アマゾン採用面接官100回超の社員が語る「STARメソッドで見極めるポイント」
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名刺の裏は定番のロゴ |
お客様を大切にするという創業の理念に加え、「地球上で最高の雇用主となり、地球上で最も安全な職場を提供することを目指しています」と、雇用主としてのミッションを追加して4年が経つアマゾン。ベストセラー『GAFA』(スコット・ギャロウェイ、2019年著)では、「小売りのサタン」「地球上から雇用を奪いつくす悪魔」として描かれ、ブラックな印象は依然として強い。採用面接官として100人超を面接し評価してきた中堅社員に、アマゾンが採用しようとしている人材の資質や、社員に求められる役割の変化について聞いた。
- Digest
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- 日本法人は1万6千人雇用
- リファラル採用100万円も
- STARメソッド
- 英語力はジョブレベル7から必須
- 出品者サポート部隊「マーチャントコンサルタント」は多い
- ピザ2枚ルール
- 自動化する、個性を見ない、裁量権がない
- 部下が社内公募→現上司が怒られる

日本法人は1万6千人雇用
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「地球上で最高の雇用主となり…」 |
アマゾンは小売のディスラプター(破壊者)として世界中で恐れられ、日本でも多くの書店が閉店に追い込まれている。フランスでは、本の無料配送禁止を定めた反アマゾン法も成立した。それほど、消費者からは便利であり、支持されている、ということでもある。
2代目CEOのアンディ・ジャシーが、2代目のミッションを示すかのように、アマゾンの憲法にあたるリーダーシップ・プリンシプルに「Strive to be Earth’s Best Employer」(地球上で最高の雇用主になるための努力)を追加したのは、就任3日前(2021年7月2日)のことだった。もう1つ、「Success and Scale Bring Broad Responsibility」(成長と規模には大いなる責任が伴う)も追加して、計16個になった。
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『GAFA四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)より |
アマゾンの影響力が、あまりに大きくなりすぎ、「地上の人間を死に至らしめる騎士」と記されるまでになったため、投資家向けのメッセージとしても、雇用と社会的責任を意識した社員を育てます、ということだろう。
であるなら、何らかの数字や指標を地域別に開示して、トラッキングしてもらいたいが、日本法人の社員数すら開示していないのが現実だ。
日本年金機構によると、アマゾンジャパン合同会社の被保険者数は1万6788人(2024年7月)なので、これが、同社で週20時間以上働く(パートなど非正規含む)従業員数、である。最高の雇用主となりたいなら、雇用の「質」(正規・非正規)と「量」(人数)と待遇情報(平均賃金)くらいは開示すべきだが、すべて闇の中である。
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アマゾンのイメージ画像は『黙示録の騎士』(ヴィクトル・ヴァスネツォフ作、1887年)の第四の騎士。『ヨハネの黙示録』第6章第8節に記される、第四の封印が解かれた時に現れる騎士である。 |
アマゾンジャパンは日本全国に26の物流センター(FC=フルフィルメントセンター、商品保管→ピッキング→箱詰め→出荷)、および配送先に近い無数の仕分け&配送拠点(DS=デリバリーステーション)を持ち、3つのコールセンター拠点(CS=カスタマーサービス、札幌、仙台、福岡)を運営する。社員数の面からは、IT企業というより「物流サービス業」なので、雇用主としての存在感は大きい。
同じ基準の被保険者数で、ECサイトとしては同業にあたる楽天グループ(楽天市場を運営)が1万1878人と、アマゾンの3分の2程度。ヤマト運輸は、ケタが1つ多い11万4697人となっている。この差が大きいのは、アマゾンが配送機能について自社で雇用せず、下請け運送会社や、個人事業主(Amazonフレックス)に委託する水平分業体制をとるからだ。ヤマト運輸も一部でアマゾンの下請けに入っている。
