武蔵大学調査委が〝研究不正ロンダリング〟インタビュー記録なし、研究ノートなし、記憶なしでも「不正ではない」と結論
大内裕和・武蔵大学教授(社会教育学、前中京大学教授) |
大内裕和武蔵大学教授(前中京大学教授)の著作をめぐる研究不正問題で、調査を行った武蔵大学の調査委員会が、インタビューのメモや録音、研究ノートなど、疑惑を否定し得る重要資料をなにひとつ確認できなかったにもかかわらず「不正ではない」と結論づけていたことが、両大学を相手どった訴訟のなかでわかった。文部科学大臣の定めた研究不正ガイドラインは、研究者に研究資料の保存を実質的に義務付けており、調査にあたっては、疑いをかけられた研究者側が根拠を示して合理的に説明できない場合は不正と認定するよう定めている。ガイドラインを軽視したお手盛りの調査により、意図的に不正を見逃した「研究不正ロンダリング(洗浄)」の疑いが濃厚となってきた。
- Digest
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- 暴かれるデタラメ調査
- 「文科省指針を逸脱した不正調査」
- 「孫引き」に根拠なし?
- 疑惑の「大内発言」
- 存否不明の「公表データ」
- 調査委が捏造した可能性も
- 「『選択』記事読んでいない」は崩壊寸前
- 「1兆円」調査の経緯は「資料も記憶もなし」
- 事例調査は「メモ・録音なし」
- 研究不正ロンダリング
※中京大学予備調査報告書、武蔵大学調査報告書、大内氏が武蔵大学調査委に提出した弁明書はPDFダウンロード可
暴かれるデタラメ調査
中京大学(名古屋市)と武蔵大学(東京都)を提訴したのは今年3月のことだ。大内裕和教授(現武蔵大学教授)の発表した著作多数に私(本稿筆者)の著作からの盗用や捏造といった研究不正の疑いが認められたため、私は2020年9月、当時の大内氏の職場である中京大学に対して調査を求める告発を行った。同大は予備調査をしただけで「不正の疑いはない」と断定し、本格的な調査(本調査)をせずに調査を打ち切った(調査委員の氏名は不明)。
大内氏がその後2022年4月に武蔵大学に転職したため、私はあらためて告発を行った。すると、武蔵大学は本調査を実施することを決定した。調査にあたったのは4人。委員長は副学長の大野早苗経済学部教授、学内委員として高井麻季子事務局長、学外委員は吉澤裕弁護士と袖山裕行公認会計士の2人だ。
はたして、本調査をやった点は中京大学よりははるかにマシではあったものの、結論はやはり研究不正ではないというものだった。
これら両大学の調査のあり方が、文科省が定める研究不正防止に関するガイドラインから大きく逸脱したずさんなもので、それによって告発者かつ盗用被害者として精神的苦痛を受けた、という訴えである。
「文科省指針を逸脱した不正調査」
中京大学は予備調査をしただけで「研究不正にはあたらない」と断定し、調査を打ち切った。 |
文科省ガイドラインやその趣旨を解説した小林信一氏(国会図書館専門調査官)の論文によれば、研究不正の疑義をかけられた研究者は、根拠を示してその疑義を晴らす責任を負っており、それができない場合は特定不正行為(盗用・捏造・改ざん)と認定され得る。前提として、研究者には、研究の公正さを説明できるよう研究記録や資料を保管する義務がある。旧ガイドライン(2006年)では、不正を疑われた研究者が資料を保管していない場合、そのこと自体が不正とみなされた。2014年制定の現行ガイドラインでもこの考えは踏襲され、資料の不在は不正を認定する根拠になり得るという内容に変更された。
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告発1
武蔵大学(東京都練馬区)
武蔵大学の準備書面に引用された疑惑の「大内発言」。過去の発言内容と矛盾があり、じっさいに大内教授がこのような発言をしたのか、疑義をはさむ余地がある。裏付けとなる文書はいまのところ開示されていない。
2023年1月9日付で大内教授が武蔵大学調査委員会に提出した弁明書より
告発2
1兆円問題――日本学生支援機構が民間銀行から借り入れた金額(2010年度期末)を私は雑誌『選択』の記事で「ざっと1兆円」と書いた。大内教授も私の記述とほぼ同じ記述を自身の著作のなかで行い、「だいたい1兆円」と書いた。文章表現の類似性が高いことから盗用が疑われたが、大内教授は、私の記事を読むことなく独自に調べて書いたのだ説明した。ところが、武蔵大の調査の過程で、1兆円は誤りであり正しくは「3800億円」であることが判明。誤記の一致により「読んでいない」という大内氏の説明の信憑性に疑義が生じた。
武蔵大学学長の高橋徳行氏(武蔵大学公式HPより)
「1兆円」と記述した根拠は日本学生支援機構を訪れて職員に取材をした結果であるとする大内教授の弁明状況を記録した調査委員会のヒアリング調書
告発3
事例を捏造した不正疑惑に対する大内教授の弁明。「講演」「シンポジウム」の参加者の発言をメモ等して記述した、録音やメモは保存していないと述べている。「講演」「シンポ」の具体的な日時や場所、催しの名称は明らかにされていない。
日本学生支援機構市ヶ谷事務所(2022年1月撮影)。大内教授は、アポイントメントをとって支援機構を訪れ、「民間銀行の貸付残高」などと確認したと述べる。記録はなく、対応した部署や職員名についても記憶はないという。
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