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利益5兆円トヨタの現役正社員が「パワハラで適応障害患った」と300万円の慰謝料請求しトヨタを提訴

10年にわたる実名内部告発で会社から懲戒処分の数々

情報提供
トヨタ写真掲載用
超円安効果もあり2024年3月期に5兆3529億円の営業利益をあげたトヨタだが、昨年から豊田自動織機、日野自動車、ダイハツ工業などグループ内で不祥事が続発。その背景にはものを言いずらい企業風土がある。「もの言う社員」染谷大介氏は、パワハラの損害賠償として300万円の支払いを求めトヨタを訴えた。

日本企業で初めて5兆円超の営業利益をあげたトヨタ自動車だが、グループ内では、製品の信頼にかかわる認証試験で実測値と異なるデータを使用するなどの不正行為が噴出中でガバナンスは機能していない。第三者委や識者は「ものが言いずらい」企業体質を指摘する。実際、トヨタ自動車堤工場に勤務する染谷大介氏(44歳)は「もの言う社員」であるがために、パワハラを受けてきた。2014年に勤務時間中の職場作業でヒザを痛めたのに労災保険を使わぬよう何度も何度も上司に迫られた経験が出発点となり、彼は社内の「労災隠し」や「有給休暇取得させない問題」で声を上げ続けた。その結果、少なくとも9回にわたる注意書や出勤停止処分などを受け、そのなかにはMyNewsJapanへの情報提供が処分理由とされたものもある。今年2月8日、染谷氏はトヨタから受けた精神的苦痛の慰謝料として300万円を請求する訴訟を名古屋地裁岡崎支部に提起。4月18日にその第二回期日を終えた原告に話を聞いた。

Digest
  • 作業中のケガでも労災保険でなく健康保険を使え
  • マイニュースジャパンへの情報提供が「情報漏洩」とされた
  • 注意書その1「機密管理規則に定める秘密を守らなかった」ほか
  • 注意書その2 マイニュースジャパンへの「情報漏洩」と名指し
  • 1トン上回る台車引きビキっと膝に痛みが
  • 業務遂行中にケガしても「とりあえず健康保険で」と上司
  • 「それダメじゃん、労災だよ」の友人の言葉で我に返る
  • 上司から「労災保険使うな」攻勢
  • 小部屋に入れられ5人の上司に囲まれ「健康保険を使え」と
  • 処分理由のひとつトヨタの「個人記録表」とは何か
  • 病院の窓口に上司がやってきて「労災保険から健康保険に切り替える」
  • トヨタは「ケガの原因が分からない」労基署は労働災害と認定
  • 期間従業員が指を骨折する労災が発生
  • 「人が足りないので有休ストップ」有給休暇問題でも注意書
  • トヨタの主張「医療負担が軽くなる方法として暫定的に健康保険を勧めた」
  • 労災申請用紙(様式5号)の二重基準?

※訴状は末尾にてPDFダウンロード可

仕事中の作業でケガでも労災保険でなく健康保険を使え

トヨタ現役正社員の染谷大介氏は現在、トヨタ自動車に対し二つの訴訟を起こしている。

まず昨2023年5月12日、度重なる社内処分の無効を求めて名古屋地裁岡崎支部に提訴。そして今年2024年2月8日に、パワハラなど精神的苦痛を受け適応障害を患ったとして、トヨタに慰謝料を求める訴訟を同じく岡崎支部に起こしている。5月現在、裁判は審理中だ。

現役の正社員がトヨタ自動車を相手取って裁判を起こすまでには、それ相応の理由や長い物語がある。

染谷大介氏は、期間従業員を経て2007年に正社員として登用された。安定し名の通った巨大企業で働くことに、誇りのようなものを感じていたという。

正社員になって7年、今から10年前の2014年8月1日、トヨタ自動車堤工場(豊田市堤町)でのことだった。夜勤だった染谷大介氏(当時34歳)は、7台も連結された重い台車を引いていた。

そのとき、「ピキッと左ひざに痛みが走った」という。

靭帯を痛めたのだが、このピキっという違和感をともなう痛みを感じた瞬間から、染谷大介という人物の運命が変わった。

それまでは、会社にはとくに大きな疑問も抱かなかった。しかし、明らかに仕事中のケガだったにもかかわらず、トヨタから労災保険を使わないで健康保険を使うようにと再三にわたり迫られたことがきっかけで目覚めたのである。

さらに、自身の労災事件をきっかけに社内の労災や働く人の労働条件や労働環境改善のために動くことになっていった。

2023年までに、注意書をはじめ9度も社内処分を受け、自分が勤める会社を訴えるなどとは、ケガをする前の染谷氏は夢にも思わなかったに違いない。

染谷氏に対するトヨタの度重なる処分の理由は、多岐にわたる。染谷氏が作成していたホームページ(現在は閉鎖中)で上司を名誉棄損した、あるいは社外での活動に問題がある、などとしている。

