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ロックアウト解雇のマース事件、会社側の全面敗訴が確定――IBM・ブルームバーグ事件との「違いと共通点」

情報提供
普通解雇と整理解雇
普通解雇と整理解雇。どちらもハードルは高いが、従業員側に責任がない整理解雇は、特に要件が厳しい。

15年以上勤務したマースジャパンを2023年に整理解雇されたAさん(当時40代後半)が正社員の地位確認等を求めた訴訟(→1本目参照) は、2026年10月23日付で上告が棄却されマース側の敗訴が確定した。会社側が不当解雇後の3年余りの期間にAさんへ支払う総額は、在籍していたら得られたはずの基本給(バックペイ)約41か月分や割増退職金など計5,500万円ほどに及ぶ。日本では違法解雇が高くつくが、マース社は日本IBM事件・ブルームバーグ事件といった過去の解雇無効事件から何も学んでいなかった。

Digest
  • 普通解雇よりさらにハードルが上がる整理解雇
  • 日本IBMのロックアウト事件
  • ブルームバーグのロックアウト事件
  • 第二次解雇も無効に
  • バックペイ全額かつ青天井の日本、上限つき金銭解決の欧州
  • 独18か月、仏16か月、英5.5か月の不当解雇補償金
  • EU方式の河野太郎、解雇回避努力を無力化する小泉進次郎

他社が同じ過ちを犯さないよう、「ロックアウト解雇=会社側敗訴で巨額のバックペイ発生」の歴史を改めて解説する。

上告不受理通知
上告不受理の調書

外資の日本法人は〝日本営業所〟なので、経営側(営業所長)も「社員を斬らなければ自分が斬られる」立場で、自らの在籍期間もそう長くない。自分が在籍している間だけ切り抜けて目の前の人件費カットに成功すれば、3年後に覆されて損失が発生しても知ったことか、自分はもういないだろう――という発想になりがちな構図がある。

これを防ぐには、損失を被る株主にあたる米国本社側のガバナンスが機能しなければならないが、遠く離れた日本法人の運営は現地の裁量に任されがちだ。結果的に、日本での運営を任された経営者・人事担当者として、後藤真一・大井健司の両名は、短視眼的で職業倫理感に欠け能力不足である、と断じざるを得ない。無謀なロックアウト解雇は、過去の判例によって、ほぼ負けることがわかっているからだ。

普通解雇よりさらにハードルが上がる整理解雇

解雇は大きく分けて、「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の三種がある。懲戒解雇(とそれに準ずる諭旨解雇)は会社のカネを横領したり暴行や痴漢を働くなど刑法に触れるような明確な違法行為を働いた場合なのでわかりやすい。残りの、整理解雇と普通解雇の違いは、従業員側の責任の有無で区別される。

経営判断による事業撤退や構造改革で余剰人員が発生したり、ポジションクローズが行われる場合が、整理解雇だ。マース事件は、まさにこれだった。整理解雇においては、判例法で、有名な「整理解雇4要件」が求められる。1. 人員整理の必要性、2. 解雇回避努力義務の履行、3. 被解雇者選定の合理性、4. 手続の妥当性――この4つを満たしているかを会社が説明、立証しなければならない。

普通解雇では、必ずしも4項目すべてを問われない分だけ、整理解雇よりも若干、ハードルは低い。その、ハードルが若干低めな普通解雇でも、やはり解雇は難しい。すべての解雇(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇)に共通するベースとして、労働契約法第16条で、解雇に対して「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」という高い基準が求められているからだ。通称「解雇権濫用の法理」と呼ばれる。これが根底にある共通点である。

この「濫用」と判断される基準は、過去の判例から、単に「仕事のパフォーマンスが低い」という理由では解雇権濫用とされ、日本では「普通解雇」ができない。真面目に働く意思を示し、勤怠(時間や日数)を守って出勤する労働者は、しっかり雇用が守られる。ここが、あっさり「当日解雇」を言い渡される米国とは真逆で、まったく異なるところである。

日本IBMのロックアウト事件

能力不足を理由とした普通解雇については、今回のマースジャパンと同様、米国企業の日本法人では、強引で一方的な切り離しといえる『ロックアウト解雇』という乱暴な手法が用いられることが多い。日本を植民地くらいに思っている節があり、米国と同じ感覚で解雇通告してくる。

