日本電産「パワハラ経営」の限界(1)元社員が語る、“怪獣”永守の激詰め会議
「お前が株価下げたんだ、辞表書け!…まるでヤクザ映画です」
インタビュイーの辞令。日本電産(Nidec)コーポレートカラーの緑は、占い師によるラッキーカラーで、赤は永守会長が嫌いなので禁止。 |
管理職クラス全体に占める中途入社比率が「55%」(2021年度末)と高く、「多様な人材が活躍」とアピールする日本電産(Nidec)。一般社員を含めた全体でも、単年度採用数に占める中途採用比率を2倍超に引き上げ(57%=2021年度)、即戦力採用による成長を目論むが、オーナー創業者である永守重信会長のパワハラ経営手法やカルト的な宗教性についていけない者も多く、接点が多い上層部ほど離職率が上昇。直近5か月だけで、執行役員7人をはじめ上級管理職が大量に離職した。直近(今年)まで在籍していた元社員が、これまで成果をあげてきた永守式経営システムのカラクリと、その限界について、実体験を語った。
- Digest
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- 「ワシは創業者だから」
- 事業環境が明らかに変わった
- まるでヤクザ映画な会議
- 自分で喧嘩を売り部下に責任とらせたシーゲート
- 「ガラクタばっか積み上げおって!」苦しいアイテム出し
- 目の不調から復帰「なんで土曜休んでるんだ!」
- 「グループリーダー以上は土曜出社」というパワハラ
- 永守式経営システム「週報」&「日曜のメール返信」
- 部長以上は日曜もフィードバック対応
- 自分以外のパワハラは内部通報でクビに
- 学歴・職歴「コンプレックス丸出し」採用がアダに
- 「地獄の毎日だ!」と怒り狂う会長、幹部への罵倒収まらず
- 「ワシよりもデキるようになったら他のやり方でもいい」
※資料は末尾にてPDFダウンロード可
「ワシは創業者だから」
「永守さんは『モーレツ』という言葉を使いますが、あれは今の時代では、完全に『パワハラ』です。パワハラに厳しい会社なのですが、二言目には『ワシは創業者だから』と言って、自分だけは例外なんです。株主には、このパワハラ経営の実態をお知らせしたい」(元社員、以下同)
執行役員34人と取締役10人の全プロフィールと退職者。永守会長の、学歴や有名企業に対するコンプレックスがくっきりと表れている。 |
2023年4月、ニデック(Nidec)に社名変更する日本電産であるが、中身は社名のとおり“日本の古い電産会社”であり、創業者が78歳(1944年生まれ)になってもなお、「昭和のモーレツな働き方」をアップデートする気が毛頭ない。その実態が顕在化したのが、自ら日産自動車から招き入れた関潤社長の更迭劇であった。
永守会長のパワハラは全社に及ぶが、上層部に対しては特に厳しい。2022年9月2日、業績悪化の責任をとって、関潤社長が辞任となった。悪化といっても、売上・利益ともに、2022年3月期に過去最高を更新。売上1.9兆円、営業利益1700億円という立派な業績である。
関潤(せき・じゅん)=2020年1月、永守会長に請われ、日産自動車副社長のポジションから、日本電産に社長候補として入社。翌2021年6月、永守会長から最高経営責任者(CEO)を引き継いだが、CEOとは名ばかりで、オーナー創業者である永守会長が権限を手放すことはなく、業績が目標を下回り、株価が低迷(約1万4千円→約8千円に4割以上の下落)。就任1年を待たず2022年4月、COOに降格。9月に退任となった。
「最大のパワハラ被害者は、関さんでしょう。三顧の礼で迎え、丸1年かけて評価して『君しかいない』とCEOにプロモーションした人物を、たった10ヶ月で更迭してしまった。売上も利益も過去最高(2022年3月期)のCEOが降格させられて辞任なんて、前代未聞です。Nidecは売上約2兆円の上場企業で、社会の公器。せっかく電気自動車向けモーターのビジネスに夢を持って入ってきた人物を、個人的な時間軸だけで評価して辞めさせるのは、さすがにどうかと思います」
日本電産の株価推移 |
この「時間軸」というのは、同社がかねてより公表している「2025年度に4兆円、2030年度に10兆円の売上高」を指す。この高成長の見通しが株価を支えていたため、目標未達となれば、株価は下落する。毎日、株価を何度もチェックする大株主の永守氏にとって、それは耐えられないことだった。
「決して、永守さん1人だけで大きくなった会社じゃない。創業メンバーでナンバー2の小部さん(現社長)、古株で秘書室人事担当の平田さん(現・唯一の女性執行役員)、最高業績管理責任者の泉田さんらが、こぞって反対したのに、結局、最後は自分1人の考えで、降格させてしまったんです。私をはじめ多くの現場社員も、もう1回、考え直してほしい、と思っていました」
とはいえ、高い目標に対し、計画が未達となったのは事実である。目標の高さも、事前にわかっていたこと。問題は、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という、一切の妥協や言い訳を許さないNidecのカルト的な価値観を持つ“教祖”と、世間常識を持つ外の世界から入社した中途組サラリーマン経営者との、埋めがたい価値観のギャップであり、そのギャップが生じた際の“子分”に対する当たり方であった。
事業環境が明らかに変わった
