〝麻雀初心者狩り〟「違法賭博を強要され疲弊して転職しました」中小企業『上司ガチャ』リスク(下)
パワハラ被害エピソード4――加賀電子EMS事業部4人の告発
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在籍証明として、加賀電子時代の源泉徴収票を示すDさん(現40代) |
サラリーマンは上司を選べない。たまたま配属となった部署の上司がパワハラ気質で、会社のガバナンスも機能しないと、詰んでしまう。半導体商社2位の加賀電子(東証プライム上場)もそんな会社の1つで、社内では違法賭博が常態化していた。「プライベートな時間を奪われた上に、貯金も全くできませんでした」――。上司だった岡部剛男(当時は営業部長)によって徹夜の賭け麻雀に約30回も強制参加させられて約50万円を失い、金銭的にも体力的にも疲弊したDさん(現40代)は、そう振り返る。転職の予定はなかったが、ヘッドハンターの誘いに乗る形で、他社へと逃げるように移籍した。
- Digest
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- エピソード4:〝麻雀初心者狩り〟に疲弊する東京
- 上意下達「一事が万事そうなるぞ」
- W杯、ゴルフコンペ…全社的な違法賭博文化
- 「麻雀は営業の武器の1つとして必要」
- 勝てる面子としか打たない
- 自分が負けていると終わらせない
- 大きく負けると4万円、足りなければ〝名刺手形〟発行
- 「岡部塾」徒弟制度で高い離職率
- ホットライン機能せず、人材は離れていく
- 営業の基本は学べるが、相殺されるものではない
「私が辞めたのは8年前ですが、後輩や元同僚によると、今も何ら変わっていないどころか、パワハラ上司が上席執行役員、事業部長に出世して未だに被害者が出ていると聞き、これは放置しておけない、と思いました」(Dさん)
同社の違法賭博は、ゴルフ大会やFIFAワールドカップ等、あらゆるものに及び、常習賭博の疑いも強い。そこにパワハラが加わり、部下は『強制』されるのだから、企業風土としては、ダブルでたちが悪い。
エピソード4:〝麻雀初心者狩り〟に疲弊する東京
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岡部剛男・上席執行役員(同社『統合レポート2024』より) |
Dさん=34~36歳(2014~2016年の被害当時)、八丁堀に拠点を置く東京本社別館のEMS営業部EMS推進第一課に所属する営業職。組織体制は、岡部剛男(EMS営業部長)―S課長―Dさん(ヒラの営業職)だった。仕事内容は、中国をはじめ海外に生産子会社を持つ企業の、日本にある本体(本社)に対する営業。当時のEMS営業部は、岡部部長以下、国内で東京20人、大阪10人くらいの体制だった。
以下の手記は、実際に私が体験した事実だけを記しています。もしこれが、嘘やねつ造の類だから名誉棄損で訴えるというのなら、法廷に出て実名で証言する用意があります。そのくらい本気です。元社員として、これを期に加賀電子がいい方向に変わってほしいと思っています。放置すれば、後々になって、さらに大きな問題になって爆発するだけ、だからです。
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『堀江貴文のブログでは言えない話』2010年10月25日発行号より |
今回、マイニュースジャパンに情報提供したのは、堀江貴文氏の以前のメルマガで堀江氏が言及していて、当時、会員登録してニュースサイトの記事を購読していた経緯があったからです。2010年のものですが、これです(右記)。
上意下達「一事が万事そうなるぞ」
私は加賀電子に新卒で入社しました。就活で最初に内定が出た会社でした。
留学など海外経験はなく語学ができたわけでもないのに、採用面接で「海外で一緒に頑張らないか?」と当時、海外事業部長だった筧新太郎専務から声をかけられ、縁を感じての入社でした。
配属は、その言葉どおり、同社で唯一の海外部門といえる海外事業部EMS営業部でした。これが現在のEMS事業部です。(※このEMS組織の上層部は、筧専務・俊成常務の体制のまま、少なくとも現在に至るまで20年超にわたって上層部が固定化されている)
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新卒入社13年目の年収(源泉徴収票)![]() |
