就活セミナーでヤラセのリクルート、トヨタ・銀行など企業説明会でもサクラ横行
Teams履歴は全削除、ビッグモーター事件受け
引っ越しにかこつけて、吉田純子リクナビ編集長が閉鎖、全消しを表明(7月20日オンライン部会資料より) |
学生向け就活セミナーで、社員が学生のふりをして質問する「サクラ」行為が発覚したリクルートで、トヨタや地銀など採用する側の企業がスポンサーとなっている学生向け説明会でもサクラが横行していたことがわかった。料金は、生放送のウェブセミナーで定価75万円(リクナビ掲載料とは別)。「リクナビDMP事件」と同様、企業側と“共犯”で学生を騙す構図だった。サクラは「一部」ではなく全国でノウハウが共有され、サクラチャット例まで共有。リクナビ登録や就活イベント予約の促進に利用していた。幹部も「まずサクラしこんでね」と指示し、「サクラ質問を用意しておけばよかった」と部下に反省させる始末だった。
- Digest
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- 「学生を食い物にする」カルチャー
- 全国規模で“サクラナレッジ”を共有
- 最初から最後までヤラセも
- 調査に応じず、社員には嘘を答えるよう指導
- 組織的・幹部ぐるみだった
- トヨタ地銀NHK電通…サクラは企業セミナーでも
- リボンモデルならではの事件
- プレエントリー情報が勝手に大学に伝えられる
- リクルートは大学と学生に何をしてるのか
- プレ夏イベントは1ブース最大185万円
- リクナビ掲載料は「平均100万円くらい」
- 繰り返される学生軽視事件
社内チャットでFラン大の学生を「動物」扱いするなど問題発言も報じられたことから、同社は8月末でTeams履歴を全削除し、証拠を隠滅。もはや過去コメントを社員は辿れない。当事者である現場社員に、実態を聞いた。
「学生を食い物にする」カルチャー
Teamsでは、桜マークで「やらせ」質問のポイントを共有。企業のインターン説明会登録や就活イベント予約を促進し、集客。 |
「やましいことをしているから、消したいんです。『隠ぺい』の意図を感じます。閉鎖したら我々現場社員は履歴を閲覧できなくなり、検証も反省もできません。ヤラセ質問事件は、まだ誰も責任者が処分されておらず社内でけじめもついていませんが、証拠を全消しするのは不誠実。反省がなく、学生を食い物にする企業体質を感じます」(社員)
現行Teamsの閉鎖は、学生キャリア支援推進部(旧大学支援推進部)7月20日の部会で、吉田純子リクナビ編集長から、130人ほどの部員に対して説明があったものだという。
赤枠がTeams履歴。2023年6月4日朝日新聞朝刊「リクルート『サクラ』繰り返す」。ウェブにも掲載されている。 |
過去のLINEグループ履歴から続々と違法な証拠が掘り起こされて報道が止まらないビッグモーター事件と同様、社員どうしのやりとりをマイクロソフト社のTeamsの機能を使ってチャット感覚で気軽にやりとりしていたリクルートも、次の問題がバレる前に葬った――とみるのが普通の見方だろう。
6月4日朝日新聞朝刊「リクルート『サクラ』繰り返す」では、サクラ行為をはじめ不適切発言が証拠として残ったため、メディアに公益通報され、問題となった経緯がある。
全国規模で“サクラナレッジ”を共有
事前にサクラ役は決めて、役割分担 |
運営側は、裏でどのようなインセンティブで、何を考えているのか。学生側のリテラシーを高めるため、消されたものを公共目的で記録しておく。“リクナビの知られたくない裏側”の1面である。
①社内チャットをみると、普通に役割分担として、「チャットサポートがAさん、電話対応&サクラがBさんとCさん」というように、サクラが役割として割り当てられていた。
「サクラチャット」例を共有する素材。質問と答えを、すべて自作自演。名古屋学院大学でのセミナーにおける裏側。 |
②「サクラチャット素材」なるものもファイルで共有されていた。
学生に、複数インターンシップをエントリーさせてリクルートが(企業から)儲けるために、「何件ぐらい行ったらいいですか?」とサクラ役が学生を装って質問し、誘導していく。
もはや、詐欺行為である。このような誘導で学生にエントリーされた企業も、一緒に学生を騙していることになる。
サクラの仕込みは、全国規模で、ナレッジとして共有されていた |
③積極的にサクラを活用することが全国規模で奨励され、ナレッジとして共有され、評価されていた。リクナビ登録や、リクルート主催大規模セミナーに申し込ませるため、「サクラを仕込んで申し込みの質問をさせる」など、騙しの手口が、堂々と全国規模で共有されていた。リクルートのカルチャーがよく表れている。