「永守さんは、関さんが担当していた自動車ビジネスを理解していない、と感じました。まず、コロナ禍からの急回復とロシアの侵略戦争によって、原材料の相場が上がった。鉄や銅といったコモディティ(国際商品)価格が上がったら、利益を圧迫するのは、どうしようもないことなんです。たとえばモーターの部品として使う鋼(ハガネ)板『電磁鋼板』が高騰しました。一方で、販売先である自動車会社も、世界的な半導体不足で生産を停めている。仕入れ値が上がって、販売先の自動車会社が生産を伸ばせないのだから、利益率は下がって当然です」
トヨタ自動車でさえ、鉄やアルミなど資材価格の高騰と半導体不足を主な理由として、年明けから30円超も振れた巨大な円安メリットがあるなかでもなお、営業利益が前年同期比で約6千億円も減った(2022年9月中間期)。だが、永守会長に世間常識は一切、通用しない。関社長は日産出身とあって、戦略商品として伸ばしたい自動車向け(車載)の事業を主に担当していたため、担当事業を計画通り伸ばせなかった責任を追及され続けた。
日本電産の事業セグメントは、祖業である「精密小型モータ」、米国企業を買収した「家電・商業・産業用」、工場向け搬送ロボットなどの「機器装置」が営業利益の3本柱で、将来性ある分野として「車載」を伸ばそうとしている。日産出身の関氏を招聘した理由も、そこにある。ところが3年連続で増収減益となり、収益化に時間がかかっている。
売上規模では①ACIM=家電・商業・産業用事業、②SPMS(Small Platform Motor & Solutions Business)=精密小型モータ事業、③AMEC(Automotive Motor & Electric Control Business)=車載事業、の順に大きい。
日本電産のセグメント別業績推移(過去4年) |
「車載のなかでも、第二事業部(パワステやパワーウインドウなどに使う従来の車載小型モーター)は黒字なのですが、メインで伸ばしたいほうの第一事業部(EV=電気自動車向けのトラクションモーター)が赤字なのです。EVのトラクションモーターは、ガソリン車のエンジンに相当しますが、まだ収益性が悪くて、儲からない。100万台以上といったスケールで売れないと、規模の利益が生まれないからです。だから将来性は確かにあるのですが、直近では利益が少ない。それを永守さんは理解しないし、許せないのです」
まるでヤクザ映画な会議
一般社員は18時過ぎに帰れるが、管理職クラスは、定時退社時刻である18時以降に、ミーティングが設定されている。「会議は定時後か休日にやる」のが、日本電産では常識とされるからだ。定時の時間内は、「お客さんや部下とコミュニケーションをとる時間」とされている。
ミーティングの中心は月2回の経営会議で、永守会長+役員クラス全員+各事業CFO(統括部長)が、総勢30人ほど出席。第一週の後半に、先月の月次決算にあたる「月次総決算会議」があり、月の半ばに、同じメンバーで、当月の進捗管理と見通しを確認する「中間進捗会議」を行う。
「この永守会長が出席する月2の会議が、1番重要な会議です。なかでも1番重要な指標は、営業利益です」
会議は、小学校みたいに規律正しい。起立!気を付け!礼!着席!と司会が号令を出し、『よっしゃ、始めるぞ』(永守会長)で始まる。
各事業部の役員から、業績の見通しが報告され、目標値とのギャップがあると、それをどうやって埋める計画なのか、その確度はどのくらいなのか、を説明。その内容が疑わしいと、詰められる。ここまでは、どの会社でも、よくみる、営業会議の風景である。
2021年12月からは毎週、関社長に代わって、自ら滋賀に乗り込むことを伝えた、車載事業部の社員全員に向けたメール。関社長は欧州に飛ばされた。平社員に対しても「休日であろうが夜であろうが、やるべきことは早くやり抜いて健全利益を出し」と労基法的には違法な要求を突きつけ、「皆さんは今は乞食なのだ!」と名誉棄損。永守節が炸裂する。(11月の永守メールより) |
「永守さんは、目標に対してギャップがあると、怒り狂います。もう、怪獣みたいに怒鳴りますから。コロナ禍では、滋賀と京都本社にメンバーが集まって、永守さん自身はリモートになったこともありますが、モニター越しであっても、迫力があるんです。業績が計画通りに進んでいない担当役員が、容赦なく詰められ、罵倒されます。『死ね』『アホ』『お前が株価下げたんだ』『辞表書け!』…と、まるでヤクザ映画を見ているようです」
ターゲットは、業績が悪い事業部の責任者たちである。
「去年だと、『車載』を統括する関潤さんと、『精密小型モータ』の宮部俊彦さんが、磔(はりつけ)にされていました。永守さんが好んで使う表現は、『おまえたちは腐っている』『3T企業で汚染された』『辞めたいやつは辞めろ』『人物を排除する』など。社内では絶対権力者なので、パワハラだと思います」
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「井戸掘り経営」のツールである、「損益改善124%アイテム出しと運用サイクル」
グループリーダー(G6、G7)以上は、土曜出社するのがニデックマンの常識であるが、報酬水準はそれに見合っているかというと…
永守式パワハラ経営手法のポイント
内部通報制度の件数を開示。常務執行役員も容赦なくパワハラで諭旨解雇となった(2021年度)。永守会長だけは何を通報されても対象外となっているのが現実。
AMEC(車載事業)経営会議翌日の永守会長からのメール
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読者コメント
台湾の鴻海科技グループは30日、日本電産前社長の関潤氏が2023年2月1日付で電気自動車(EV)事業の最高戦略責任者(CSO)に就くと発表した。
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