15年ほど前、「ハイパフォーマンスカルチャー」を標榜する日本IBMが、パフォーマンス不足を理由としたロックアウト解雇を連発し、IBM側の連戦連敗となった時期があった。

夕方5時頃、「ミーティングするから、ちょっと会議室に来て」と、上司のO氏と、人事P氏に呼ばれたのだ。

部屋に入ると、O氏とP氏は、「これから読み上げるから聞いて」と言い、文面を手に持ちながら、「会社は、貴殿を2012年7月26日付で解雇します」と読み上げたのだ。

7月26日(木)ということは、わずか6日後である。

――日本IBMクビ斬り事件(2012/12/26)より

社員らは地位確認と、毎月の給与・賞与を求める訴訟を、2012年10月、東京地裁に提起。2012~2018年にかけて第1次~第5次訴訟まで、計11人の社員が提訴し、11人全員が解雇撤回または解雇無効となった。復職または金銭和解となり、バックペイ(賃金支払い)も行われた。

第1次と第2次を合わせた2016年3月28日の東京地裁判決では、原告に対してバックペイ含め1人あたり約2,000万円~約2,600万円を支払え――といった判決となり、2017年12月26日に東京高裁で和解成立。控訴により、バックペイはさらに膨らんだとみられる。

ブルームバーグのロックアウト事件

同時期、長期にわたって争われたブルームバーグ・ロックアウト事件が進行していた。事件の発端は、以下のとおりだった。

2010年4月上旬、Y氏の端末に、午後4時にミーティングをやるので会議室に来るよう、メールが入ったのだ。

会議室に行くと、いつもの顔ぶれがいて、直属の上司である堤紀子氏が、独自記事は目標を達成したが、ベスト・オブ・ザ・ウィークがなかった、と述べて、こう言い放ったのだった。

「我々は、もうあなたをこれ以上、スピードチームにおいておくつもりはありません。他のチームへの移動も考えましたが、おいておける場所はありませんでした。だから、あとのことは、ここにいる人事の人と話して下さい」

そう言った後、Y氏の反論も聞かず、幹部4人が整列して会議室から出て行った。正味3分の出来事だった。

その後、Y氏は、人事のハマナカケイコ氏に話そうとした。そのとき、ハマナカ氏は、「ここにサインをして下さい」と言って、スッと紙を差し出した。そこには、「退職金として給料二カ月分」と「再就職支援会社を3カ月間利用できます」と書いてあった。

――「首切り通信社」ブルームバーグ(2010/12/08)より

同様に、地位確認やバックペイを求めた訴訟となり、まず2012年10月5日の東京地裁判決で、月額67万5,000円のバックペイ等が認められた。地裁段階の元金だけで約1,720万円となる計算だったが、会社側が勝ち目のない裁判を続けたことで、その金額はどんどん膨れ上がっていった。

この事件では、原告が2回も解雇されており、計5年3か月に及ぶ経過が、実に興味深い。一審判決で、記者の地位確認やバックペイが認められて以降は、以下の経過をたどっている。

第二次解雇も無効に

支払いが確認できている分(ブルームバーグ第二次解雇事件2015年5月28日 東京地裁判決)
2015年5月28日の第二次解雇訴訟・東京地裁判決より

ブルームバーグ事件は会社側敗訴の後、次の展開があった。復職をめぐってさらに揉め、泥沼化していったのである。

2013年4月24日の東京高裁でも解雇無効は維持された。会社は、上告せず確定。2013年6月までに、元金にあたる計2,295万円(2010年9月~2013年6月分まで計34か月×67.5万円)が支払われた(右記)。遅延損害金についても、後に167万1,725円の支払いが命じられている。

だが、なんと会社は元の記者職に復帰させず、給与半減を伴う別職種(倉庫・バックオフィス=年収400万~500万円)への復職を提案。誰の目にも、嫌がらせで辞めさせる目的にしか見えない異動であった。当然、記者は拒否。会社側は、異動を拒否したことを理由に、業務命令違反であるとして、2013年3月、再び解雇通告(第二次解雇)を行った。

その結果、第二次解雇訴訟が勃発し、解雇の無効が再び争われることに

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英仏独の解雇補償金算定基準(厚労省検討会資料より)

肝心の補償金水準(勤続20年)

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