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「東進」は5億円返せ!被害者が告発する“FC経営権&株式譲渡詐欺”の手口――詐欺師を加盟させたナガセの責任とガバナンス崩壊

情報提供
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左:「東進」38校を経営する会社を倒産させた柏木秀信氏
右:5億円を踏み倒され、ナガセの責任を問う望月光洋氏
(株)ナガセのFC「東進衛星予備校」を38校経営していたモアアンドモア(柏木秀信社長)が、約50億円の負債を抱え2017年に民事再生を申請し、倒産。その創業時より資金繰りに協力し、個人で16年にわたって総額5億994万円を貸し付けたのが、望月光洋氏(73歳)だった。倒産で、戻ってきたのは弁済金2512万円だけ。だが、モア社が資金繰りに行き詰まった2016年には、担保だった3校の経営権とモア社の全株式の譲渡を受ける「譲渡証」を受け取っていた。執行されれば、株主の権利で代表取締役をすげ替え、民事再生を申請しないこともできた。ところが実際には口先と書面だけで、株主移転は実行されず。実は、この「経営権」や「株式」を担保と偽って資金を拠出させる手口は柏木社長の常套手段で、ほかにも複数の被害者が存在することがわかった。
Digest
  • 共同経営を目指していた
  • 「株を渡す」「経営権を渡す」と嘘をついて資金集め
  • 詐欺に遭わないために確認すべきこと
  • ナガセから「自己破産するしかない」と通告
  • 「借金だけを取り除く」ずるい考え方
  • ナガセに差し押さえが入り…倒産の攻防
  • 藤本勝也弁護士から受任通知書…断末魔のあがき
  • NSGグループに事業譲渡するオプションも
「まさか『東進』が倒産するなんて思ってもみなかったです。詐欺に遭いました。柏木と東進ブランドを信用した私も甘かったが、詐欺師をFC加盟させ監査を怠ってきたナガセにも、詐欺の片棒を担いだ責任がある。5億円返して貰いたい」――そう憤る望月氏に、被害に至った手口について詳しく聞いた。

共同経営を目指していた

「5億円も貸したのに、私が得た利益は、『淵野辺校』の利益の40%分だけ。なぜそんなに貸したのかといえば、私はずっと中高受験の学習塾を経営していて、大学受験の予備校もやりたいという意欲があったからです。息子たちには予備校もやらせたい、と。だから柏木と共同経営できれば、と思っていました。民事再生なんて、全く想定していませんでした」(望月氏)

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淵野辺事業 出資契約書

そこに、まんまと付け込まれた。この「淵野辺校」というのは、モア社の創業5年目にあたる2005年に開校した東進衛星予備校「淵野辺校」のことで、まだ4つめの校舎だった(倒産時38校)。望月氏は、1千万円を「出資」し、三男を校舎長に据え、生徒募集のチラシ配布は望月氏が経営する塾の講師が引き受け、利益は6:4で分け合う、という契約を結んだ(右記の通り)。

出資といっても、校舎別に法人化しているわけではないので、擬似的な校舎別損益だった。この投資は、結果的に成功した。毎年、200万円程度が振り込まれ、5年ほどで元本を回収。倒産までの10年間で、計2千万円ほどの分配金になった(※最終年は未回収)。年利にして20%程度は、悪くない。三男への給料は別途支払われ、途中から(2009年7月から)モア社の取締役に就任している。『東進』がビジネスとして儲かることが、よくわかる。

ただ、元本の1千万円は倒産によって貸し倒れ、前述の債権5億994万円の一部となり、ほとんど返ってこなかった。この出資契約を単体でみたら、1千万円を出し、2千万円を得て、最後に元本の1千万円を失ったので、プラス1千万と、リスクに応じたベネフィットを得ている。お互い了承済みの、2者の民間契約である。

ただし、これが既に、違法状態ではあった。ナガセはこの出資契約について、「モア社に承諾を与えた事実はありません。また通知人(注:ナガセのこと)とモア社との間の加盟校契約には、通知人の書面による事前の承諾なく、加盟校がその運営を第三者と共同して行うことを禁じています」(代理人弁護士・廣瀬正剛氏、2017年3月17日付)と答えている。

