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東インド会社化するJT プーチンに年4千億円「戦争支援」――〝時代に逆らう〟逆張りの国策グローバル企業戦士たち

情報提供
ロシアにおける外資企業の収益変化
ロシアに戦費を与えるJT:ロシアにおける外国企業の収益ランキング変化(2022年→2024年、『フォーブス』より)

健康・人命への脅威だけでなく、戦争支援という軍事・外交面でも倫理的な問題を抱えるJT。ウクライナへの侵略後、西側企業が続々とロシアから撤退するなか、今も事業を継続しており、ロシアでもっともプーチンに貢献する外資企業となっている。その、国家を後ろ盾にしたハードボイルドなカネ儲け主義経営には、冷酷さとともに清々しさまで漂う。グローバル「タバコ商社」となったJTは、いわば現代の〝新型イギリス東インド会社〟だ。「時代に逆らっている会社なので、ひとクセある社員が多いです」(元社員)。その社風は、旧官業にもかかわらず外資っぽいドライな面を持つ。現場組織やキャリアパスについて実態をレポートする。

Digest
  • プーチンへの貢献度1位の「戦争支援」外資に
  • 森永卓郎も新卒組――時代に逆らう〝穏やかなクセ者〟たち
  • 社内の飲み会「喫煙可の店」のみ
  • 1169人リストラ、「4人に1人」が不要なほどユルい人事
  • 上司がスイス人やインド人…グローバル「タバコ商社」に
  • 組織はフラットでプロジェクトベースな外資系、人事と営業はJTC
  • 普通に外国人がいる本社、社内メッセージ「まず英語」
  • 社内インターン制度による社内転職「機能している」

プーチンへの貢献度1位の「戦争支援」外資に

JTは世界シェア4位のタバコ会社(①中国煙草総公司②米フィリップモリス③英BAT④JT)。ロシアのタバコ市場では、シェアトップの41.6%(2024年度)を占める。ロシアで25%弱のシェアを持っていた英国ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が撤退するなど西側企業が手を引くなか、JTは、ハイエナのごとくロシアで勢力を伸ばしている。

■イギリス東インド会社

日本がちょうど江戸時代だった頃の1600年~1874年。紅茶の取引をほぼ独占していた「英国東インド会社」は、英国政府の保護のもと軍事力を持ち、インドで栽培したアヘンを中国に輸出したり、17~18世紀を通じて奴隷貿易を行うなど、現代の基準でいうあらゆる倫理・人権上の悪事を働いてカネ儲けし、英国に富をもたらした。

JTによるロシアへの納税額は年4千億円規模にのぼり、ウクライナから「これはロシア戦闘機100機分の費用にあたる」「戦争支援者である」と非難された。国際的な圧力で閉鎖に追い込まれるまで、ウクライナ政府のブラックリスト(閉鎖前の2024年3月時点のもの)に載り続けた、唯一の日本企業である。

世界各国での市場シェア(2023年度)
JTのタバコの国別市場シェア(2023年度)。市場規模は、トップの中国(国営企業がほぼ独占)以外では、インドネシア、ロシア、米国、トルコと続く(JT『統合報告書2023』より)。ロシアは世界3位の市場規模を誇る。

フォーブスによると、ロシアにおける外資企業の収益ランキングで、JTは2024年、中国自動車メーカーに次ぐ2位の約8600億円(4800億ルーブル)に躍進した。ウクライナ侵略戦争前は6位だったが、独フォルクスワーゲン・仏ルノー・米アップルなど上位企業が撤退したため、繰り上がった形だ(記事冒頭表のとおり)。

タバコはロシアでも嗜好品として税率が高いため、国への納税額では、JTが外資トップとみられる。現在もロシア国内4工場での生産・販売を続けており、約4千人の現地雇用に貢献しているという。並のロシア国営企業よりも、プーチン大統領への貢献度は高い。

JTは日本政府による規制に守られた、政府を筆頭株主とする国策企業なので、間接的に日本が侵略戦争に加担していることにもなり(憲法違反の疑い)、西側の一員として対ロ経済制裁を行う点からも、整合性がない。事業継続を疑問視する声は松沢成文議員(維新)や渡辺周議員(立民)から挙がっているが、政府・自民党は静観している。