たとえば右記は、「九州」チームに所属する社員が、「首都圏」グループの「サクラ活用ナレッジ」を活用した成功事例を、「関西」グループに対してのチャットで、「以下是非やってみてください!」とヤラセを呼びかけている。一部の社員どころか、間違いなく全国規模である。
「1人2役やりました」 「もう誰がサクラでサクラじゃないのか…」「サクラ増やす?」やらせだらけのリクナビ就活セミナー。サクラをキーワードに無数に出てくるチャット。 |
モラルやコンプラの意識は低く、チャット内で咎めたり、やめさせようとする発言はない。もはや、宗教がかっている。この投稿グループ「大学支援推進部」(約130人)のライン長は、リクナビ編集長のポストにいる吉田純子部長で、もちろんこの投稿を閲覧できる立場にいる。
④少人数体制の場合は一人で二役やったり、大人数では複数のサクラが仕込まれていた。「1人2役やりました」「もう誰がサクラでサクラじゃないのか…」といったチャットコメントが残っている。「サクラ増やす?」「今度サクラやるので教えて下さい」など、チャット内で活発に打合せがされていた。
最初から最後までヤラセも
Fラン大を「動物園」と表現するリクルート社員。ユーザー側の学生は人間扱いされていない。 |
「動物園を見事に手懐けていて素晴らしいです」というコメントは、こうしたやりとりを見ていると、納得である。「顧客を動物扱いして軽んじているのが不誠実だと思います。Fラン以下は人間でない、との認識のようです」(社員)
背景には、2010年の大学設置基準の改定により、キャリア授業が必須化した流れがある。リクナビの就活セミナーが、卒業単位になる授業の1コマとなっている。だから、嫌々ながらも、学生は出席するのだ。
「Fラン大だと、最初から最後までサクラが質問し続けないと、全く質問がなくて盛り上がらないこともあるんです。やらないと、競合のマイナビなどと比べられて大学側の満足度が下がってしまうのと、企業セミナーの場合は、クライアント企業が次回の説明会を発注してくれなくなることを恐れています」(社員)
単位のためにセミナー出席する無気力大学生たち、学生を装ってサクラがヤラセ質問し自作自演で盛り上げるリクルート社員たち、それをみて喜ぶ大学と企業。リクルートとしては、ヤラセの質疑応答から学生に企業インターン説明会の予約に誘導し、就活イベントを予約させ、リクナビに登録させ、企業から出展料をもらって稼ぐ。なにやら全体として、世紀末世界なのである。
こうした構造のなか、サクラはリクナビにとって、必須の手段となっていった。効率がよいからだ。1人2役こなすことについて、「大変だけど意外といけた」「自分の質問に自分で答えるのが辛すぎただけ」といった感想を書きこむ社員もいた。
調査に応じず、社員には嘘を答えるよう指導
想定Q&A集。調査には応じず、社員には嘘を言うよう指導。 |
津田塾大や相模女子大など様々な大学(そして様々な企業セミナー)でヤラセが行われてきたが、「ウチでもやったのか」という大学側からの問合せに対し、リクルートは調査にすら応じていない。社員にも「一部の社員がやったこと」と、事実と異なる答えをするよう、想定問答まで作っている。なかなか不誠実な態度だ。しかも、バレないようにチャットは閉鎖して証拠隠滅してしまった。
虚偽の答えをするよう社員に強要する行為は、パワハラにあたる。少なくとも130人規模の全国組織で共有されていたナレッジなので、「一部」ではない。上場企業のコンプライアンス上、実に問題である。大学や企業の調査依頼に対しては、事実を明らかにする責任が当然ある。そうしなければ、大学と企業自身が、社会からの信用を失ってしまう。
組織的・幹部ぐるみだった
左:「まずサクラしこんでね」と部下に指示を出すリクナビ副編集長(GM)。 右:就職みらい研究所の栗田貴祥所長宛てのチャット。 |
「対外的には、『弊社社員の一部が参加学生を装い』とプレスリリースしていますが(6月5日付)、もちろん一部ではありません。『20件あったことを確認』と公表していますが、もっと数えきれないほど多いです。組織的で、GMや部長以上が関わっています。所管する吉田純子リクナビ編集長(部長)は当然として、たとえば、セミナーに登壇した就職みらい研究所の栗田貴祥所長(GM)らにメンバーが送ったZOOMセミナーの反省投稿でも、『もっと仕事のやりがい・仕事で苦労した話等を深くきけるように、サクラ質問を用意しておけばよかった』と記されています(2021年5月31日)。幹部ぐるみ、といってよいと思います」(社員)
