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〝死の商人〟JT 低・中所得国の人々を依存症にして健康をマネタイズする倫理 「社員の約半数が喫煙者なので…」

情報提供
インタビュイー写真掲載用
「社員の喫煙率は半分くらい。忘年会は喫煙可の店が選ばれます。非喫煙者も、自社の商材なので否定はできません」(30代JT元社員)

WHOによると、喫煙による死亡者は世界で毎年800万人以上、うち間接喫煙(副流煙)被害者が130万人と推計され、喫煙者の約8割が低・中所得国の人々。JTは、自社が儲かれば儲かるほど人類は不健康になり人命を失っていく、という倫理的ジレンマを抱え、日本以外の世界の年金ファンドから投資先NG指定を受けている。「ロシアやアフリカなど海外市場への投資でシェアを伸ばし、現地の人たちの健康や命を日本の税収に換えていく仕事――とも言えるのですが、社員の半数くらいが喫煙者ということもあって、そのあたりの違和感や葛藤を社内で聞くことはないですね」。昨年まで在籍した30代元社員に、働く現場の実情を聞いた。

Digest
  • 大麻が解禁されたら
  • イギリスでは生涯禁止法案が下院で可決
  • 喫煙健康被害で訴訟51件、カナダ関連は4千億円負担
  • タバコ衰退までに次の事業が見つかるのか
  • 年800万人以上が亡くなる「死の商人」
  • 年金資金まで投入される鬼っ子的存在

■〝触れない神に祟りなし〟と思わせるJT

メディアの論調を操作する手段として使われるJTのマナー広告「大人たばこ養成講座」

JTは、巨額の広告出稿によってマスコミ報道を操作してくる会社として知られ(→JTと電通が露骨な「報道操作」参照)、筆者も、『週刊SPA!』編集長経験者から「JTについてだけは、いいことも悪いことも含め、一切触れてはいけないんです」と直接、実情を聞いたことがある。

JTは「おとなタバコ養成講座」などの企画広告を気前よく出す代わりに、喫煙にネガティブではない記事であっても、タバコやJTについて触れているだけで、広告主としての立場を利用して細かく記事内容に口出ししてくるから〝触れない神に祟りなし〟――というわけである。

国内では独占事業体なので、もとより広告を打つ必要はない。目的は世論操作で、原発事故前の東電と同じ構図だ。健全な民主主義の否定である。マスコミに流れているタバコ・喫煙・JTについての情報が、巨額の広告宣伝費によって裏で情報操作されていることは、もっと知られるべきだろう。

大麻が解禁されたら

この20年で急激にグローバルシフトしたJT。M&Aを重ね、タバコ売上本数ベースで、約9割を海外市場が占めるまでになった。先進国で禁煙が進むなか、平均年齢が若く情報弱者が多い、発展途上国すなわち比較的貧しい国々が、有望なマーケットになっている。

JTは『日本たばこ産業株式会社法』にもとづく特殊会社で、筆頭株主は37.56%を保有する財務大臣。財務省にとって一級の天下り先である(現在の岡本薫明副会長は、元事務次官)。例年、1千億円超の配当を国にもたらし(1293億円、配当性向74.3%=2024年度)、高配当銘柄としてNISAでの人気も高い。

『たばこ事業法』によって、国内で生産された葉たばこの買い入れとタバコ製造は、JTの1社独占となっている。そのためJTは儲かって当然の事業環境ながら、寺畠正道社長の年収は6億5百万円(2024年12月期)と、自由競争のない規制業種では報酬水準がズバ抜けて高く、財務省を後ろ盾として特権的地位を享受している。

配当とは別に、タバコが生み出す税収(国たばこ税・地方たばこ税・たばこ特別税)も、例年、あわせて2兆円を超える。政府は配当と税収を得て、官僚は天下り、企業は規制に守られ労せず儲ける。JTは「政―官―業」利権の巣窟であり、その構図は、パチンコや風俗(警察庁)、競輪とオートレース(経産省)、競艇(国交省)、競馬(農水省)とまったく同じだ。

すなわち、中毒性の高い『欲望ビジネス』の領域で、特別法によって営業許可(独占営業権)を与える代わりに、監督官庁(財務省)の天下りを受け入れさせ、納税で国に貢献させる。民間に自由に営業させると、依存症患者を大量に生み出し、社会が退廃して犯罪だらけになってしまうからだ。タバコの依存症は、大麻より強いことが知られている。

「社内では、(カナダドイツのように)大麻が日本で解禁されたら、ウチが一番うまく売り始めるだろう、とよく言われています」(元社員、以下同)

これはジョークというより、本気だろう。同じ葉モノで、タバコと大麻は、生産・物流・販路において、相性がよい。麻取(麻薬取締部)を擁する厚労省はもちろん反対だろうが、次なる税源を目論む財務省のほうが、政治力は強い。

イギリスでは生涯禁止法案が下院で可決

タバコの有害性は医学的に確定しているが、その量(閾値=このくらいまでなら無害)については証拠が不十分だという。その「証拠が不十分であること」をもって、受動喫煙にも閾値は存在しない、つまり少量の煙でもリスクがある――さすがにそれは原理主義すぎると非喫煙者の筆者でも思う――という『たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約』には日本もサインしており、健康増進法(国)と受動喫煙防止条例(自治体)によって公共性の高い場所の分煙が義務付けられ、労働安全衛生法によって働く場所での分煙も義務付けられた。この20年ほどで、国内では間接喫煙のリスクが、ほとんどなくなった。

