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セールスフォース「2日以内に割増2ヵ月分の退職パッケージにサインしなければ翌日からPIP開始」――脅迫的手法で指名解雇

情報提供
サムネ再度塗りつぶし分
「株式会社セールスフォース・ジャパンからの自主退職について」

筆者がZ氏から連絡を受けて取材したのは、今年に入ってからのことだ。人事マネージャーから「PEP or PIP」の通告を受け、決断を迫られているということで、合意書にサインする前に、話を聞いた(筆者がセールスフォースをめぐる裁判記事などを書いていたため)。通告された日から数えて、「2日後までにサインをしないと、3日後からPIPを始める」と言われた、というのだ。同社ではPIPに入ったら元の仕事には戻れないことが、よく知られている。専門家に相談する時間を与えぬまま退職に追い込む、実にグレーな手口で、脅迫に近い手法だ。前回報告したX氏のケースに続き、より切迫したレイオフ(指名解雇)の現場を報告する。

Digest
  • 2024年も続くレイオフ
  • トップダウンカルチャー強まり「専制主義国みたい」
  • 「人件費は変動費」の米国企業
  • 「2日後18時までにサインせよ」
  • 「払い渋り」2日以内に決断しないと割増「1ヶ月分」に減額
  • 12ページ→7ページになった退職合意書
  • 「請求権放棄」「広範囲の誹謗禁止」残る
  • 「何を書いても、褒めても、誹謗中傷になりそう」な条項
  • 考える間もなくサインし転職
  • 情報の非対称性を悪用

2024年も続くレイオフ

セールスフォースの中核組織は、EBU(大企業担当)とCBU(中小企業担当)というユニットで大元から分かれる。EBU=Enterprise Business Unit、CBU=Commercial Business Unit、である。それぞれに主要職種が配置されている。人数が多い職種は、①営業職 ②アーキテクト職 ③サポート職 ④バックオフィス職の4つで、営業の頭数が一番多いという。

■セールスフォースの商流と職種

①営業職がアカウントの突破口を開き(インサイドセールス=電話営業部隊もいる)、②アーキテクト職が技術面やビジネス面から現状分析や効果検証を行い(コンサルティングや技術営業の役割)、営業職とともに、セールスフォースライセンスの導入プロジェクトを顧客に決断させる。ソフトウェアの導入実務=インプリ(実装)は、パートナー企業(外部の協力会社)が担当するため、社内にSIの実装部隊はいない。営業とアーキテクトは、実装を側面支援する。導入後は、③サポート職が効果的な活用方法を教えたり、トラブル対応を行う。④バックオフィスはどの会社にもある人事や労務などで人数は少ない。これら全体で、日本法人の社員数が計3251人(2024年5月)いる。

Z氏(40代)は、大手ITベンダーやコンサル会社の計3社でキャリアを積み、アーキテクト職としてセールスフォースに中途入社した。同社に中途入社するキャリアとしては、ごく一般的である。今から4~5年前、2020年前後のことで、基準年俸は1500万円だった。入社後は、5~6個のセールスフォース導入プロジェクトに関わり、順調にキャリアを積んだ。

セールスフォースジャパンは2000年の設立以来、長らく2桁成長を続けて組織を拡大してきたため、日本法人では過去にレイオフの話を聞いたこともなかった。

ところが、主にグローバルで、コロナ禍(2020~2021年)に社員を大量採用して飛躍を目指した戦略が失敗し、余剰人員が発生。売上高成長率は、わずかながら鈍化してしまった。その結果、2023年1月、マーク・ベニオフCEOが、グローバルで従業員10%をカットする書簡の公表に追い込まれている。

セールスフォース業績推移。日本法人の売上はグローバルの4.5%にとどまる。

2024年に入っても、グローバルで従業員700人(1%相当)カットの計画が報道されるなど、リストラが続いている(2024年1月27日、『ウォールストリート・ジャーナル』より)。リストラ効果もあり、2024年1月期は過去最高となる50億ドルの営業利益を出した(前期比4倍)。

トップダウンカルチャー強まり「専制主義国みたい」

セールスフォースの業績バックデータ
グローバルと日本の業績推移。アクティビストの圧力で2024年1月期は50億ドルの営業利益を出した。世界第4位の経済大国・日本市場の営業利益は、その0.7%にあたる55億円でしかなく、セールスフォース全体から見たら、ほとんどゴミくず程度の存在感しかない。

10%人員削減公表(2023年1月)以来、日本法人でも全社的にレイオフ(指名解雇)が続いている。EBU(大企業)担当の営業部門アカウントマネージャーによると、営業職の組織でも昨年、レイオフが実施されたという。

「私は10年以上、この会社の営業部門に在籍していますが、レイオフは初めてです。By NameでUS本社から『この人を切るように』というリストが降ってきて、私自身の部下も1人、レイオフしました。ただ、同時に自己都合退職で辞める人も増え、人員が減りすぎたため、直近では、また頭数を増やしており、レイオフで去った社員の出戻り入社まで出てきています」(EBU営業マネージャー)

しょせんグローバルでの数字合わせとはいえ、会社側としては、パフォーマンスが悪いという理屈をつけて辞めさせたはずではなかったのか。「たとえば、マネージャー職としてはそのタイミングではパフォーマンスを出せなかったけど、1営業担当者としては成果を期待できるので、再び採用する、というケースがあるのです」(同)

レイオフは、マネージャー自身が直接、誰を辞めさせるか決めているわけではない。バイネームで上から降ってくるものを処理しているだけだ。上から指示が来たら、ドライに、その通り実行する。グローバルからの業績達成圧力が強まったコロナ禍の時期からは、特にトップダウンカルチャーが強まり、そういった従順な人物が高く評価される傾向が強まったという。

こいで社長
小出伸一氏。日本IBM出身。2014年よりセールスフォースジャパン社長。10年目。

「ウチは小出伸一(会長 兼 社長)、古森茂幹(副会長)、伊藤孝(専務)の3人で全てのことを決めているような会社です。この3~4年、グローバルでの成長率鈍化懸念から余剰人員のレイオフやアクティビスト(エリオットマネジメント)による利益向上圧力がかかり、グローバルから小出社長経由で現場に降りてくる数字達成のプレッシャーが強くなりました。上の言うことは絶対で、厳しく詰められ、社内は(北朝鮮、中国、ロシアのような)専制主義国みたいです」(同)

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株式会社セールスフォース・ジャパン(以下、当社という)からの自主退職について(日英全文)

Z氏への退職合意書(計7ページ)

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