セールスフォース「オハナ・カルチャー」の嘘〝家族〟を「PEP or PIP」で雑に16%削減
〝口止め〟退職パッケージで評判を操作、「働きがいある会社」を偽装
よくもここまで会社側だけに一方的に都合のよいアンフェアな内容を書けたものだ、と感心する「退職合意書」の一部。「誹謗行為の禁止」「その他秘密情報の秘密保持」「一切の請求権の放棄」…と、公序良俗に反する日本国憲法違反の内容が並ぶ。 |
Ohanaとは、ハワイ語で「家族」を意味する。社員を家族同様に尊重し、支え合う「オハナ・カルチャー」を企業理念に掲げ、日本の社員評価サイトや口コミサイトでも「働きがいがある会社」(GPTW2024年版で4位、オープンワーク2023年版でも4位)だと持ち上げられてきたのが、顧客管理ツールを展開するセールスフォース(本社・米カリフォルニア州)。だがその評価は、偽装された虚偽の情報をもとにしている。退職パッケージで、口コミ・SNS・ブログ等も含め社外に対していっさい悪い評価を書けなくする「退職合意書」を結ばせているからだ。秘密保持条項は、自分らは守らないが社員だけは守れ、とまるで社員を奴隷扱い。そして「一週間以内にサインしろ」と迫り、弁護士に相談する時間すら与えない悪質さである。筆者が取材した多くの事例のうち、代表的な3件あまりを報告していく。
- Digest
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- 「オハナ・カルチャーとは何だ?」
- 1ヶ月の「インフォーマルコーチング」
- 「1年で同期入社の半分が辞めた」体育会系軍隊組織
- PEP=Prompt Exit Packageという退職勧奨
- G社の5分の1とショボい割増退職金&「1週間で決めろ」
- 広範な「誹謗行為の禁止」「その他秘密情報の秘密保持」
- 「口止め料」で不利な評判を封じる悪質さ
- PIP「1日8時間で収まる訳がない、何を言ってもダメ出し」
- 1年で16%削減された日本法人社員数
- 休職中にも平気で違法な退職を迫る人事部マネージャー
- 最後まで退職合意書を拒否
「オハナ・カルチャーとは何だ?」
2023年10月28日掲載、実態を取材せず広報戦略に乗せられるままに誤報する日経記事 |
セールスフォース・ジャパン元社員のX氏(50代前半)は、日系・外資のIT企業8社での豊富な経験を買われ、2021年、ITエンジニア職「グレード7」のポジションで入社した。マネージャークラスの専門職である。
経緯としては、創業者マーク・ベニオフの著書『トレイルブレイザー』(2020年7月邦訳出版)を買って読み、感銘を受けていたところ、偶然、人材紹介会社ビズリーチ経由でスカウトを受け、2021年夏、納得いく水準の待遇でオファーを承諾。年収は約1500万円の12分割払いだった。
セールスフォース・ジャパン=CRM(Customer Relationship Management)・SFA(Sales Force Automation=営業支援システム)の分野において、クラウド&SaaSでサービスを展開するグローバルトップシェア企業「米国Salesforce」の日本法人。2000年4月設立、社員数3276人(2024年3月)。創業者マーク・ベニオフは、オラクルに13年勤務したあと1999年に起業。『タイム』誌オーナー。
X氏は、長らく企業へのシステム導入・提案に携わってきた経験から、専門職としてセールスフォースのソフトウェアをクライアント企業にカスタマイズして導入するプロジェクトに、特定技術のエキスパートとして参画することを期待されていた。
新人研修では「オハナ・カルチャーとは何か」という導入プログラムがあり、レズビアン当事者の現役社員・岡林薫氏がセールスフォースの「平等」についてレクチャーする時間があるなど、感心したという。
2023年1月の従業員向けCEO書簡。日本法人は1支店に過ぎないため、トップダウンで1割カットが断行されていった。 |
必要な社内資格を取得し、最初のプロジェクトに入って、無事完了したのが、2022年の春前だった。その頃から、GAFAはじめ米国IT業界は、コロナ禍(2020~2021年)に増やしすぎた人員の余剰感が明るみに出て、リストラが始まっていた。2022年半ば~2023年にかけて、である。
セールスフォースも例外ではなく、2023年1月、マーク・ベニオフCEOによる従業員向け書簡(左記)で「10%の人員削減を決断」が打ち出された。
マークCEOの従業員向け書簡・筆者訳 |
「2023年1月にマークCEOの書簡が送られた時の怒りは忘れません。人を採りすぎたから、アメリカでは解雇、日本では退職勧奨で減らす、と。社内slackには、Airing of Grievances (苦情の吐露)というチャンネルがあって、レイオフ発表の時には、『オハナ・カルチャーとは何だ?』という議論も起こり、英語で怒りの投稿が殺到していました。日本法人では社内slackのような表立った場でレイオフの話題をする人は少なかったのですが、グーグルミートのような、表に出ない場で同じような疑心暗鬼が渦巻いていました」(X氏)
社内SLACKでは、社内で有名人だった岡林薫氏のレイオフを惜しむ声が飛び交った(2023年3月退職) |
前述の研修で登場した岡林氏も、このタイミングでポジションクローズを理由に退職勧奨を受けたことを、社内slackとリンクトインで「I was impacted by the layoff(私はレイオフの対象となった)」と告白。
LGBTQ+やEqualityといった同社の「平等な価値観」の普及に貢献してきた象徴的な人物までがターゲットにされたことに社内の驚きは大きかったようだ。(右記)
「新人研修を担当していたため、2018年以降に入った社員は、みんな彼女にお世話になっていて、社内で好感を持たれていました。それだけに、彼女がレイオフ対象となったことに衝撃を受けた人は多く、社内SLACKとリンクトインでは多くの社員が退職を惜しむコメントを寄せていました」(X氏)
1ヶ月の「インフォーマルコーチング」
X氏自身も、2つめに入るプロジェクトが決まらず、2022年はアベイラブルの状態が続いた。そんな折、上司とのOne on One面談のなかで、実名でのSNS上でのコメントをめぐって削除するよう指導されるなど、上司から「面倒くさいやつ」と思われるようなトラブルがあったという。
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スピークアップ(内部通報)窓口は形だけで実態は人事部が兼務しており、第三者性がない。相談しても半年近く結果が伝えられないお粗末さ。ハラスメント対策のガバナンスが機能していない。
「セールスフォースジャパンからの自主退職について」
退職合意書(計12ページ)。ありえない条項が満載。
X氏に課された「業績改善計画(PerformanceImprovementPlan=PIP)」
セールスフォース・被保険者数推移。資料はレイオフ前の令和4年10月からレイオフ後の令和5年12月まで(日本年金機構への情報開示請求による)
「退職に伴う確認事項」
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MyNewsJapanだしな。セールスフォースのリストラと雇用が雑なのはホントっぽいけど https://www.businessinsider.jp/post-275519 リストラされたらいい印象ないのは当然というか、退職合意書はSNSで荒れるのを防衛したいんじゃないの?
“日本法人では社内slackのような表立った場でレイオフの話題をする人は少なかったのですが、グーグルミートのような、表に出ない場で同じような疑心暗鬼が渦巻いていました”
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