最初の全体研修は優しいものでしたが、EMSに配属されてOJTが始まると、いきなり上意下達の厳しいカルチャーとなって驚きました。たとえば、「上の人が誘う飲み会は、断ってはいけない」というカルチャーが徹底されていました。
異を唱える者に対しては、「お客さんから誘われたら行くのが営業の仕事だ」「一事が万事、そうなるぞ」と指導されます。これが、社内でよく聞くセリフでした。
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辞めたのは入社13年目、36歳で「チーフ」だった。源泉徴収票は11か月分強なので、年収の数値は加賀電子の報酬水準と合致する。![]() |
少し考えてみれば、対お客さんと対社内は別物なのですが、「一事が万事」という理屈が通用している会社でした。
「下の者に対して強い圧力をかけて指導・教育すること」を是とする企業文化があって、新卒の時点からそういう教育を受け続けるため、逆らうことができなくなる構造がありました。
W杯、ゴルフコンペ…全社的な違法賭博文化
入社して分かったのは、加賀電子は賭け事が好きな会社なのだ、ということでした。入社3年目、2006年ワールドカップサッカー(ドイツで開催)のとき、社内メールで情報が回り、どの国のチームが優勝するのか等の順位予想に、社員たちが金銭を賭けていたのを覚えています。
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加賀電子所属のプロゴルファーたちはコンプライアンスのリスクを背負っている。![]() |
子会社の「加賀スポーツ」がゴルフショップを全国展開している関係で、加賀電子は「ゴルフの会社」という一面も持っています(※川岸良兼の娘である川岸史果をはじめ6人のプロゴルファーも所属している)。
社員が参加する社内ゴルフコンペが毎年あって、そこでも「賭けゴルフ」が常習的に行われ、社員の間で金銭が動くのが当り前とされていました。
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〝パワハラ賭博企業〟の経営3トップ。左から塚本勲会長(創業者)、門良一社長、筧新太郎専務![]() |
具体的なルールとしては、1対1の対戦で、全18ホールの前半・後半・トータルで勝敗に賭けて、1日1万円程度の現金が動く、くらいが平均だと思います。この対戦を、顔が広い人は5人10人とやったり、大きく賭けたりもします。
私自身が実際に目撃した範囲でいうと、負けた社員が勝った社員に1~2万円程度を支払っている場面を見ました。
私個人としては、2~4人と対戦して5~7千円ぐらい負けることが多かったです。私はゴルフが下手だったためです。
自分がプレイヤーとしては参加しない対戦の勝敗に賭ける「外ウマ」も盛んでした。「プラス18乗っけていいから」などとハンディをつけて、1打100円で賭けたりもします。
そういう、何でも賭け事にする、全社的な違法賭博文化がある会社でした。これが、本人の意思による自由参加ならばまだマシなのですが、「下に圧力をかけて強権的に教育すること」を是とするカルチャーがありますから、上司に言われたら逆らうことができません。参加するのが当り前、という空気もありました。
賭けゴルフには私も参加して賭けていましたが、ゴルフは自分も趣味でやりますから、まだよかったのです。圧倒的に苦痛だったのは、賭け麻雀でした。これはパワハラだと今でも思っています。
おカネを賭ける賭博は日本では犯罪ですから、そもそもコンプライアンス上、問題なのですが、それ以前に、上司の権力(パワー)で参加を強制されてカネと時間を浪費させられるパワーハラスメント(パワハラ)が嫌でした。
「麻雀は営業の武器の1つとして必要」
海外赴任から東京に帰任した2014年4月、私は岡部剛男(現・上席執行役員、以下敬称略)部長の部下となりました。それから1年間、EMS営業部内で、直属の上司と部下の関係が続きました。岡部部長が、私の人事・評価権を握っていました。
岡部の社内での評判として、「仕事はデキるが、部下の私生活に入ってくるヤバいヤツ」という共通認識がありました。岡部は麻雀が趣味でしたが、麻雀は4人で打つものです。面子を揃えるため、部下が呼び出されていました。