FC契約でフランチャイジー側が勝手に第三者と共同経営されたら、責任の所在も曖昧になり、品質も保てない。禁じるのは、ごく一般的である。望月氏は、この重要な禁止事項について、確認すべきではあったが、一切、知らされていなかった、という。柏木社長は、2005年の時点で、既にナガセを騙し、望月氏も騙していた。

柏木は、この淵野辺校事業について、売上や経費を細かく示した収支報告書を毎年、送ってきた。明細には、分配金として、以下の金額と決算の報告書がついている。2009年度以降は、以下のとおりだ。

 2009年度(平成21年度) 208万円
 2010年度(平成22年度) 253万円
 2011年度(平成23年度) 187万円
 2012年度(平成24年度) 222万円
 2013年度(平成25年度) 236万円
 2014年度(平成26年度) 189万円
 2015年度(平成27年度) 144万円

2016年度(平成28年度) 206万円

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2016年度の収支報告書。1校で営業利益1千万円。

たとえば2016年度は右記のとおりであるが、売上が5801万円、ナガセの取り分である「ロイヤルティー」が898万円。校舎別損益で、1校から517万円の経常利益が出ている。その40%にあたる206万円が、望月氏の取り分となった。この収支報告の明細からは、「東進」のビジネスモデルがいかに優秀で、いかに安定利益をFCとナガセにもたらすか、そして、ほぼノーリスクでありながらナガセ側の取り分のほうが2倍近く多くボロ儲けしている実態もよくわかる。

このように、双方が十分に儲かるからこそ、FC校が全国1千校超にまで拡大しているのだ。そして、ナガセは撤退など失敗するリスクを負うことなく(リスクはほとんど全てFC運営会社側が負う)、FC運営会社よりも多くの利益を得る。人格はともかく、永瀬昭幸(ナガセ社長)のカネ儲けに対する才覚は認めざるを得ない。

ざっくり1校で500万、10校5000万、30校で1億5千万円の経常利益。ナガセは、売上規模によってロイヤルティー率が下がっていくので、校舎を増やし、規模を拡大するほど、FC運営会社の利益率が上がり、加速度的に利益が増える仕組み。これがインセンティブになって、38校も運営していた倒産時、モア社は、年2~3億の利益が安定して出る会社になっていた。いわゆる簿外債務と、闇金への過大な支払い利息で押しつぶされた形の、「黒字倒産」の一種であった。

民事再生を申し立てた2017年3月13日、モア社取締役・柴崎敏郎氏は社員向け緊急集会にて、こう話している。「単刀直入にいうと、いま我々の経営状態は黒字状態ですが、実際、経常で、ざっとですが3億。22億売上があって経費を差し引いて、3億の利益がある、という黒字状態なわけです」。DCF法によって受け皿会社への譲渡価格を決める際の算定式でも、2016年12月期の営業利益実績である「2億4400万円」から正常収益力の計算がスタートしており、普通に経営していれば2~3億の利益が出ることがわかる。

予備校経営をしたかった望月氏は、この1校への1千万円の資金拠出による擬似的な共同経営によって、小さな成功体験を積んだことで、将来的な共同経営が、がぜん現実みを帯びていった。詐欺の常套手段として、「まずは分配金や利息などで小さく儲けさせて信用させ、追加で資金をどんどん拠出させ、最後に、膨らませた元本を根こそぎ大きく奪い取る」というのがあるが(『ポンジ・スキーム』など)、そのセオリーの通りに泥沼にはまりこんでいったわけである。

まとまったカネを集め、分配金を定期的に支払う――。この行為は、無登録業者が「不特定かつ多数の者」を対象に勧誘して資金を集めると、出資法違反の罪に問われ、刑事罰を受ける。柏木社長はかなり初期の段階から、多数の人に、これを打診していた。前回記事で報じたK氏もその1人で、「当初は出資を持ちかけられたが、予備校経営はわからないから融資にしたい」と伝え、まず500万円を融資、それが繰り返されて7千万円にまで膨らみ、やはり望月氏と同じように、利息(分配金)だけは支払われていたが、元本がまるまる返済されぬまま、倒産&自己破産で飛んだ。何人以上から集めると出資法違反なのかは判然としないが、倒産時の債権者数でいえば、100を超えていた(再生債権一覧の整理番号ベースで119)。

