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オリコンうがや訴訟3 いよいよ反訴! アルバイトでもできる質問しかしないマスコミ記者たち

情報提供
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反訴記者会見をする烏賀陽弘道氏(2007年2月8日、東京・霞ヶ関の司法記者クラブ)
 オリコンから5千万円の名誉毀損裁判を起こされた烏賀陽氏らが8日、司法記者会室で反訴会見を開いた。前日の外国人記者クラブでの会見で、外国人記者は、テレビ局が取材に来ないことに疑問を投げかけ、熱心に質問を浴びせた。一方、司法記者会加盟のマスコミ記者は、年齢や生年月日といったアルバイトでもできる質問しかせず、9日朝刊で報じたのも朝日新聞と東京新聞のみだった。
Digest
  • ここにはジャーナリストがいたのか?


 音楽チャートランキングで知られるオリコンと、『Jポップとは何か巨大化する音楽産業』(岩波書店)などの著作を発表してきたジャーナリスト烏賀陽弘道氏の間で行われている名誉毀損裁判、いわゆる「オリコン裁判」が新局面を迎えた。

 ※オリコン裁判については■オリコンうがや訴訟1 「まともに議論すると分が悪いから訴えたんでしょう」にて、訴状をアップ中。

◇反訴して形勢逆転を狙う烏賀陽氏
 このオリコンが起した裁判によって名誉を毀損されたとして、2月8日、烏賀陽氏は、オリコンに対して総額1100万円の損害賠償を求める反訴の民事訴訟をおこし、これを霞ヶ関の司法記者クラブの記者会見で発表した(反訴状は画像参照)。

 烏賀陽氏は会見で「これは民事訴訟の形をとった脅迫行為であり、言論弾圧行為です」と述べ、オリコンがジャーナリスト個人を標的にした名誉毀損訴訟を起こすことそれ自体が、日本国憲法に定められた「表現の自由」に対する重大な挑戦であり、違法行為である、と反訴の理由を説明した。

 この反訴には前例がある。

 ジャーナリスト三宅勝久氏が『週刊金曜日』に書いた記事が名誉毀損であるとして、大手消費者金融武富士が1億1000万円の裁判を起こした。これに対して三宅氏が「言論弾圧目的の裁判は許されない」と反訴。昨年、地裁で三宅氏の勝訴が確定している。

 したがって、昨年、烏賀陽氏がオリコンに訴えられたときから、メディア関係者を中心に、烏賀陽氏はいつオリコンに反訴をするのか、とささやかれていた。

 8日の会見でそれが実現した形になった。

 マイニュースジャパンでは、オリコンが烏賀陽氏を提訴してから一貫して、この事件を追跡してきた。今回は、日本と海外のメディアの関心の差についてレポートしたい。

 この反訴記者会見は、2月8日、東京地方裁判所の2階にある司法記者クラブにおいて行われた。そして、その前日の2月7日、有楽町の外国人記者クラブでも、烏賀陽氏は記者会見を開いている。

 この2つの違うタイプの記者会見に参加し、日本人と外国人のジャーナリストの反応をつぶさに観察する機会を得た。日本と海外のジャーナリズムの温度差は大きかった。

◇外国人記者クラブに集まったのはフリージャーナリストばかり

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日本外国記者クラブで記者会見(2007年2月7日)。
左から、釜井英法弁護士、三上理弁護士、烏賀陽弘道氏、揖斐憲『サイゾー』編集長。
 有楽町駅を降りてすぐ視界に入る、ビックカメラ近くにあるオフィスビル20階に、外国人記者クラブはある。

 18時30分頃に顔見知りのフリーランスジャーナリストたちが集まってきた。それぞれブログなどで「オリコン裁判」に疑問を表明してきたジャーナリストたちばかり。名刺交換をしながら談笑していた。

 そこに烏賀陽弘道氏が現れる。

 すると、大柄の白人の男性が「おう! ヒロ! 元気か! この犯罪者め(クリミナル)」と笑いながら、烏賀陽氏に握手を求める。

 烏賀陽氏も破顔一笑でそれに応える。烏賀陽氏はリラックスして、英語で談笑を楽しんでいる。

 記者会見場に入り、取材にきた日本人ジャーナリスト、そして外国人ジャーナリストたちが同じテーブルにつく。

 烏賀陽氏、そして『サイゾー』揖斐編集長、弁護団たちもテーブルについてサーモンステーキのディナーを楽しむ。あらかた食事が終わった19時10分頃から、記者会見がスタートした。

