アメックス、実は「Great Place To Work」でもなかった 女性賃金66%、マタハラ訴訟も負けて…
性別による賃金格差「完全是正を3年連続で達成」(公式サイトより)は、日本以外での話なので、「当社」は印象操作を狙ったミスリード表記、または嘘である。 |
2023年から始まった男女賃金格差の開示義務化は、ポエムではなく数値情報であるがゆえに、胡散臭いイメージ広告に左右されない会社選びに役立つ。グローバルで「完全是正100%を3年連続達成」と王者のごとくふるまうアメリカンエクスプレスの日本での数字には、注目が集まっていた。ジェンダー格差が世界最悪クラスな日本でも、外資ならば女性でも差別なく活躍できるはず――という幻想があったからだ。結果は、男性賃金100に対し、女性66.1%と、男性の3分の2にも満たない無残なものだった。引き続き、元社員に実情を聞いた。
- Digest
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- 「日本を含めたグローバルで格差是正を達成」は嘘
- 「Great Place To Work」という広告宣伝メディア
- コールセンターは子会社運営で人件費削減
- 3ヶ月ごとのインセンティブ収入比率が高い
- 知らぬ間に決済金額をチェックされる利用者
- 月13枚、クオーター7千万円
- ターゲット達成のしんどさ
- コロナ禍でPIP始まり…景気次第で変わるクビの基準
- コンプラ違反でもしっかりクビになる
- マタハラ訴訟で敗訴「均等法違反」「人事権乱用」…
- 生え抜き初の社長が誕生
- トップダウンに振り回される「将棋の駒」感
- ポイントをマイルに替えられると会社は一番困る
- 日本で唯一の外資系クレカ会社というポジション
社員から起こされたマタニティー・ハラスメント訴訟の判決(2023年4月)でも、「将来の会社内におけるキャリア形成に対する期待を害された」として、会社に慰謝料など220万円の支払いが命じられ、敗訴確定。女性が働きやすい会社というイメージは、ファクトによってボロボロに崩されている。
「日本を含めたグローバルで格差是正を達成」は嘘
■賃金格差是正とその維持性別や国籍、人種間で賃金の格差が起こらぬよう、評価や報酬など第三者機関による調査を含めた賃金格差の有無の検証を実施しています。その結果、2020年10月以降、日本を含めたグローバルで格差是正を達成し、その後も3年連続維持しています。
この発表文を通常の読み方で理解しようとすると、American Express社は、日本法人も性別格差がない会社という解釈になるが、その根拠となる実際の数字は、どこにも示されていない。出せないからだ。これが、政府の開示義務化(女性活躍推進法の省令改正)によって、本年はじめて明らかになった。
女性の活躍推進企業データーベースより |
全労働者で、男性100に対して、67.7%
正規雇用労働者で、男性100に対して、66.1%
女性の賃金は、男性の66%。これは日本全体の平均よりも低い、かなり悪いスコアだ。
OECD調査では、男性100に対して女性77.9%である(『男女共同参画白書 令和5年版』より※中央値の水準比較)。
原因は、賃金が高い管理職全体に占める女性の人数が少ないため。女性は、管理職全体の37.4%、104人だけだった。一方で、正社員全体でみると、女性の人数が59.7%と6割も占めている。賃金が高い管理職ポストは男性が多く、賃金が安い現場社員は女性ばかり。
この構図は、単なる「一般的な日本企業の縮図」。格差が是正された気配は、特にみられない。クレジット会社の仕事内容は、女性に不利な特殊性も全くない。
「Great Place To Work」という広告宣伝メディア
2023年版「働きがいのある会社」女性ランキングとは |
女性の賃金が男性の66.1%しかない差別的な会社が、「Great Place To Work」が発表する2023年版 日本における「働きがいのある会社」女性ランキング大規模部門(1000人以上)2位というのは、実に皮肉な結果である。
とても正当な評価とはいいがたい。女性がバリバリ活躍できる会社は、他にもたくさんあるからだ(管理職の女性比率5割超の日本ロレアルやLVMH、4割のP&Gなど→「ジェンダー視点による仕事選びマップ」参照)。
お金を払うと受賞できてしまう「モンドセレクション」と同様、企業から大金を貰って評価しランキングを発表する機関の信用度は低い。料金は、アメックスの規模(2200人)だと、スタンダードプランでも240万円になる。
アメリカン・エキスプレスは、GPTW「働きがいのある会社」(日本にある会社のみランキング)全体でも4位だそうである |