「株を渡す」「経営権を渡す」と嘘をついて資金集め

こうして、将来的な共同経営を視野に、望月氏は、柏木社長の求めに応じて、融資を拡大していった。校舎数をどんどん拡大していたので、資金需要があることに、なんら疑問の余地はなかった。望月氏は、元本どころか、利息の返済もほぼ受けとらず、追加で貸し続けた。モア社が成功し、校舎数が増えてから返済されれば、それでよかった。「口約束ですが、柏木からは、いずれ15校の経営権を渡すから、と何度も言われていました」(望月氏)。

淵野辺校の40%でも年200万円の安定利益なので、いずれ15校くらいの経営権を持てたら、500万円×15=年7500万円の経常利益になるはずだった。倒産さえしなければ…。

モア社に貸したカネの日付と金額を示しながら説明する望月氏

紆余曲折はありながら10年ほどをへて、貸付額も3億円を超え、2015年には30校近くまで増えた。その間、2009年~2010年の1年間、東戸塚の事務所をモア社に無償貸与したり、三男と四男を校舎長や新規開校担当として勤務させたりと、カネも場所もヒトも出したのは、共同経営が視野に入っていたからだ。

だが、客観的に順調に見えていた裏では、モア社の資金繰りが、自転車操業に陥っていた。倒産(2017年3月)の1年半ほど前、2015年の秋ごろには、資金繰りが急速に悪化。「2016年1月7日のモア社の全体会議で『今年度は10校舎開校する大躍進の年にしようと決めた』と柏木は言っていました」(望月氏)。実際、2016年の1年間に、武蔵小山校、旗の台校、宮崎台校など、8校も新規オープンさせている。無茶な計画であった。

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東京地裁に提出された「再生債権査定申立書」(2017年6月21日付)より

翌年の10校新設計画を前に、モア社は2015年12月29日、別の個人(福田錦哲氏)から2億5千万円を金利5%で借りたものの、返済期日(1月4日、4月28日)に返済されず、これも最終的に、すべて踏み倒している。このとき譲渡担保として設定されたのが、当時のモア社発行済み株式(400株)の9割にあたる「360株」と、「ナガセに対する売掛債権」だった。だが、返済期日から半年以上が過ぎても、譲渡担保権の設定は、行われなかった。

この、自社株式を担保に差し出してカネを借りる手口は、望月氏に対しても、使われた。柏木社長は野村證券出身なので、株については熟知している身だ。本当に譲渡されたら会社を手放すことになるので、最初から実行する気はなく、カネを出させる口実がほしかったのであろう。結果的に、カネを出させるために使う詐欺の手口として、繰り返し、利用した格好となった(福田氏は本件につき、詐欺で告訴した)。

2016年7月7日付「誓約書」

2016年7月7日、柏木社長は、「(9月一杯に)万一、返済がなされない時は、東進衛星予備校の内、旗の台校、宮崎台校、用賀校の経営権利を望月光洋氏に譲渡することをお約束致します」と記した「誓約書」を書いている。

9月に返済はなされなかったため、これに基づき、2016年12月16日付で、柏木社長は「譲渡証」を発行した。そこには、前述の3校について「全経営権利と柏木秀信が所持する(株)モアアンドモア社の株1600株を望月光洋氏に無償譲渡する」と記されている。12月16日をもって、望月氏は、モア社のオーナーになった、はずだった。

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3校の経営権と全株式を無償譲渡するとした「譲渡証」

この時点で、なぜ400株が1600株になっているのかというと、登記簿によれば、400株(資本金2000万円)を、2016年9月23日に1200株増資して、4倍の1600株(8000万円)にしたからだ。360株を担保に2.5億円を借りた福田氏に無断で増資するという背任行為をしており、そうかといって、増資したあとで薄まった360株の譲渡を履行したわけでもない。

モア社が、東進事業をエデュマンに事業譲渡してから会社精算した際の株主総会「証明書」によると、株主は1名、柏木秀信が1600株を、最後まで保有していた。誰にも譲渡していなかった。これが、詐欺の証拠のようなものである。増資することで、より多くのカネを引き出すネタに使える、とでも考えたのかもしれない。

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会社精算時に、柏木社長が全1600株を1人で保有していたことを示す「証明書」

「実は、私と福田氏のほかにも、もう1社、モア社の同じ株式を担保として融資を受けていた企業があることがわかっています

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