リファラル採用100万円も
アマゾンの雇用は、全体としては非正規雇用数が多いと推測される。物流センターやコールセンターで、非正規雇用が多いからだ。アマゾンがコアな正社員として採用するのは、「本部(コーポレート部門)」を中心とする、頭脳の部分である。採用方法や採用プロセスは、どうなっているのか。
「大卒の新卒採用は十数年前からやっていて、2023年4月入社が約80人で、これは多いほう。採用の中心は、今でも中途採用です。中途入社は、私が入社したコロナ禍前の時代で月60人ずつ入社していましたから、かける12ヶ月で、年720人。私が把握している同期30人くらいの範囲では、既に8割超が辞めています。離職率は高めです」(中堅社員、以下同)
新卒+中途で、年800人。在籍年数の中央値が3年としても、上層部に行くほど「黄金の手錠」につながれて長くなり、なかなか辞めなくなるから(ジェスパー・チャン社長は日本で勤続26年になる)、全体の平均在籍年数としては、5~6年はありそうだ。毎年800人採用し、平均6年で入れ替わるとすれば、4800人が正社員ということになる。
全1万6千人のうち、残りの1万1千人あまりが、期間限定で入れ替わる契約社員や週20時間以上働くパート労働者、ということなら、計算が合う。ざっくり、そのくらいだろう。社員数すら公式サイトに開示しない会社なのに、「Success and Scale Bring Broad Responsibility」(成長と規模には大いなる責任が伴う)と言っているのがジョークである。
■基本情報の情報開示義務がプアすぎる問題
厚労相「しょくばらぼ」「女性の活躍データベース」に開示している企業規模は、15121人。男性:10733人 女性:5862人。有給休暇取得率:76.0%。管理職の女性比率28.0%、男性100に対し女性賃金比率は85.3%(2023年12月現在)。これが、アマゾンジャパンの全開示情報であり、公式サイトのほうには数字がなく、無駄なポエムだけが並んでいる。
日本政府は大企業に開示義務を課さず(義務は女性賃金と女性管理職だけ)、秘密主義を許しているため、15121人のうち正社員が何人かもわからない。雇用の質(正規VS非正規)が隠されており、実態がわからないから、改善にも向かわない。平均勤続年数や平均賃金も不明。平均年齢も不明。これでは、転職先の労働環境を想像できない。あまりに不透明で不確定要素が多すぎるため、転職を決断しにくい。政府が最低限の労働環境の開示を義務付けないと、正確な情報に基づく健全な労働市場の形成を妨げ、中途採用が円滑に機能せず、転職による賃金アップも期待できない。
採用手法としては、直接応募か、紹介会社経由か、社内リファラルか、の3択である。
「中途で、リファラル採用(現役社員の紹介による採用方法)を積極的に進めています。ジョブレベルによって報酬金額は変わりますが、通常は20~30万円で、キャンペーンが走って1人入社で100万円になったことが、過去に2~3回ありました。リファラルのほうが入社後の定着率が高い、とのことです」
STARメソッド
アマゾンはグローバルで採用手法を標準化している。採用プロセスは、トータルで6段階ある。書類選考+英語テスト→グループワーク→1:1の面接×2~3回(バーレイザー含む)→最終面接、だ。
よく知られているように、面接ではアマゾンの社内メソッドである「STAR」に基づいて評価していく。STAR=Situation, Task, Action, and Results、である。ある具体的な仕事の状況下で、PDCAを回してどういう成果を得たか、みたいな行動プロセスに基づく説明手法だ。
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アマゾンの「STAR」メソッドを意識した経歴書が有効 |
「自分は採用面接官の業務を、トータルでゆうに100回以上やっています。
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採用面接は「リーダーシップ・プリンシプル」に沿って行われる
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「彼らは次に進む準備ができているか?リーダーは、社員個人の成功に対し(それがAmazonであっても、他の場所であっても)、ビジョンと責任を持ちます。」
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