「顧客満足度1位!」(オリコン調査)にも似た、評価対象からお金を貰ってしまう、ランキングビジネスの闇である。お金を払う企業側の動機は、その結果を採用ブランディングを含む広告宣伝に利用したい——というものなので、最初から調査の第三者性に欠け、バイアスがかかり、歪んだものとなる。これは広告宣伝の一種なので、読者がリテラシーを持つ必要がある。
同様に日経新聞も、現場の実態を取材することなく安易に『外資万歳』の記事を載せるので、真に受けてはいけない。「働きがい、外資が育む」(2023年10月28日『日経産業新聞』)は、その典型である(左記)。
このGreat Place To Work自身はグローバルな調査機関であるが、その日本部門のライセンスを、株式会社「働きがいのある会社研究所」(リクルートとは兄弟会社にあたるリクルートマネジメントソリューションズの100%子会社)が持っている。ようはリクルートHDの孫会社で、運営がリクルート資本100%。リクルートは、DMPフォロー事件など過去の事件からも、無料ユーザ(採用分野では就活生や転職活動生)を騙し、クライアントである法人側からカネをとる「リボンモデル」で知られる。
Great Place To Workは、あたかも第三者が調査した客観的なものに見えるよう、広告宣伝で活用される。むしろ、リクルートがそういう使い方を提案している。
リクナビNEXT。「若手ランキング」「大規模部門」など細分化すると必ず3位くらいにはなる。リクルート出身者のほとんどが「MVP」獲得者なのと同じマジックだ。 |
たとえば右記のように、《2022年版「働きがいのある会社」若手ランキングの大規模部門で第3位を獲得!》などと、採用広告文で利用されるが、実はこの『リクナビNEXT』を運営するリクルート自身が、自社の1部門でAMEXから広告料とは別に追加でカネをとって調査したものであることは、どこにも記されていない。要はヤラセみたいなものだ。
誠実な会社はこうした広告に加担しない。景品表示法違反が疑われる。
コールセンターは子会社運営で人件費削減
アメックスは日本で約2200人を雇用する。内訳は、以下の2社(2023年10月)。
計2211人が働く(年金・保険の被保険者数ベース) |
「アメリカン・エクスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド」=日本法人の本体。1077人。
「アメリカン・エクスプレス・ジャパン」(上記の子会社)=日本でコールセンターを運営。1134人。
「総人件費削減のために作った内勤の子会社が、アメリカン・エクスプレス・ジャパンです。したがって、インターナショナルに比べ給与水準は低く、東京(港区虎ノ門)と大阪(大阪市北区堂島浜)にコールセンターが1拠点ずつあります」(元社員、以下同じ)
アメックス「働く」視点の重要データ |
アメックス・インターナショナル・インコーポレイテッドの社員1077人のうち、59.7%(643人)が女性で、うち管理職女性が104人(37.3%)。男性も含めた社員全体に占める管理職の割合は25.9%と、4人に1人が管理職となっている。
上場企業なら当り前のように開示している社員の平均年齢、平均勤続年数、離職率、中途採用数、残業時間、有休消化率と、すべてが非開示。世界的な大企業(日本でも社員1千人超なので大企業の定義に収まる)の割に、上場企業並みの情報開示ができておらず、社会インフラを担うクレジット会社としては、パブリックカンパニーの自覚に乏しい会社である(→大手商社はこれらを全開示している)。
3ヶ月ごとのインセンティブ収入比率が高い
アメックスインターナショナルのキャリアパスと報酬水準 |
同社の人事処遇で特徴的なのは、新卒採用を行わず、営業職を非正規(契約社員)中心で採用し、そこから優秀な成績を収めた者を正社員へと選抜していく人事制度だ。これは少なくとも10年以上前から続いているため、うまく機能しているとみてよい。通常の中途採用のほか、既存社員からのリファラル採用(紹介)を重視している。
「紹介料は1人10万円。ただ、せっかく知人が入社しても、成果主義なので、数字を上げられなければ、ずっと契約社員のまま、という人もいます」
同社の給与は、BANDで管理される。BAND20が、1年更新の契約社員で、「セールスコントラクター」という肩書でスタート。昨今では、月収27万円+インセンティブだ。普通に数字を上げられれば、2年目にBAND25の正社員として登用される。
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BAND30(マネージャー)の源泉徴収票。26歳のBAND30もいるという。
社歴33年の生え抜きがついに日本法人トップに就任(須藤靖洋社長)。
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