JR西日本「やりがい搾取の契約社員は、絶対にやめたほうがいいです」――新幹線車掌が見た“安全軽視”の現場と“理不尽に使い捨てられる非正規”
「風俗バイトがなかったら生活できませんでした」と新幹線の車掌時代を振り返るインタビュイー。副業としてバレないよう、こっそりやっていた。天引きがなく手取りは副業のほうが多かった。 |
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- フルタイム「不本意非正規」の典型
- 安全軽視でカネ儲け
- JR東海は3人、西日本は1人…破損見逃した駅員体制
- 15分だけ使えるガスマスクを3つ配備
- 他社との接続で遅延、不可抗力で車掌の仕事が増える
- 車掌のやりがい、子供時代の記憶
- 駅務→車掌・運転士の異動はなし
- 車掌・運転士が「ほぼ大卒」の時代
- 「何で決めているかわからない」正社員試験の合格基準
- 不規則な時間割、26時間拘束、1時間はサービス残業
- 走行中の車掌の仕事――iPadでコミュニケーション
- 遅刻は始末書、日勤教育は…
- JR西は月15万円で使い捨て――デリヘル嬢送迎バイトで生活
- 若者を潰す「フルタイム契約社員」
鉄道会社の運転士や車掌職は、あこがれる人が多い職業の1つで、希望者が常に多い。JR西日本(西日本旅客鉄道)は、その心情に付け込む形で求職者の足下をみて使い倒している。「車掌・運転士(正社員)になれる可能性がある」という触れ込みで募集し、新幹線で乗務する車掌3人のうちの1人を、フルタイム勤務者にもかかわらず非正規の契約社員で雇用し、年収およそ200万円(額面)の貧困水準に抑えているのだ。
月々の副業収入よりも給料が安い新幹線非正規のキャリア実態、および乗客の安全を軽視する体質について、当事者の現場体験をじっくり聞いた。
フルタイム「不本意非正規」の典型
深夜割増を含めてもこの給料。年金支払い負担が重く、労働組合費3千円もきっちり天引き。実家に寄生しない限り生活は成り立たない |
実家から通えない場所なので、僕は仕方なく、副業として風俗嬢の送迎ドライバーのバイトをやって、何とか生き延びていました。フルタイム勤務のJR西日本から貰う給料より、風俗店ドライバーとしての給料のほうが高くて、両方合わせて手取り月25~30万。何とか1人暮らしをしていました」
JR東日本は「グリーンスタッフ」という名前で、乗務員ではなく駅で働く契約社員を採用してきたが、正社員ポジションへの転換をエサに非正規を使い捨てていくえげつない雇用形態が不評で、2016年度を最後に採用停止。JR東海/東日本/九州の新幹線には、そもそも契約社員の乗務員(車掌・運転士)はいない。客から見たら同じ「車掌」なのに、社内的に身分制度を設けて半額未満の年収に据え置き、差別している。新卒フルタイム勤務の乗務員をこのように扱っている会社は、全国のJRでも西日本だけである。
「グリーンスタッフと同様、正社員登用の可能性をエサにして集め、ほとんどが5年で使い捨てられます。登用の可能性がないなら最初から応募しません。みんな、私を含め、正社員としてずっと乗務の仕事をしたい人ばかり。でも、正確な正社員試験の合格率は公表されず、5人受けて、受かるのは1人かゼロ、といった確率。その登用試験は5年間で2回だけしか受けることができず、採点基準も不透明で、なぜ落とされたかのフィードバックもありません。新幹線の乗務員をしたいという若者の心につけ込んだ、『やりがい搾取』の典型だと思います」
統計上、「不本意非正規」は273万人いることになっており、非正規全体の14.3%を占める(平成29年平均、厚労省資料より) |
若者、望まぬ非正規、低賃金――。若者が非正規で貧困化すると、消費も増えず、物価も上がらず、結婚は遅れ、少子化にも拍車がかかる。まさに、今の日本の若者世代で拡大しつつある不安定雇用問題と日本経済停滞の原因を象徴するような事態が、JR西日本という旧国営企業で進んでいる。このJR西日本が行っている雇用形態は、典型的な“不本意非正規”である。
日本の統計では、「不本意非正規」は273万人いることになっており、非正規全体の14.3%を占めている(平成29年平均、厚労省資料より)。
バブル期並みに低い完全失業率(2018年5月=2.5%)が続いているが、内閣府の試算では、こうした不本意非正規らを失業者にカウントした広義の失業率は8%を超えている(→失業率、「やむなく非正規」含むと8%台)。不本意非正規の存在が、賃金も物価も上がらず非婚化・少子化が進む原因の一角を占めているのは、明らかである。
ようは、「望まない非正規=広い意味での失業者=質の低い雇用」ということだ。国にとって、失業者は少ないほどよく、雇用の質は高いほどよい。ところが、その広義の失業者枠を、人為的に作りだしているのが、旧国有企業のJR西日本である点で、罪深い。
不本意なまま非正規で働くと、スキルが身につかないまま歳だけとるため、人生を棒に振る可能性が高まってしまう。なかでも、新幹線乗務のような特殊な業務知識は、他業界ではほぼ役に立たない。いわば、丸腰でゴミのように外に放り出されてしまうのである。
