日本電産「パワハラ経営」の限界(2)「千回言行」で洗脳するカルト統治
「土曜に出社しないなんて、それでもニデックマンですか?」
永守自身のキャラと標語を、オフィスや階段の壁に貼りだしている。内容は『挑戦への道』より。 |
創業者が設定した異常に高い経営目標に対し、その妥当性を疑うことなく、盲目的に土日も含めたハードワークを厭わず、達成できなければパワハラ的な罵倒で厳しく詰められ、社員は、その「罵倒」を「叱責」と受け取ってむしろ喜ぶ――。永守は、そんなマゾヒスティックな集団を、どうやって作り上げたのか。「永守さんは、ソフトバンクの孫さんやユニクロの柳井さんとも仲が良いのですが、宗教性は一番上だと思う。投資家としても営業マンとしても有能なのですが、カルトの思想家でもあるんです。実際に働いてみての感想ですが、日本電産は、ユニクロとオウム真理教だったら、オウムのほうに近い会社だと思います」――。元社員が、体験談を語った。
- Digest
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- 「土曜会社に来ない?それでもニデックマンですか?」
- バイブル「挑戦への道」でカルト的な独自文化を形成
- 朝礼で日々、輪読
- 京セラに似た輪読・感想文・創業者本購入
- 買収先もカルト的手法で収益化
- Nidecのダークサイド
※資料は末尾にてダウンロード可
「土曜会社に来ない?それでもニデックマンですか?」
Nidecの社員が、結婚することになったときのことだ。『結婚式が土曜になって、同僚が何人か出席するのですが、許していただけるでしょうか?』――部下が、そんなことを上司に聞く風景が、同社では普通に見られるという。土曜はフルに働くのが、当然とされているからだ。
「私自身、『なんで土曜、会社にこないの?信じられない。それでもニデックマンですか?』とプロパー社員から言われたことがあります。ジョークではなく、真顔で、本気なんです。日本電産では、求められるのが『情熱・熱意・執念』(Nidec三大精神の筆頭)ですから、社員をトランス状態にします。土曜=休み、といった社会常識は、トランス状態の社内では通用しません」
先見的で卓越した業績を残した18社を分析した経営書『ビジョナリーカンパニー』(※時代を超える偉大な企業18社を分析。1994年に出版され、5年連続全米でベストセラーとなった)は、その特徴の1つとして「カルト的な独自文化を形成する傾向」と分析している。
「永守イズムという宗教性」の原文。出版社側のレギュレーションで掲載できなかった箇所がこれである。単行本(こちら )578ページ目。 |
カルトの強さは、統一協会の選挙支援を見ても明らか。信者は、無償でポスター貼りをする。賃金が発生しないどころか、逆に高額の献金までする。だから、これを利用することで、確実に低コスト経営ができ、競合は歯が立たない。
洗脳されているから、社会常識とは違っても、疑問に思わない。土日に働くのが当り前な“Nidec教”も似ており、一種のマインドコントロールである。だから、ニデックの経営システム(124%アイテム出しの井戸掘り経営、徹底した週報管理、激詰め会議…)を他社が真似たところで、カルト要素のない他社では、メンタル面で、そもそも「実行」することができない。
ユニクロもモーレツ労働&成長至上主義であるが、これほどの宗教色はなく、ドライだ。日本電産のカルト性とは、どのようなもので、どうやって植え付けているのか。
バイブル「挑戦への道」でカルト的な独自文化を形成
宗教には、コーランや聖書といった、教典がある。同社にも、バイブルとして、『挑戦への道』と題された秘伝の書がある。流出しないよう、通し番号が刻印され、社員が辞めるときには人事部が必ず回収している。
「その内容は、永守さんの成功体験に基づくエピソード集で、ようは宗教本です。書いてあること自体は、おかしくない。『早く、厳しく、完璧に』『困難は必ず解決策を連れてくる』などですから。特徴的なのは、『1番を目指す、1番以外はビリ』『3ない主義=泣かない、逃げない、やめない、を貫く』『経営とは結果、数字、リスク管理である』『ハードワーキングこそ成長の原理原則』『千回言行』(心構えはすぐに変わらないので、飽きるほど言い続ける)などです」
