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AWS カスタマー・オブセッションの嘘「引継ぎもしなくていい、ってどういうこと?」

フォルテ、QBR、ナラティブで伸ばすリーダーシッププリンシプル

情報提供
3本目:サムネ「フォルテ」
アマゾンのコンピテンシー評価「フォルテ(強み)」。ジョブレベル昇格時に重視される。

「社内の会話では、ホントに給料の話しか出ません。インセンティブやRSUを含む給料を、どう自分の趣味や家族に還元するか、といった類の話ばかり。アマゾンが理念の第一に掲げるカスタマー・オブセッション(顧客第一主義)も、嘘ばかりです」——。不本意ながら昨年レイオフ対象となったA氏(30代)は、1年ほどの勤務をそう振り返る。典型的な米国系外資で働いて得られるのは、スキルとカネ。だが、どちらも1年だけでは中途半端だから、使い捨てられた、と感じている。

Digest
  • 「お客様第一」ならやらないことばかり
  • オーナーシップ、シンクビッグ、フルガリティ…
  • 企業理念に社員を向かわせるフォルテ(Forte)
  • QBRでナラティブをレビュー
  • 出身はNTT、リクルート、キーエンスも
  • 全体で3440人
  • 実装はパートナー企業任せ
  • クラウドの供給が途絶する可能性
  • 現場組織と業務フロー
  • いいアカウント、厳しいアカウント
  • 技術営業のKPIはローンチへのステータス変更件数
  • 「クラウドサービス限定の販売代理店」
  • 活発な社内転職、社外は外資かスタートアップ
  • 「週3出社」が義務に
  • 弱みを隠し、ライバル比較はしない

社長が従業員に突然メールを送って、その10日後にはレイオフ合意書にサインさせるAWSジャパン。3~6ヶ月前通告が必要なオフィスの解約よりも気軽に、不要なモノを売るように社員を解雇するのだった。A氏が働いてみて改めて感じたのは、外資、スタートアップ、JTC(日本の昭和企業)の、それぞれで得られる人生の違いだった。

外資=世界で通用する企業でのキャリア(スキル)と年収→対価重視

スタートアップ=生きがいfocus、生き方マッチング→仕事重視

JTC=長期的な雇用の安定とワークライフバランス→生活重視

「外資で、はしごを外されて特に思ったのが、生きがいを考えないキャリアには意味がないな、ということ。生きがいにつながっていないのに、突然のレイオフでキャリアと年収も失ったら、何も残りませんから」

A氏の次のステップは、スタートアップに向いている。

「お客様第一」ならやらないことばかり

20年前はスタートアップだったアマゾンも、巨大化し、グローバル化する過程で、企業ミッションや理念と連動した人事評価のサイクルが仕組み化されており、参考になる点が多々ある。一方で、末端(世界の果て、極東の島国・日本法人)になると、その運用も雑になり、グローバルトップダウンの指示が優先され、理念もへったくれも吹っ飛んでしまうのも事実だ。

アマゾンは、企業理念を明確に言語化し、カルチャーを意識的に醸成することで、強みを形成している。その点は、「あいまいさ」「空気を読め」「言わなくてもわかるだろ」を得意とする日本企業とは圧倒的に異なり、真逆である。

3本目:リーダーシッププリンシプル掲載用
アマゾン社員に求められる「16のリーダーシップ・プリンシプル」

アマゾンが最上位に掲げる企業理念は、「カスタマー・オブセッション」(顧客への執着)。「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」をミッションとしている。

ただ、だれを顧客とし、どんな内容のサービスを展開するかで性質は全く変わってくるので、グーグルの明瞭さ(世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにする)に比べれば漠然としている。

カスタマー・オブセッション(Customer Obsession)=顧客への執着、お客様第一主義。アマゾンが掲げる社員の16の行動原理「リーダーシップ・プリンシプル」のなかでも、これが筆頭に掲げられている。ジェフ・ベゾスが創業時に掲げたミッションも「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」である。

実際に、現場ではどのように運用されているのか。仕事上で、複数の事象がバッティングしたとき、優先順位として、常に顧客が優先されることが、本来の「顧客第一」である。

「何がカスタマー・オブセッションだ、と思いましたよ。営業で進行中の商談だってあるのに、担当顧客の引き継ぎも、一切しなくてよい、明日から来なくてよい、出勤不要だ、というのですから。これは、レイオフになった同僚の営業社員たち、みんな同じです。お客さんにとっては、アマゾン社内の一方的な都合で担当営業が突然いなくなって、迷惑でしかありません」(A氏、以下同)