私は当時、趣味で麻雀をやりませんでしたし、興味もなかったので、ルールも知りません。だから「麻雀はやったことがないので」と明確に断っていましたが、「教えてやるから」「仕事の一環だ」と、無理やり呼び出されました。加賀電子の営業組織で上司からそう言われると、前述のとおり、拒否するのは難しいです。
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『麻雀クラブ柳 八丁堀店』の入り口。地下1階で、全8卓の小規模店だったという。![]() |
「おまえがもし麻雀やるお客を持っていたら、武器の1つとして麻雀できるようにしておくのが当然だろ?」というのです。仕事で必要だと言われたら、どうしようもありません。
「今日の夜、空いてるか?」と言われ、まず社内の会議室に呼びだされて、麻雀の役の表を見せられて説明されました。そして、「今日やってみようか」と雀荘に連れていかれました。
そこが、岡部の行きつけの雀荘『麻雀クラブ柳 八丁堀店』でした(入口は右記画像のとおり)。
EMS事業部は東京・八丁堀の本社別館に入っているのですが、そこから徒歩6分ほどの場所にあり、雑居ビルの地下1階でした。
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本社別館から徒歩6分にある雀荘『麻雀クラブ柳』に毎回、呼び出されていた。はなまるうどん八丁堀店と同じブロックにあったが、今は取り壊されて『MIMARU』というホテルが建っている。![]() |
それから、月に2~3回くらいのペースで、呼び出されるようになりました。口頭で言われるか、電話か、ショートメッセージ(SMS)で、誘い、というか命令が来ます。
断るためには、「なぜ行けないのか」という説明を具体的に理詰めでしっかり行わなければならず、とにかく断れない空気がありました。
会社全体として、上の人の誘いは断ってはいけないという教育方針で新人時代から「一事が万事、そうなるぞ」と言われていますから、よほどの理由がない限り、断れません。
勝てる面子としか打たない
友達がいないから部下を呼びだす、という理由もあったと思いますが(→エピソード1:「顧客接待とは関係のない社内ゴルフばかりでした。友達がいないから、部下が駆り出されるのです」 参照)、自分にとって快適な、コントロールできる面子を集めたい人なのだと思います。
私よりも社歴が長い人の話によると、「岡部は麻雀の経験者とは1回打っても、次からは打たない、自分が勝てる環境でしか打たない、勝てる面子としかやらない」と聞きました。だから、私のような、麻雀をやったことがない、ルールも知らないような、初心者だったり、麻雀が弱い相手が集められていました。麻雀初心者狩り、です。
実際には、お客さんの接待として麻雀を打ったことはなく、いつも社内の面子だけで打っていました。残りの面子は、EMSの購買課長など、EMS事業部に所属する社員が多かったです。EMS事業の子会社社員も呼ばれていました。EMS営業部内で購買の情報システム関係をやっている社員も初心者でしたが、召集されていました。
つまり、仕事上で社内のつながりがある、岡部の支配下にいる人たちばかりで、麻雀が弱い人たちを中心に集められていました。人事異動やボーナス査定の権限を持っている上司と、その部下たち、という関係ですから、従わないと人事や出世に響きます。いま考えれば、明らかなパワハラでした。
周囲の人たちも分かっていて、「また呼ばれたの?タイヘンだね」といった反応でした。私は、麻雀に参加しない同僚に対して、怒りの感情すらもつようになりました。なぜ自分ばかりが参加しなければいけないのか、お前らも参加しろ、という倒錯した思いからです。そのときは、そのくらい異常な精神状態に陥っていました。
自分が負けていると終わらせない
定時(17時半くらい)で終わって、同じブロックにある『はなまるうどん』などで各々、軽く夕食をとってから、『麻雀クラブ柳』に18時集合。そこからは、稀に、電車で帰れてよかった、という日もありますが、基本は朝まで続きます。
《自分が勝てる面子としか打たない》ことに加え、岡部の性格的な特徴として、《自分が負けていると終わらせてくれない》というのがありました。終電が近づいて、偶然、その時点では自分が勝っていることがたまにあっても、岡部が負けている状況では帰れないので、残念な気持ちになったものです。これは、参加経験者が、みんな同じことを言っていました。
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