繰り返し教育することによる「マインドコントロール」は、カルトの特徴の1つである。これを洗脳とよぶ。この秘伝の書を読んで、感想文を提出させる研修があり、オフィスや階段の壁にも、これらの標語が張り紙されている(記事冒頭の画像参照)。
「中国共産党が街中に貼っているプロパガンダと一緒です。毎回、同じことを言ってるだけじゃないですか、って言うと、生え抜きの上司は、『千回言行』だ、と繰り返すことの重要性を説かれます。これは、カルトのやり方なのでは、と思いました」
長時間、同じ情報を浴びせ続け、ほかの情報から隔離するのも、カルトのやり方だ。
「社員(特に職制)は、他のことを学ぶ時間がなかなかとれないんです。土曜は、会議出席に加え、週報に何を書こうか、と頭がいっぱい。これを書いて出すと、翌日(日曜)、永守さんが何か言ってくるのではないか、どう対応しようか、と心が休まりません。土日が潰されるので、独自に勉強する時間がなかなかとれない。だから、どんどん洗脳されていきます。月曜は、管理職以上は朝6:45には会社に着いていなければなりませんから、暗いうちに起きねばならず、夜ふかしもできません。平日は帰宅が21時22時だから、帰って寝るだけ。従業員の裁量を、いっさい認めない会社なんです」
『挑戦への道』は、内容としては、「不良品は不良社員が作る」「早く、厳しく、完璧に」「脱皮しない蛇は死ぬ」など、ありきたりな、道徳の教科書に載っていそうな話も多い。すべて、心構えや、精神論の類なので、反論は難しい。それだけに、これらを是とされてしまうと、逃げ場がなくなり、追い込まれてしまう。なにしろ、どんなに高い目標数値を課されても、ひとたび未達になると、「情熱が足りない」「ハードワーキングが足りない」とされてしまうのである。
日本電産の三大精神 |
この『挑戦への道』を煮詰めた三大精神が、「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」である。これを自ら実践し、成果をあげてきた永守氏に、理屈は通用しない。情熱が足りん、ハードワークが足りん、必ずやれ、すぐやれ、となる。
統制のとれたマッチョな軍隊の規律みたいであるが、軍隊のように、言われたことを忠実にやっているだけではダメ。「ノルマ達成という結果=守るべき規律」とされるからだ。そして、達成できないと、「精神が腐っている」「Nidecの三大精神を理解していない」と詰められる。恐怖のカルト統治である。
朝礼で日々、輪読
「京都本社で、統括部長が6:50に出社したところ、役員に『出社が遅い』と怒られていました。永守さんは『おれより早く来い』『幹部クラスは、一般社員よりも早く来て、夜遅くまで働け』と指導しています。部下よりはやく帰っちゃダメ』という不文律もあり、21時22時までは帰れません」
日本電産の朝は早い。メーカーなのに、証券会社みたいだ。一般社員は8時半までの出社でOKだが、部長以上は2時間はやく、6:30~6:50には出社しているのが、日本電産では常識である。
「永守さんは毎朝6:52に、通勤用のトヨタ『センチュリー』で、京都の本社に到着します。本社ビルには会長専用の出入り口があり、センチュリーから直結。会長専用のエレベーターを使って、21階の会長室へ。だから、エレベーターのランプが21Fなら会社に居ますし、1Fなら不在と、一目でわかるんです。永守さんが帰るのは、だいたい19時ごろ。管理職以上は、20時21時まで働くのが普通です。
この京都本社を拠点にする事業部(精密小型モータ等)の役員は、6:30には出社しています。出世を目指す管理職以上は、毎週土曜も出社して、平日同様に、フルタイムで仕事します。つまり、朝、まだ暗いうちに起きて、週6で6:45出社です。『休みたいなら、辞めればいい。代わりはいくらでもいる』というのが永守さんがよく言うセリフです」
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オフィスに貼られている「今すぐ壊せ言葉の壁!」のポスター。この程度だと宗教色はない。ただし、永守会長自身は、英語をほとんど話せない。
「3Q6S」とは(社内説明資料)
中間決算後の永守会長メール(文字色のみ修正)
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