マイニュースジャパンへの情報提供が「情報漏洩」とされた

社内傷病報告書
社内用の傷病報告書。これを読めば、染谷氏のケガは、勤務中の作業で起きた労災だとすぐわかる。

本稿では、マイニュースジャパンで取り上げてきた記事に関連する内容に焦点を絞る。

なぜなら、トヨタが染谷氏に宛てた「注意書」や、いま進行中の裁判では、マイニュースジャパンへの「情報漏洩」を処分理由にしているからだ。マイニュースジャパンが名指しされているのである。

なお、言うまでもなく、労災隠しをはじめとする公益通報を外部メディアに対して行う行為は合法であり、順番も問われない。

「公益通報者保護法」で守られ、マイニュースジャパンは「3その他の外部通報先」に該当する。

消費者庁「公益通報者保護法」通報先に関するQ&Aより

2014年8月1日に染谷氏が負傷して以降、マイニュースジャパンは次の記事を掲載した。

この3本の記事が出て2か月がすぎた2015年3月3日のことだった。染谷氏が出社すると、工場内の応接室に連れていかれた。

課長は「この話は録音させてもらう」と言って机の上にICレコーダーを置いたという。

課長 マイニュースジャパン、知ってるね。

染谷 はい、なんですか。

課長 最初、染谷が情報をもらしたのか。

染谷 その質問に答える必要はないと思います。

課長 ここは会社なんだから言いなさい。

染谷 答える必要はないと思います。

課長 あれは会社の機密管理に違反している。

染谷 ・・・・・

染谷氏は言う。

「それまでに何度も個室に入れられて半ば監禁状態にされ、『まずは健康保険。それがトヨタのルールだ! 会社のルールを守れ!』と何度も何度も労災保険でなく健康保険を使うように強要されてきました。

それがトラウマのようになっていたのですが、このときも課長に、圧迫感で胸が苦しく呼吸がくるしいと訴えましたが、私を思いやるようなことはありませんでした。

圧迫感で苦しい状態で30分くらい“尋問”がつづいたのです。

なんとか耐えて自分の職場に行くと、現場の上司からは「トヨタのルールを守れないやつは会社を辞めろ」と強い口調で言われました。

もしそんなことになったら私も家族も露頭に迷ってしまう。家族を不幸にしてしまうかもしれない・・・。

そう思った瞬間、立っていることもできないくらい胸が苦しくなってしまったのです。救急車を呼んでもらいトヨタ記念病院に搬送され、『過換気症候群』と診断されました」

なお、この点に関してトヨタは、現在審理中の裁判で次のように主張している。

原告は、GL(筆者注:グループリーダー)から、「トヨタのルールを守れないやつは会社を辞めろ」と言われた、職場で日常的に無視する、ただ睨めつけるという人権侵害があったと主張するが、そのような事実はない。

このように両者の主張が完全に対立しているのだ。

個人面倒見表
個人面倒見表。医務室で染谷氏のケガの応急措置をしたことが記録されている。

注意書その1「機密管理規則に定める秘密を守らなかった」ほか

救急車で運ばれた2週間後の3月17日付で「注意書」が発せられた。「会社の定める諸規則に従わなかったこと(中略)業務上の秘密をまもらなかったこと」が注意理由とされている。

その「秘密」とは何か。裁判に提出された被告準備書面(1)にはこう記載されている。

「機密情報である人事情報(「個人記録表」「個人面同意記録表(裏面)」「傷病報告書」)を無許可撮影して外部(マイニュースジャパン)に漏洩」

具体的には、以下のとおりだ。

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マイニュースジャパンへ情報漏洩したとしてトヨタは染谷氏に注意書を発した。これは、情報漏洩でなく内部告発である。

労災保険の件で会社とやりとりのために染谷氏は精神的に追い込まれていった。

最初の労災から10年、会社との緊張状態がつづき適応障害と診断された。

個人記録表。上司により、ケガしたらまず健康保険で受診し労災とみとめられてから労災帆家に切り替えると教育された。そのことを従業員が記録する表。

災害情報。期間従業員が仕事中に左薬指を複雑骨折したことを示す記録。ドアで挟んだことにしようとしてトヨタは労災隠しをしていたが、染谷氏や全トヨタ労働組合(ATU)の労基署への告発などにより、明らかになった。

労災隠しが明らかになり処分者が出た。

有給休暇を申請できないようにしていたとして染谷氏は労基署に行政指導要請書を送った。このホワイトボードの表をマイニュースジャパンに提供したことをトヨタは情報漏洩だとしている。

対照的な二つ労災申請用紙(様式5号)。左は、染谷氏のものだが指示をだすだけでトヨタは自ら記入しようとしいない。一方右は、同僚からいじめで体当たりをして負傷したと主張する竹沢氏(仮名)の様式5号。本人に確認もせず、本人が知らないうちに「右肩と右肩が触れて受傷」などと、ただ軽く触れたかのように記入した書類が作成されていた。

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記者からの追加情報

懲戒処分無効確認訴訟 次回期日5月28日 慰謝料請求訴訟 次回期日7月9日 ※5月26日現在、場所(法廷番号、部屋等)未定

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