、事件の現場である。読者には、まず次のユーチューブ動画に録音された機関銃のような爆音を視聴してほしい。言葉で描写するより、実音の方が事実が伝わりやすいだろう。


(工事が始まってから、室内エアコン下の壁に亀裂が発生。電磁波だけでなく、建物が基地局の重量に耐えうる強度がない可能性もある=左下写真参照)

携帯電話・スマホの基地局の設置をめぐる住民と電話会社のトラブルが、断続的に起きている。1990年代半ばから始まり、5G普及が始まった現在、電磁波問題への関心が一層高まって、基地局問題の新しい波が押し寄せてきた。

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基地局設置工事の期間中に、室内の壁に亀裂が入った。ドリルによる作業が原因である可能性が高い。基地局の重量が建物にダメージを与えている可能性もある。

KDDIと住民の間でトラブルが発生していると聞いて、2020年2月3日、わたしは神奈川県川崎市へ向かった。目的地は、宮前区の小高い丘の頂上にあるマンションだ。

東急田園都市線の「たまプラーザ」駅で下車して繁華街を抜け、住宅街の中の急な坂道を登っていくと、大小の積み木を散りばめたような街の光景が眼下に広がる。静かな住宅環境と都会の利便性を求める住民には理想的な居住地である。小学校や老人ホームもある。

KDDIとのトラブルに巻き込まれているAさんと妻のクリスティーナさんの住居は、7階建てマンションの最上階にある。KDDIがAさん夫妻の住居の真上に基地局の設置工事を進めているのだ。KDDIは、基地局の仕様について、4Gの基地局だと住民に説明しているが、わたしは5Gの可能性が強いと思った。

というのも、KDDIのウエブサイトに「今後、全国における5G商用基地局の設置を順次開始します」(2019年9月30日)と明記され、日経新聞(2019年10月1日)も「基地局は22年3月末までに1万622局を設置し、24年3月末には5万3626局まで増やす計画」と報じているからだ。

当然、新設される基地局が、5Gの運用を目的としたものではないかという疑惑が浮上する。この点について、KDDIの広報部に問い合わせてみたところ、次のような回答があった。

基地局建設の契約に関わる事項となりますので、回答は差し控えさせていただき ます。住民のみなさまに対し、適切に対応をしていきます。 (詳細は後述)

人間の神経細胞は、微弱な電気で制御されている。その人体が電磁波を被曝すれば、当然、体が反応する。昔はエネルギーの低い電磁波を受けても、人体影響はないとされてきた。危険な電磁波は、原発のガンマ線やレントゲンのエックス線など、放射線とよばれるエネルギーの高いものだけだと考えられてきた。

しかし現在では、エネルギーの大小にかかわらず電磁波には、遺伝子を傷つける働き、つまり遺伝子毒性があるとする考えが主流となり、それが欧州での常識ともなっている(これに関しては後述する)。

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KDDIの基地局設置を納得していないクリスティーナさん。子供への人体影響が最も心配だという。

北欧の常識から日本を見る

Aさんは外資系企業に勤務する。欧米での生活を経た後、2009年にローンを組んで現在のマンションを購入し、川崎市に定住した。妻のクリスティーナさんは北欧・フィンランド出身で、自宅でインターネット関連の仕事をしている。

欧州では、電磁波問題は公害として当り前に認識されている。そのため、強引に基地局設置に暴走するKDDIの方針は、クリスティーナさんにとっては暴力的に感じられたようだ。

外国の人を取材する場合、わたしは自分が日本人であることや文化的な違い、あるいは民族的な違いを意識する。欧米の基準に立って日本の基地局問題を注視したとき、人命よりも経済を優先する電話会社の論理を、恥ずかしいと感じた。かつて日本企業が海外でエコノミック・アニマルと呼ばれ批判の対象になった時代があるが、わたしはフィンランド人を巻き込んだこの基地局問題を通じて、グローバリゼーションの中での企業コンプライアンスについて再考した。

工事が始まった1月28日のことをクリスティーナさんは、次のように話す。

「午前10時ごろでした。機材を搬入するためのクレーン車が来ました。近くで別のマンションの工事が行われているので、わたしはその作業に使うためのクレーン車だと思っていました。ところが、いきなり機材の搬入が始まりました。すぐ窓の外をハコのようなものが吊り上げられていきました。それからいきなり地響きするようなドリルの爆音が始まったのです。ものすごい音でした」

「フィンランドでは、住居の上に基地局は設置しません」

工事の告知は行われていたが、実際にどのような作業が行われるのかAさん夫妻には見当がつかなかった

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工事の一時中止の約束が交わされたにもかかわらず地上で基地局設置の作業が行われていた。

電磁波・放射線の分布図。エネルギーが高いものとしては、原発のガンマ線がある。低いものは、電線などの低周波電磁波など。

調査対象の件数は、7044件。基地局から100メートル単位で、癌による死亡者数を調べたところ、基地局から離れるほど死者数が減っていくことが判明した。本文参照。

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