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日本電産「パワハラ経営」の限界(3) PIP&降格、相対評価…“外資系”新人事制度導入で現場は混乱

情報提供
人事制度改革コンセプト
2020~2021年導入の人事制度改革コンセプト

日本電産(ニデック)は2020年度に「評価制度」を刷新、2021年度に「等級制度」「報酬制度」も改訂した。ジョブ型の人事制度に変えることで、「組織、人材、処遇の適正化」を可能とするものだ――と会社は主張している。現場の運用はどうなっているのか。「改悪だと思います。相対評価方式になって、常に“下の10%”を管理するようになり、外資みたいにPIP(Performance Improvement Plan=業績改善プログラム)も始まりました。米国企業的に、上司へのゴマすりが重要な会社になりつつあります」(元社員、以下同)

Digest
  • 強まる「創業者独り占め感」
  • PIPで一般社員の降格も断行
  • 永守人事で突然、年収が300万減る
  • 皆が目標達成しても誰かに1がつく
  • 浪花節の評価になる
  • 年功序列ではない
  • 「イエスマンしか育たない」創業49年で人材輩出ゼロ
  • 身につくスキルは「6S」「海外経験」
  • 戸塚ヨットスクール的に鍛えられたい人向け
  • 牛丼みたいな会社
  • 永守プレミアムで倍に「株価が1万円超えたら高すぎ」
  • 「パワハラ経営をやめた瞬間、ダメな会社になる」
  • 中国のカントリーリスクと永守会長の健康リスク

※資料は末尾にてPDFダウンロード可

強まる「創業者独り占め感」

消費者向け製品は作っていないため一般の知名度は低いが、パソコンのハードディスクドライブ用モーターや、自動車のパワステ用モーターなど、小型モーターで世界シェアトップを誇る日本電産(Nidec)。創業オーナーの永守重信会長は5950億円(2022年、フォーブス日本の富豪ランキング6位)という巨額の個人資産を築いている。

一方で、1973年の創業メンバー4人のうちの1人で、49年間も共に歩んできたナンバー2の番頭格・小部博志社長は、その1%強に過ぎない時価75億円(1株8千円換算、94万8千株)分しか持たされていない。権力だけでなく資産も、すべてを永守氏個人に集中させるという、異様な強欲さ、ガメツさを見せている。

今日から子分にしてやる
創業魂伝える「プレハブ小屋」 より

東京の下宿先で出会った永守氏が、「わしの後輩じゃないか(職業訓練大学校)、今日から子分にしてやる」とリクルートしたのが、現社長の小部氏であった(小部社長の証言による=右記参照)。「子分」だから、取り分もずっと1%程度のまま。創業の精神を伝えるナンバー2の役割と評価は、それほど低いものなのか。

2022年9月2日の記者会見で、永守会長はこんなことも言っていた。

――関氏は日本電産のやり方を学べなかったのか。

永守「私が幹部を怒鳴りつけると、『私も早く怒鳴りつけてほしい』と思う社員がいる。社員じゃなくてみんな子分だ。そういう人たちが10兆円企業にしようと必死に頑張っている。私の評価が厳しすぎるのかもしれないが、(関氏は)子分どころか社員にもなっていなかった」

概念として、「子分」のほうが、「社員」よりも上らしい。その上位概念である子分の筆頭でも、資産面で自分の1%強の評価なのである。同社で働いても、相応の対価は期待できそうにない。

東証時価総額ランキング
東証時価総額ランキング(東京証券取引所 株式部データサービス室公表)

異様に高い目標を掲げ、皆で達成してきた割には、社員の給与水準も低いままだ。昨年末時点では、東証一部の時価総額ランキングで9位と、三菱商事や三井物産を上回る市場の評価を得るに至ったものの、社員の平均年収は総合商社の半分ほどにあたる645万円(39.2歳、2022年3月)にとどまる。過去最高の売上高・営業利益を叩き出してもなお、この水準であり、関社長はクビにしてしまった。

自分1人だけで作り上げた会社でもないのに、「社員じゃなくてみんな子分だ」と公言する割には、数字に表れる“富の独り占め感”は否めず、子分と親分との取り分の比率において、バランスの悪さは否定できない。

PIPで一般社員の降格も断行

そんななか、今回の制度変更は、社員にとって納得性の高いものだったのか。

一連の人事処遇改革は、東芝出身の牛尾文昭常務(2020年当時、人事部・人事企画部統括)が主導して策定し、実施された。東芝がウエスチングハウスによる原発建設会社買収を行い、後に1兆円規模の致命的な損失を生んで東芝解体に追い込まれた当時、取締役会で常務・専務として長らく責任ある立場だった重要戦犯の1人が、この牛尾氏である。

牛尾文昭=東芝で2009年人事部長、2011年常務、2015年専務、 不正会計で処分=月収40%×3ヵ月返上。東芝時代に粉飾決算事件で処分を受けた人物が、日本電産に転職して人事制度改革を行い、2022年6月からは、常務「最高コンプライアンス責任者」に就任しているのは、なかなかの皮肉である。

何が変わり、社内では、どう受け止められているのか。

「大きく変わったポイントは、『相対評価』と『PIP』の導入です。『5』が一番上で、5,4,3,2,1の5段階が四半期ごとにつけられ、比率は変わりますが、ざっくりいえば、『5』と『1』が5%、『4』と『2』が20%、『3』が50%、くらいの比率で、相対評価がつきます。

四半期ごとに5段階の評価をし、常に下の5~10%を絶対に作り、2回連続で指導が入って、いわゆる『説教部屋行き』となって、PIP(業務改善計画)が開始されることになりました。

具体的には、One On Oneでミーティングをして、『あなたは一番下の1になってしまった、来期に2,3に復活するためのフィードバックを行いますから頑張ってください、具体的な実行計画を課します』と告げます。そして、上司と人事がフォローしつつ、定期的に進捗をアセスメントしていきます。

それでも改善が見られず、4回連続で1がつくと、つまり丸1年間、一番下の評価だと、降格となります。これは、実際にやりますから、これまでそういう環境で仕事をしてこなかった人にとって、恐怖の制度です。本当にG(グレード)が下がるんです。部長→課長補佐に降格になった例も見ましたし、ビックリしたのは、課長未満であっても、降格になることです。G5(課長代理)→G4(係長クラス)への降格も、実際に起きています」

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日本電産のキャリアパスと報酬水準

上:新卒入社組の定着率。下:中途採用比率。2021年4月1日より中途比率の開示が義務化された(労働施策総合推進法)。

Nidecのように「管理職全体に占める中途採用者比率」を開示している会社は少ない(同社のコーポレートガバナンスコードの原則に基づく開示)

日本電産が世界シェアトップのモーター製品

永守会長は、児玉源太郎将軍とパットン将軍が大好きで、乃木希典将軍に批判的。『坂の上の雲』(司馬遼太郎)の見解に沿った解釈をしている。(会長メッセージはこのように、幹部を通して事業部社員へと展開され、社内で広く共有されていく)

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