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AWS 会社都合のレイオフでサイニングボーナス&RSUまで没収、〝奴隷〟を使い捨て

「今の人材市場環境を考えたら、安い年俸で契約してしまった」

情報提供
2本目:サムネ収入証明書
アマゾンウェブサービス(AWS)の収入証明書(過去1年間)を提示するA氏(30代)

「資本主義経済で働く以上、レイオフはあっていいと私は思っていますが、会社側の一方的な都合で在籍を打ち切る以上は、最初に『3年半在籍したら160株付与』と約束したRSU(Restricted Stock Unit)は、在籍したとみなして全て付与すべきだと思います。丸2年目の終わりまで毎月分割して支払われるサイニングボーナス(入社一時金)も、満額支払うべきです。こちらに非はなく、辞める意志もないのに、没収はひどいと思いました。奴隷の使い捨てみたいで、血が通っていない」(A氏、以下同)。結局、RSUは20株しか受け取れず、入社したのに「入社一時金」も打ち切り。アマゾンでレイオフになると、当初、入社前にぶら下げられていたニンジン、すなわち想定されていたボーナス類は、すべて強制没収となる点に注意が必要だ。

Digest
  • レイオフのコンセンサスがない
  • 一見、高く見えるだけの外資給与
  • 支給する気のない後払いボーナス
  • AWS&アマゾンの報酬構造
  • ジョブレベル「L4とL5で9割、社長でL9」
  • 昇格はマネージャーとの関係が重要
  • 福利厚生「アマゾンでの買い物10%引き」
  • ぜんぶ合せても1500万円余り

レイオフのコンセンサスがない

2本目:RSUの1枚目
グローバル制限付株式ユニット報奨契約書の冒頭(赤字は追記)。いわゆるRSU(Restricted Stock Unit)。1ユニット=20株。一定期間の勤務継続(つまり「3.5年は働いて下さいね」ということ)を条件に提供。勤務を一方的に打ち切っておきながら付与しないのは、制度趣旨に反している。

日本ではレイオフ(指名解雇)は違法なので、形式上だけ、社員が自主的に「任意退職」したことにする。

それならば、「当初予定どおり3年半在籍したとみなして株(RSU)を付与するから、申し訳ないがレイオフに応じてくれ」、というなら理屈も通る。そもそも、「採用したからには、その時期までは働いて貰いたいので、その前に自己都合で辞めた場合は受け取れない条件とすることで勤続のインセンティブにする」――という趣旨だからだ。

サイニングボーナスも同様で、入社ボーナスを受け取って、入社翌月にさっさと辞められたら困る、少なくとも2年は働いてくれ――という趣旨で24回の分割払いになっている。A氏は、レイオフで雇用とキャリアを奪われると同時に、RSUとサイニングボーナスを合せて、時価400~500万円分の権利も没収され、ダブルパンチとなった。

日本の人材市場特有の事情もある。

「米国ではレイオフは傷になりませんが、日本はレイオフに対する労働市場全体のコンセンサスができていませんから、キャリアに傷がつきます。だから、米国と同じ感覚でレイオフをされると、労働者は想定以上の不利益を被ります。人材紹介会社の人たちはレイオフを理解していますが、その先の中途採用する企業側(米国企業をのぞく)は、1年で離職というだけで『当人のパフォーマンス不足では』と誤解されたり、すぐに辞めて定着しない『ジョブホッパー』とみなされがちで、転職市場でよい評価を得られにくい。だから、傷が深い分、補償も手厚くないと、バランスがとれません」

なかでも今回は、タイミングが最悪だった。ツイッター(X)、メタ、グーグル、マイクロソフト…と、米国系テック大手が、2022年末~2023年にかけて人員削減を行い、グローバルで軒並み各1万人超のレイオフを行ったため、一時的に需給バランスが崩れ、買い手市場になってしまった。日本でも同じだ。似たような経歴を持つ人材が大量に市場に放出されたため、平時に比べ、同じスキルを持っていても、安く買い叩かれてしまう。プチ・コロナテックバブル崩壊の余波で、単純に、人材供給過多になったためだ。

2本目:採用内定通知書1枚目
「雇用開始日および給与」から始まる採用内定通知書(オファーレター)

「今の人材市場環境を考えたら、安い年俸で契約してしまった、と思っています。実は退職後、私のこだわりもありますが、数十社の採用面接を受けたものの、辞めてから8か月間、再就職できていません。紹介会社からは『同じようなプロフィールの人が多く、GAFAで1年という中途半端な経歴だと、競り負けてしまう』と言われています」

確かに、同じ営業職で同じ年齢帯なら、AWSでのいかにも中途半端な「キャリア1年」よりも、「他のGAFAMで3年」のほうが、職務経験に基づく再現性を期待できるので、採用されやすいだろう。

米国企業は、社員の辞めたあとのことなど一切考えずに、普通に1年以内でもレイオフするので、最初の契約で、ダウンサイドリスクを想定しておくことが重要、ということだ。

一見、高く見えるだけの外資給与

JTC(日本の昭和企業)大手の実質終身雇用つき年収500~700万円と、1年以内のレイオフもある外資のトータル年収1000~1300万円は、実はほとんどイコールだ。一見、高く見えるだけの年俸に騙されてはいけない。

JTCでは、裏に隠れてみえない退職金・企業年金・住宅補助があるのに加え、累進でかかってくる所得税・住民税と社会保険料負担、そして突然のレイオフから再就職が困難になる転職活動期間の補償分までを考慮する必要がある。

同じトータルの生涯賃金でも、日本国の制度(終身雇用)に最適化しているJTCにずっと在籍しているほうが、所得のアップダウンや転職による没収がない分だけ、実質的な手取りが増えるカラクリがある。

■転職にともなう没収=JTCの退職金や年金は、「自己都合退職」(つまり転職)をすると大幅に没収されてしまうカラクリになっており、入社前にその制度を知る手段はない。政府による開示義務も課されていない。また、1社に勤続20年以上勤め続けると退職金が税制上優遇されるという、勤続年数に中立ではない「終身雇用優遇税制」を政府が未だに放置している。日本政府もJTCも、転職する人が不利になる制度設計を行っており、人材流動化による日本人の賃金上昇を、官民あげて全力で阻止しているのが実態である。

終身雇用という概念がない外資企業は、「見た目の数字だけ」高くなるよう報酬水準を設計している。いざというときは、サイニングボーナスもRSUも、自分だけの都合で、強引に没収してしまう。ワナにはめられた…と思っても、後の祭りである。

A氏の事例をもとに、AWSの待遇について詳細を検証するとともに、外資に転職する人が知っておくべき報酬構造について、以下、詳細に報告する。

支給する気のない後払いボーナス

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アマゾン4つの報酬と確定時期

インセンティブ制度とサインアップボーナス(オファーレターより)

インセンティブ分が入る月の「ジョブレベル4」給与明細書

RSU契約書(入社時)全文

AWS(アマゾンと共通)のキャリアパスと報酬

type掲載の新卒募集要項(会社概要に嘘がある)。

「16個のリーダーシップ・プリンシプル」

アマゾンの福利厚生一覧(amazonbenefits)。ショボい。

アマゾンの収入証明書(ジョブレベル4)。2月、5月、8月、11月はインセンティブが加算。

退職所得の源泉徴収票

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