額面650万円から850万円にかけて負担率が急激に上がるのは、平成19年分から、「課税所得」195万円超で所得税率が5%から10%に倍増するからである。
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来年から定率減税が廃止となり中間層の負担は重くなる。当局は、額面で650~850万という層の厚い部分を逃さず、たくさん負担させる考えだ。そもそも日本では、第二次大戦中のどさくさのなかで戦費調達を目的として導入された「天引き」制度が未だ続いており、額面と手取りの違いを認識しずらい。さらに1人あたり人件費について理解している人はもっと少ない。雑誌の年収ランキングも、実態を表しているとは言いがたい。まずはそのあたりの疑問をすべて解消しよう。
【Digest】
◇20代、30代はタテマエに騙されるな
◇我慢料は高いほどよい
◇手取りで考える
◇今、いくら会社から取れるか
◇平均年収ランキングの限界
◇採用区分別の格差
◇民民格差
◇大手出版と外資金融、コンサルが抜けている
◇勤続年数が考慮されていない
俗に、「衣食足りて礼節を知る」「胃袋があって道徳がある」などと言われるように、そもそも金銭面の不安が大きいと、仕事上の自己実現や、「やりがい」も何も、あったものではない。自分1人が食えないのだから、自分のことで精一杯で、ましてや家族のことや社会のことなど考える余裕は生まれないものだ。「人は資産が1億円を超えると篤志家になる」などと半ば冗談で言われるのも同じこと。人間には、何をするにも、まずは経済的余裕が必要なのである。
それでは、どの程度のカネが必要なのか。それはなぜか、あまり深く議論しないこととされてきた。実際、「マネー教育」の類は、日本の義務教育はおろか、高校・大学でもほとんど皆無に近いのが実態だ。その一因は、「士農工商」の一番上に位置しながらも、「武士は食わねど高楊枝」といわれた武士道の精神など、日本固有のカルチャーに根付く面があると思われる。
この「カネ儲けは汚らわしい」とでも言いたげな道徳と、経済の実態との狭間で、逡巡しているのが今の日本である。その結果、おカネに関することが「皆が思っていることだが、道徳的な見地から、暗黙の了解で言わないことになっている」ことになった。「それを言っちゃあオシマイよ」「身も蓋もないよね」といった類の話だ。だから、「カネで買えないものはない」などと書いたホリエモンは、世間から非難を浴びた。
◇20代、30代はタテマエに騙されるな
だが今や、多くの若い人が心の奥底では、ホリエモンと似たり寄ったりのことを思っている。若い世代が考えねばならないのは、ホリエモンを非難した「世間」の中心は、「団塊の世代」を中心とした、我々(20~30代)の親の世代の人たちであることだ。一方の団塊ジュニア以降の若い世代を中心に、ホリエモンに喝采を浴びせる人は多い。
非難した「世間」の正体は、親の世代が持つ、すでにタテマエと化した道徳である。たとえば、「真面目に努力していれば必ず報われる」という道徳。戦後の高度成長期に働き盛りだった親の世代は、経済全体のパイが増えていたので、パイの取り分が多いか少ないかはあっても、経済的な「負け組」は生まれにくかった。リストラもなく、退職金も年金も十分にもらえて、真面目に会社勤めをしていれば、必ず報われる方程式があった。だから、このタテマエも機能していたのだ。
こうした、「コツコツと努力した者が報われる」「カネ儲けは汚らわしい」という価値観で生きてきた親の世代にとっては、会社を売買して莫大な富を築き、カネで買えないものはないと言い切るような輩は、とんでもない、という話になる。東京地検特捜部の道徳観は、まさにこうした親の世代を露骨に代弁したものだった。
しかし、バブル崩壊後の15年で、時代は完全に変わった。日本の人口が減少に転じ、経済がゼロまたは低成長時代に入り、限られたパイを奪い合う「ゼロサムゲーム」時代に突入。いくら真面目に頑張っていても、頑張る方向が間違っていればリストラされ職を失う。そうかといって、若い世代は親の世代の失政による国の財政逼迫から、消費税をはじめとする税金は上がるのが確実で、少子化で年金はいくら払っても満足に受け取れない。もはやタテマエが機能する前提条件は、完全に崩れている。