安全軽視でカネ儲け
新幹線に非正規社員を乗務させているのは、JR西日本だけ。乗客の安全を守る重要業務なのに、5年単位でどんどん辞めさせ、人を入れ替えていく雇用形態であるため、熟練のスキルやノウハウは蓄積されない。コスト最優先&安全軽視の姿勢は、鉄道会社として許されるのか。100人超が亡くなった福知山線事故の教訓を生かせないJR西日本の安全軽視カルチャーも浮かび上がる。
「JR東海管内では、駅のホームにいる駅員が、『安全、よし!』と必ず言います。あれは、新幹線で初の死亡事故が三島駅で起きて、その反省から、だそうです。僕はすごくいいことだと思っていますが、JR西日本管内の駅では、これを言いません。それどころか、死亡事故の教訓を学ぶ姿勢がみられず、私自身、一度も、研修などで会社側から、三島事故の事実関係どころか、事故の存在すら教えられていないんです。どこで知ったかというと、引き継ぎで新大阪駅ホームにいるときに、たまたま、JR東海の車掌さんから聞きました。会社側からは、一度も聞いたことがありません。安全についての認識がおかしいと思います」
これは、かなり衝撃だった。自殺・他殺を除き、JR側の人為的なミス(駅員・車掌・運転士)で発生した新幹線における唯一の乗客死亡事故について、何ら現場の車掌に周知・教育をしていない、というのだ
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大きく破損した状態だが、小倉駅の駅員は、何とこの異常を見逃し、報告しなかった。運転士も車掌も確認せずに発進した。社員教育に安全軽視の傾向がみられる。対向車線の運転士が気づいて報告し、次の下関駅で停車した。(NNNより)
「JR西日本には2つの働き方があります。」と公式サイトで宣言。実際には「契約社員」という身分の、3つめの働き方がある。
入社数年目の年収。フルタイムで正社員と同じだけ働いて、これだけ。同一労働二重賃金の典型。
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“新幹線に非正規社員を乗務させているのは、JR西日本だけ。”
そう遠くない未来にまた大事故やらかしそうだね
新幹線の車掌なんて、ちっちゃな男の子が憧れる職業じゃないか。どうなってしまったんだ、この国は。
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JR西日本が新幹線のトンネル内に、通常業務では線路内に立ち入らない車両検査の社員を座らせ、最高時速300キロを間近で体感させる研修をしていることが、同社や関係者への取材で判明した。
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今、求人倍率はかなり高いです。職安には正社員の求人情報がたくさんあります。今後の健闘を祈っております!!
労組が強い組織は、バブル世代の労働条件を死守する代わりに、氷河期以降の世代にそのしわ寄せを押し付けたケースが多いのではないでしょうか?バブル期の人たちは、自己責任、後から入って来た人たちに不満があるなら自分で会社を創ればいいだろうとか言っていたりします。もしも正社員登用を餌に、実態はバブル期世代の退職金と企業年金のために安く働かされていただけだったとしたら悲しいですよね。
駅員、運転士という人気職種にあぐらをかいた経営、人材募集をしているとしか思えない悪辣さ。中国、韓国など海外と熾烈な競争を繰り広げているメーカーとはまるで別世界だ。そんな糞な待遇ではまともな人材は確実に採用出来ないからだ。JR東日本では既に取りやめているという事を踏まえてもJR西日本は悪質であろう。
私鉄はまだ正社員登用が多いと募集要項には記載していた。2~3年に一度中途採用があるくらいだ。それに対しJR西日本のグリーンスタッフはマイナビ転職などでほぼほぼ常に求人が掲載されている。5年で2回しか正社員受験も出来ないとか一昔前の法科大学院の制度と似ている。意味の無い理不尽さだ。しかも合格率低いし。そして契約打ち切り。これなら同じ非正規雇用でもずっと同じ会社で働ける場所の方がまだマシだ。
7年前の2011年になるが、京阪電鉄の駅員中途採用(時給950円)を受験した時もリーマン・ショック後の就職難もあって相当数の人間が算数とクレペリンのテストを受けていたのを覚えている。南海電鉄も大型の受験会場でまるで新卒の採用試験かと思うレベルだった。(こっちは時給850円だった)それだけ人気のある職種、鉄道会社は安定しているという意識がみんなにある。
福知山線の事故(2005年)以降、たびたび電車の遅延、停止が当たり前になっていたJR西日本は他私鉄に比べ安全意識が高いのかと誤解していた。だがその安全を支える従業員の足元はあまりにも不安定だ。単に技術が蓄積されていないからサボタージュしているだけではないのかと思えてきた。
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