◇高給のマスコミ記者はフリーが訴えられた裁判に関心なし
 烏賀陽氏はニューヨークのコロンビア大学の留学経験がある。流暢な英語でオリコン訴訟の問題点をスピーチした。

(1)自分が書いた記事ではなく、電話取材のコメントが訴えられたこと。

(2)個人が訴えられた時の裁判費用の重圧。

(3)オリコンの小池社長は、烏賀陽氏がミスを認めて謝罪をすれば裁判は取り下げる、とプレスリリースで発表しており、これは民事訴訟の形をとった脅迫行為である。

(4)提訴まで、一度もコメントの修正を言論で求めてこなかった。オリコンは自分の主張を発表する媒体があるのに、議論なしで法的に訴えてきた。

(5)自分は記事を書いていない。取材に応じたインタビューイである。そのコメントに対して5000万円で訴えてくるのは脅迫的である。これはフリージャーナリストだけの問題ではない。プレス全体の問題であり、オリコンは日本国憲法にある表現の自由に対する挑戦をしている。

 このような言論封殺を目的にした訴訟は、海外でも問題になっており、いじめ訴訟(SLAPP=Strategic Lawsuit against Public Participation)」だと批判した。

 この日は、烏賀陽氏による、初めての公の場での記者会見であった。外国人ジャーナリストたちは、烏賀陽氏の主張に対し、明解に賛意を表明していた。

 イタリア人ジャーナリストは、「なぜこの会場に日本のテレビ局は取材に来ていないのか?」と質問。記者会見場にはインターネットテレビ局の取材カメラは来ていたが、大手テレビ局のカメラはなかった。

 烏賀陽氏は「17年間、朝日新聞社で働いた経験から、日本の大手メディアのジャーナリズムは機能していない」と応じた。

 昨年12月にオリコンに提訴されてから、「テレビ局からのコンタクトはゼロ。高給をもらっているマスコミの記者達は、フリーが訴えられた裁判に関心がない。自分たちは安全だと思っている」と烏賀陽氏は日本のメディアがオリコン裁判に関心がないことを説明。「ジャーナリストの連帯を心から求めている」と外国人ジャーナリストにアピールした。

 記者会見終了後、烏賀陽氏の周りには様々な国籍のジャーナリストが集まり、そのまま、外国人記者クラブ内にあるバーに移動、ジャーナリストたちからの激励を受けていた。

◇最初の質問は「烏賀陽さんの年齢を教えて下さい」
 翌8日、東京地裁の2階にある司法記者クラブは20ほどの席は満席。その大部分が記者クラブに加盟していないフリージャーナリストたちで占められた。

 昨日の外国人記者クラブで、烏賀陽氏は「いつ反訴するのか? 反訴すれば形勢は逆転する」と何度も質問を受けるたびに、「アイゼンハワーがヒトラーにノルマンディー上陸作戦のXデーを言わなかったように、今は答えられない!」と語っていた。

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反訴状
平成18年(ワ)第25832号損害賠償等請求事件(本訴事件)
反訴原告(被告):烏賀陽弘道
反訴被告(原告):オリコン株式会社
 翌日8日が「Xデー」だった。

 烏賀陽氏の弁護団のひとり、三上里弁護士は「オリコンによる烏賀陽氏に対する提訴は、裁判制度を悪用した違法行為」と指摘し、J-CASTニュース(2006年12月19日) の記事で「賠償金が欲しいのではなく、これ以上の事実誤認の情報が流れないように(多額の賠償金を課すことで)抑制力を発揮させたい」と述べていることから、「威嚇を目的とした高額訴訟であり違法だ」と反訴の理由を述べた。

 烏賀陽氏からも反訴の理由が説明され、「この(個人を訴える)裁判がまかりとおれば、朝日の記者も、日経の記者も、日本テレビの記者も、みんな訴えられる可能性があるんです」と社名をたくさんあげ、明日はわが身だ、とマスコミ記者たちに強く訴えかけた。  その後、記者からの質疑応答の時間になった。

 そして、クラブ加盟記者からの第一声。

日経新聞幹事:各社さんどうぞ
(男性)記者:じゃあ、烏賀陽さんの年齢、生年月日うかがってよろしいですか?