そのなかで育った若者世代にとっては、一見道徳的に見えるタテマエは空虚な言葉に過ぎず、ホリエモン式の経済の実態に即したホンネのほうが、ずっと共感を持たれる。それは私も同じ世代として、よく分かる。団塊ジュニア以降の若い世代は、もう国を頼りにできないし、タテマエに振り回されていたら、将来、不幸になると薄々分かっているからだ。そのような時代を生きのびるには、親の世代よりもカネについて真剣に考えることは、喫緊の課題になったのである。
◇我慢料は高いほどよい
とはいえ、カネに対する考え方ほど多様なものはない。配偶者がカネ持ちなら、自分で稼がなくても法的に半分は自分のものになる。また、実家がカネ持ちで稼ぐ必要がない人もいるだろう。
だが、どこからカネが入ってくるにせよ、「貧すれば鈍する」は当てはまる。何をするにもカネはいる。起業するには資本が必要だし、途中で留学するにせよ、資格の勉強を始めるにせよ、女性なら出産で仕事を離れるにせよ、その間の生活費が必要となる。
子供を1人、大学まで卒業させるには2千万円かかると言われるが、収入が少なければ、子供のために自分の希望するキャリアを諦めねばならなくなる。カネがあることによって、自分のキャリアや人生の自由度は、間違いなく高まることは理解しておいたほうがよい。
さらにいえば、サラリーマンは、当然ながら、自分で好きな仕事ばかりを選べない。業務命令に従わなければサボっているとみなされ、給料も上がらないし、閑散とした地方支店に飛ばされても文句は言えない。我慢は常に付き物だ。それならば「我慢料」は高いほうが、まだ納得できる。
◇手取りで考える
日本国憲法では、国民に「勤労」と「納税」を義務として課している。これに「教育」を加えた3つが3大義務である。働いて税を納めるのが嫌なら、国民をやめるしかない。したがって、給料も、すべて自分のものになるわけではない。
給与明細を見ると、天引きされる項目が多いことが分かる。なかでも大きいのは所得税・住民税と厚生年金だ。私のサラリーマン時代の明細(2004年4月)を見ると、総支給額59万1千円に対し、年金が約3万6千円、所得税が約3万5千円、住民税が約2万4千円、健康保険料が1万2千円だった。
日本では、サラリーマンの所得税、住民税、厚生年金などは「天引き」される。税金はもちろん自分で使う権限がなく、やらせのタウンミーティングや、談合で水増しされた公共事業に無駄使いされる。さらに、莫大な借金は国と地方を合わせて800兆円超にものぼり、それは若い世代がこれから働き、天引きされる税金などで、返済していかねばならない。
年金も、今の20代・30代は、.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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額面ごとの、所得税・住民税、厚生年金、健康保険、雇用保険、手取り額、天引き率《平成19年からの改正分を反映済み。協力:税制経営研究所 税理士 荒川俊之》
※独身(40歳未満)、扶養家族なしで試算
※「天引き率」とは「(額面-手取り)/額面」である
※所得税・住民税の定率減税は、平成19年廃止となるので考慮していない
※住民税は東京・港区在住とする
※厚生年金・健康保険・介護保険は、平成18年12月1日現在の「一般」の率を使用するものとする
※雇用保険料は、平成18年12月2日現在の「一般」の率を使用するものとする |
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平均年収ランキング
※社員数30人以上
※TBSとミレアホールディングスの社員数が少ないのは持ち株会社であるため
このランキングにはいくつか欠点がある。1:報酬の上昇カーブが考慮されていないこと、2:採用区分による格差が考慮されていないこと、3:当然ながら、株式非公開企業などは含まれないこと、4:単年度のデータなので勤続年数が考慮されていないこと |
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