ロシアでの国策継続をめぐっては2022年8月、三井物産と三菱商事が参画する資源開発プロジェクト『サハリン2』の運営がロシアの新会社に移管され、両社は出資を続けるか否かの判断を迫られた。結局、日本政府の要請により、LNG(液化天然ガス)権益維持のため両社とも出資を継続している。

日本政府と総合商社がサハリン2において、対ロ経済制裁よりも日本へのエネルギー安定供給の権益を優先させた意思決定は、エネルギー問題が国民生活に直結するだけに、国益という点で理解は可能だ。ところが、ロシアでのJTのタバコ事業継続は、「力による現状変更を認めない」という外交上の立場、および「国際社会において名誉ある地位を占めたい」とする憲法前文に照らしても、かなり危うい。タバコは、ただの嗜好品だからだ。

JT2024年度決算レポートより(ロシア分)
ロシア事業分(2024年度JT決算レポートより)

JTは詳細な国別の損益を公表しないが、ロシア事業は、JT営業利益全体の約2割を生み出す「稼ぎ頭」と推計されている。2024年度の全体の営業利益は7827 億円なので、1500億円程度をロシアから生み出していることになる。この数字は、フォーブスによるJTのロシアでの収益額4800億ルーブル(8643億円)からみても、妥当な試算である。

日本政府への貢献額は、粗い試算になるが、法人税収と配当金を合せて、ベースが年500億円強にのぼり(ロシア市場分)、財務省的には無視できない数字である。

■ベースが500億円強=2024年はカナダ訴訟における4千億円の引当金計上という巨額の特殊要因があったため、2023年度で試算。税引き前利益は6216億円、当期利益は4823億円。差額の1393億円×20%=278億円(ロシア分税収)。1株あたり配当194円×日本政府保有分6億6688万株=1293億円。 ×20%=258億円(ロシア分配当)。278億+258億=計536億円。

ロシア人の健康と命を年1500億円マネタイズし、ロシア政府に年4000億円、日本政府に年500億円を納める国策会社――それがJTの不都合な真実である。

なお、うがった見方をすると、合成麻薬フェンタニルをめぐるトランプ政権の中国批判にあるように、タバコを〝敵国の内部崩壊を引き起こすアヘン〟と考えるなら、ロシア市場で3位の米フィリップスと2位のJTが組んで敵国ロシアを弱体化させているのだ、と考えることも不可能ではない。いずれにせよ、その行状は「英国東インド会社」にダブる。

森永卓郎も新卒組――時代に逆らう〝穏やかなクセ者〟たち

グローバルで、貧しい国々に住む、未来ある若者たちの健康を害してしまう事業でカネ儲けする日々は、さぞかし寝つきが悪いのではないか――という発想は、非喫煙者にとっての常識にすぎない。そこで悩む人は、そもそもJTに入社しないからだ。

「社員の性格的には、穏やかな人が多いのですが、時代に逆らっている会社ですから、ひとクセあるタイプが多い、と思います。ずっと黒い服だけを着ているとか、反抗心が強いとか、とにかく個性的な人がいます」(元社員、以下同)

エース級は長髪ノーネクタイ
メディアに登場するエース社員は長髪ノーネクタイでクセが強そうな者ばかり(上:筒井岳彦氏、下:大滝裕樹氏)

たしかに、出世頭としてマスコミに登場するエース社員たちは、クセが強そうな輩ばかりだ。

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JTは新卒から職種別で採用(募集要項より)。高専卒は別枠。

20程度に分かれるJTの資格体系・給与制度の基本コンセプト(これは2010年代前半のものだが、今もあまり変わっていない)

JTインターナショナル本社(スイス・ジュネーブ)。2016年に竣工。設計は、ドバイのブルジュ・ハリファと同じアメリカの設計事務所SOM(写真はグーグルマップより)。

JTの売上と利益推移。売上の約8割、利益の約9割を、海外タバコ事業が稼ぎ出す。

JTの現場組織体制

中途採用者比率が高まっている。

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