お客さんは二の次、なのだった。これではCustomer Abandon、客の捨て去り、である。顧客に不便と不利益を与える、「株主ファースト」だ。今回のリストラは、株主向けのパフォーマンスに過ぎないからである。「従業員<お客さん<アマゾン経営陣<株主」という優先順位になっている。

「アマゾンのカスタマー・オブセッションは、嘘です。例年、お客さんから見た担当者も、大半は1年単位で強制的に代えてシャッフルしちゃう。お客さんから、『これまでの経緯を分かっている人に引き続き担当して貰いたいので継続してね』と言われても、1年でバッサリ担当者を入れ替えちゃう。アマゾンにとっての社員は、代わりはいくらでもいる、取替可能な部品、ということ。1年で代わるのは、ぜんぜんカスタマー・オブセッションじゃない。顧客から『担当者がコロコロ代わって困る』と言われたこともあります」

日本企業でもっとも顧客軽視の姿勢が明確なメガバンクや大手証券も、2~3年でどんどん強制的な全国転勤を行い、担当者を代えていく。担当営業から不利な商品を売りつけられ、損失が出てクレームをつける頃になると、「その担当者は異動で居なくなりました」というパターンは、実に多い。AWSは、それを上回る「1年」が中心だという。

金融庁は、日本人の個人金融資産を減らしてでもカネ儲けに走る日本の金融業界に業を煮やし、2017年、「顧客本位の業務運営に関する原則」(フィデューシャリー・デューティー)を公表、モニタリングを開始した。割高な投信手数料や回転売買、仕組みがわからない仕組債の売りつけなどで顧客を騙し、顧客資産を減らしながら金融機関だけが利益をあげる、自己中心的な業界の代表が銀行・証券である。

「担当先は、1年ごとに、3割くらいだけ残して、残りはシャッフルし、全員がリセットされます。少なくとも中小企業向け営業の組織ではそうでした。せっかくお客さんの経営状況や長期ビジョンなどが分かって、これから価値を提供できる提案を、と思っても、2年目には担当から自動的に外されちゃう」

このサイクルだと、短期的な視点になりすぎる。

「逆に、前の担当者が頑張っていて、12月末の決算をまたいで自分に担当が替わった途端に、数字が入ることもあります。これは『インターナルトランスファー』と呼んでいますが、運次第になってしまうので、複数年は顧客を固定すべきと思いました。理念の1つである『Think Big』で、顧客の中長期的なビッグピクチャーを考えたAWS活用を提案するためにも、1年は短すぎて、ジレンマでした」

オーナーシップ、シンクビッグ、フルガリティ…

とはいえ、アマゾン社内の共通言語としてそれなりに浸透しているのが、16個のリーダーシップ・プリンシプルであり、日本企業も、その運用プロセスは参考にすべき点がある。まず気になるのは、16個というのは数が多すぎないか、だ。

「ぜんぶ言える人は少ないと思いますが、特に社内でよく使われるのが、カスタマーオブセッション、オーナーシップ、シンクビッグ(広い視野で大胆な方向性を示す)、フルガリティ(少ないリソースでより多くのことを実現する)あたり。これらの言葉を、日常的に使う人は多いです」

使わないと昇格できない、という実利に結びついている点がポイントである。使う=理解して実践している証明、であり、それを社内昇格の条件とすることで、評価指標に連動させている。日本にも、言霊信仰(ことだましんこう=ある言葉を口に出すとその内容が実現する、一種の宗教的信仰)があるが、実際、言葉によって意識下に刷り込まれていく効果はありそうだ。

企業理念に社員を向かわせるフォルテ(Forte)

3本目:フォルテ掲載用
フォルテ2023の構成

具体的な評価システムとして、アマゾンでは、「フォルテ(Forte=強み、長所、得意)」と呼ばれる360度評価が運用されている。年1回、1月に実施。その準備として12月までに、自分と仕事上で関係のある人たちに対して、評価者になってもらうリクエストを送る。5人以上が推奨され、マネージャー(必須)と、チームメンバーと、それ以外の部署の人でもOKである。

フォルテ(Forte)=強み、長所、得意。フォルテシモ(イタリア語で「きわめて強く」⇔ピアニッシモ「きわめて弱く」)のフォルテ、である。

結果は、グラフ化され、自分の強み、弱み、そしてそのギャップもわかる(記事冒頭の画像参照)。

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社員数は、2911人+529人=3440人(2022年3月)

AWSジャパンの機能別チームとその業務内容

政府が安定調達を目指す「特定重要物資」11分野

AWSの顧客セグメンテーション

AWSジャパンの現場営業組織と体制図

AWS認定資格(10種類)も検定ビジネス化している

社歴5年未満を表す、淵が青色の入館証。5~10年未満が黄色、10~15年が赤色、15~20年が紫色。(公式サイトより)

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