 緊張感のある会見が、ガクッとほぐれた。

 烏賀陽氏は苦笑しながら、大きな声でハッキリとその数字を答えた。

烏賀陽「はい。1963年1月8日です。44歳になります」
記者「名前のよみかたは? うがや?」

烏賀陽「はい。ウ・ガ・ヤ・ヒ・ロ・ミ・チです」
記者「この裁判は同じ部に継続された?」

釜井弁護士「はいそうですね」
記者「事件番号は?」

釜井弁護士「はい、もともとの番号はあります」
記者「反訴のほうは?」

釜井「平成19年 ワ 2665」
幹事「ほかにご質問どうぞ」

 その後はフリージャーナリストから事件の影響についての質問が出た。

ここにはジャーナリストがいたのか?

--裁判によってフリーランスとしての生活にどれくらいの負担がでてくるのか?
 「12月13日に訴状が届いてから、私の生活は完全に破壊されました。裁判以外のことが何もできなくなった。2月末締め切りだった新潮新書の件も吹っ飛びました」(烏賀陽氏)

5000万円の請求を受けた烏賀陽氏は、何もしなければ5000万円を払わねばならず、裁判に応じるにせよ、その弁護士費用は、旧日弁連の報酬規定に従えば、運よく勝訴できた場合でも719万円を支払わねばならず、個人を経済的に破綻させるには十分だ、と説明している。

--今後オリコンが烏賀陽さんと同様の発言をした人物を訴える可能性はないのか?
 「そうならないために反訴をします」(釜井弁護士)

週刊誌(フライデー)の記者は、訴訟の原因となった『サイゾー』に掲載された20行コメントの、コメント料がいくらだったのか、質問していた。(答えは、タダ、ゼロ円)。

 一方、司法記者クラブにつめていた大手マスコミの記者達は、烏賀陽氏の生年月日と、裁判の事件番号を質問しただけだった。そんな質問、アルバイトでもできる。

 会見終了後、烏賀陽氏と弁護団に質問するために群がったのも、フリージャーナリストばかりだった。司法記者クラブは多忙である。30分の会見が終了すると、次の会見がつづく。テレビ局は、烏賀陽氏らの会見が終わりそうになると、次の会見のためにテレビカメラを設置し始めていた。

 わたしは、司法記者クラブでの会見をみて、ここにはジャーナリストがいたのだろうか?というぼんやりとした不安を持ってしまった。

◇長文のジャパンタイムズ、ベタ記事でアリバイ作りの朝日
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上から、『ジャパンタイムズ』2月8日、『朝日新聞』2月9日朝刊、『東京新聞』2月9日朝刊の各記事。東京新聞の記事には、今回の反訴について、「オリコンの広報は『訴状が届いていないのでコメントできない』としている」。
 2月8日(外国人記者クラブ会見の翌日)の『ジャパンタイムズ』のEric Prideaux記者は、約20のパラグラフからなる長文の解説署名記事を、写真付きで書いている。

Oricon sues over insterviewee's comment Libel suit attacks free speech: defendant
 「オリコンがインタビューイのコメントを訴えた。名誉毀損裁判が表現の自由を攻撃する:被告」(右記画像参照、まだ、この時点では反訴のことは明らかになっていない)

 日本のメディアは、オーマイニュースJanJanなどのインターネットジャーナリストが長文を書き、9日の朝刊では、『朝日新聞』と『東京新聞』が短い記事を書いたのみだ(右記画像)。

『朝日新聞』の記事タイトルは、「記事の筆者をオリコン提訴『名誉毀損』」。27行のベタ記事だった。見出しだけでは、烏賀陽氏に非があって提訴されたように読めてしまう。

 かつて烏賀陽氏が朝日在籍時代に書いた『アエラ』記事も訴訟の原因とされていることから、まったく無視すると批判を浴びることは確実なので、アリバイ作りに載せた、といったところだろう。烏賀陽氏の出身の新聞社らしく応援してほしいものだ。

 『東京新聞』の記事タイトルは、「コメントしただけ 訴えるのは言論弾圧 フリーライターオリコンを反訴」。見出しに「反訴」の文字がはいり、朝日よりも正確だ。『東京新聞』は、武富士に訴えられたジャーナリスト三宅勝久氏の名誉毀損訴訟について、他紙が事件を取り上げないなか報道してきた。その経験が踏襲されているのだろう。

 ざっと読むと、ジャパンタイムスの記事のボリュームの大きさが目立つ。

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■オリコン訴訟の詳細は、うがやジャーナル
■第1回口頭弁論期日:2007年2月13日午後1時10分~。東京地裁709号法廷