タバコ成分(ニコチン、タール、一酸化炭素…)は「発がん物質」を含んでおり、ニコチン中毒という依存症も引き起こし、本人だけでなく、受動喫煙によって周囲にも健康リスクを負わせる。病人を増やし、健康保険財政を悪化させる。それでも吸う人がいるのは、ニコチンが脳内の神経伝達物質を刺激し、一時的な快感や満足感をもたらすからだ。

様々な研究データがあるが、厚労省研究班によれば、喫煙者は非喫煙者に比べ、男性の場合で40歳からの余命が3.5年短くなる。寿命を3~4年縮めてでもニコチンで心を落ち着ける快感がほしい、太く短く生きたいのだ――という人生観を持つこともまた、個人の自由として尊重されているのが日本である。

クリエイターのなかでも、夏目漱石や芥川龍之介をはじめ歴史に名を遺した愛煙家は多く、唯一無二の作品を生み出す創作プロセスに必要不可欠だったとするならば(その因果関係の立証は不可能だ)、一概に否定するわけにもいかない。

愛煙家だった坂本龍一も、禁煙後に咽頭がんを発症したが、『ラストエンペラー』はじめ若き日の名曲は煙とともに生まれたことになる。ASKA(宮崎重明)が覚せい剤所持で逮捕されたように、無から有を生み出す創作家は、健康よりも創作を優先する傾向がある。スポーツ競技におけるドーピングに似ている。

一方で、公共への脅威という点では議論の余地がない。間接喫煙で周囲に健康被害を引き起こしたり、医療保険財政を悪化させたり、医師や医療機関といった限られた医療リソースに無用な負担をかけるため、成熟した先進国ほど規制が厳しくなっている。

公的医療制度(NHS=ナショナル・ヘルス・サービス、原則無料)の負担になっているとして、イギリス政府は2024年11月、2009年以降に生まれた人に対してイギリス国内でたばこの販売を生涯禁止とする法案を下院で可決させた。同様の生涯禁止法はニュージーランドでも2022年に可決している(施行を前に政権交代があり新政権が撤回した)。

コンビニで簡単に入手できて安い日本2
コンビニで膨大な種類を、安価で手軽に入手できる「喫煙者に優しい」日本

ノルウェー、カナダ、アイルランドをはじめ、重税を課して1箱1千円超の高級品とすることで実質的に吸いにくくしている国も増えている。

日本の規制は甘く、自販機やコンビニで手軽に買えて1箱600円程度と安く、喫煙者に実にやさしい。人命軽視のお国柄が出ている。

喫煙健康被害で訴訟51件、カナダ関連は4千億円負担

51件の訴訟
喫煙と健康に関する未解決の訴訟が51件(有報より)。まだタバコの世界市場は拡大中で、法制度は各国によって異なるため、今後も増える可能性がある。

先進諸国では規制が厳しくなる一方で、過去にさかのぼっての賠償請求も起こっている。JTは2024年度時点で、喫煙と健康に関する訴訟を51件抱えている。うちカナダ関連では2025年3月3日 、4千億円を負担することで和解した、と発表した。カナダでは、健康リスクを十分に説明せずタバコを販売したとして、消費者を原告とする集団訴訟が起きていた。

法務系スタッフ募集
JTキャリア採用ページより

JTは現在、キャリア採用枠で、法務系スタッフを別枠で募集している。JTの2024年度の最終利益(当期利益)は、カナダ案件の損失(引当金4千億円)により1792億円と、大幅減になった。カナダ規模の損失が複数発生すると最終赤字に転落する収益構造である。

日本は企業利益中心主義で、先進国のなかでは人命の価値が法的に安いことで知られるが、北米をはじめ海外で人命や健康を軽視して事業展開すると手痛い目にあうことが、カナダでの集団訴訟で改めて明らかになった。

タバコ衰退までに次の事業が見つかるのか

規制強化の流れは強まることはあっても、弱まる可能性は低い。市場がいずれ縮小に向かうことは見越しつつ、グローバルで売りに出ている会社をM&Aで買い集め、残存者利益を謳歌しようとしているのが、JTの現在のフェーズである。その時間軸について、これから入社して定年まで働くつもりなら、自分なりの市場環境の見通しを持つ必要がある。

大型買収としては、米国RJRナビスコから米国外のたばこ事業を買収(1999年、9400億円)、英国のギャラハー買収(2007年、2兆1800億円)、ナチュラル・アメリカン・スピリット(NAS)の米国外での事業を買収(2015年、6000億円)、を実行してきた。

数千億円以下のものとして、スーダン・ベルギー・イラン・インドネシア・フィリピン・エチオピア・ロシア等のたばこ会社を買収。昨年(2024年)も米国シェア4位のベクターを3780億円で買収した。

「社内でよく聞くのは、(子会社で全世界のたばこ事業を担う)JTインターナショナルでグローバル市場から吸い上げたカネを、伸びているロシア・アフリカ地域などに投資して世界1のタバコ会社になる、国内でベンチャー投資して次の事業を見つける――という話。タバコはまだ海外市場では伸びていますから、衰退するまでに次の事業を探せばいい、という考え方です。長期スパンで見ている会社だと思います」

まるで、原油の枯渇までに次のビジネスのタネを探さねばならない、〝脱石油〟を運命づけられた、サウジをはじめとする産油国のようだ。

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20年で11ポイント下がった世界の喫煙率(WHO)

「毎年800万人以上が喫煙で死亡」(WHOファクトシート:タバコ)

JTのパーパス「心の豊かさを、もっと。」

死亡率は、①ヘロイン②タバコ③アルコールの順に高い(『精神作用物質の分類』より)

JTを明確に排除したノルウェー政府年金基金のガイドライン

ESG投資をうたうGPIFの投資先上位に堂々と入るJT

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