2023年6月5日付「一部報道について」 |
この「一部報道について」というリリース(右記)は、なんと「プレスリリース一覧」にも載せていない。なかったことにしようという、実に反省のない、子どものような態度である。なぜこうも感覚が麻痺しているのだろうか。
リクルートとしては、この程度のことは以前から空気のようにやってきたので、組織ぐるみというよりも、カルチャーとして常識だった、という認識なのかもしれない。
問題を起こした現場組織と、責任ある部長以上の役職者たち |
これが、カルト宗教的文化を持つ会社の怖いところであり、また、それが強みでもある。コンプラ基準や正義の概念が世間と違うことによって、誰も疑いをもたずに、一般社会ではやらないことをガンガン進めることができるからだ。
このヤラセ事件は、新卒division長・加藤剛史>>営業統括部長の大貫聡一郎>>リクナビ編集長の吉田純子部長——というラインで発生した。
大貫聡一郎・新卒Division営業統括部長「情報の流通が問題だった」 |
大貫聡一郎・新卒Division営業統括部長は、本件についての社内向け報告動画で、「情報の流通が問題だった」と説明。これを聞くと、外部にバレたことを問題視しており、もっとうまくやれよ、とも解釈できるものだった。リクルートの学生軽視カルチャーを改善するには、むしろ外部に全開示して世間様にチェックしてもらう透明性こそが必要といえるが、真逆の対応である。
「完全に開き直っています。悪びれる様子もない。1ミリも反省していません。動物園発言については触れてもいません。むしろ、内部告発をした人のほうが悪い、という風潮が社内ではあります」(社員)
やましいことをしている認識はあるが、けじめをつけるほどでもない、さっさと忘れて次へいこう――。実にリクルートらしい、創業以来培ってきた前向きな認識と、軽いノリといえる。学生を商材化して企業に販売するリクナビのビジネスモデルは、まさに同社の祖業だ。
トヨタ地銀NHK電通…サクラは企業セミナーでも
朝日の6月報道記事(リクナビ就活セミナー「サクラ」事件)には、続きがあった。ここでいう就活セミナーとは、特定の企業案件ではなく、学生のリクナビ登録を促進するためにリクルートが大学生向けに無料で実施しているガイダンスを指していた。就活マナー講座だったり、自己分析講座だったり、である。
今回、新たにわかったのは、企業協賛のセミナーにおいても同様に、やらせ質問(サクラ)が横行していたことだ。企業からカネをもらってまでサクラ行為をやるのは、実に不誠実と言わざるを得ない。企業の信用まで貶めてしまう。
企業の就活セミナーでもヤラセが発覚。上:告知 下:参加企業など。 |
「実際、私が関わった就活セミナーでも、トヨタ自動車の子会社や地方銀行をはじめ、特定企業からお金を貰って、リクルート社員がサクラをしていました。これは事実ですし、私自身が証言できます」(社員)
こうした企業セミナーは、企業から報酬を貰って、学生に企業説明会を行うもので、メインのプレゼン役が1人で、サポートが2人ほどの、計3人体制が多い。サクラは、ZOOMやTeamsから、学生を装って質問をするのだという。このトヨタと地銀のセミナー概要は、以下のとおりだ。
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電通、NHK、官公庁、東京都の就職セミナー
企業からは生放送で定価75万円のWEBセミナー料をとる。
リクルートのリボンモデル
大学が実施しているガイダンス一覧(社内説明資料より)
その大学にプレエントリーした企業名をランキングで大学側に提供
学生個人単位で、リクナビをどのくらい活用しているのか、ログイン回数やエントリー社数などまで、大学側にウォッチされてしまう。学生にプライバシーはなくなる。
就活イベントの出展料は1ブース200万円(税込)にもなる。
大阪の就活イベントは1ブース標準で60万円。
新卒紹介は業界相場どおり、リクナビでも100万円/1人
『リクナビ』スタータープランは5万円から。シンプルプランは、20~30万円で叩き売られている。
リクナビ+ウェブセミナーに、学歴フィルター機能や広告等を抱き合わせて、190万円がおススメプラン。
「学生キャリア支援推進部」不祥事の歴史(同社研修資料より)
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