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朝日新聞 社内“偽装請負”の実態 英字紙組合員が告発

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7月27日、朝日新聞社前で行われたヘラルド朝日労組による抗議行動。「朝日新聞はヘラルド解雇を撤回しろ」と書かれた横断幕を掲げて行われた。
 昨夏より、キャノンや松下電器産業をはじめ、製造業の一流企業で蔓延する非正規雇用者の違法な活用「偽装請負」の告発キャンペーンを展開した朝日新聞。だが当の朝日新聞発行『ヘラルド朝日』で働く非正規雇用者も、同じような境遇に置かれている。あたかも不当な処遇にあえぐ非正規雇用者を支援するかのような報道とのダブルスタンダードについて、朝日で働き、朝日を提訴して闘っている非正規雇用者たちは、「お前が言うな」と冷ややかな目で見ている。
Digest
  • ヘラルド朝日労組の裁判が高裁で審議中
  • 口約束だけでフルタイム働かせていた
  • 実態は「労働者」なのに
  • 非正規雇用者の組合結成を機に、いじめが横行
  • 「編集方針と労務方針は違う」ダブルスタンダード
  • 地裁判決「諾否の自由があった」
  • 朝日“正社員労組”の反応

ヘラルド朝日労組の裁判が高裁で審議中

7月27日、朝日新聞東京本社で就職セミナーが行われた日、社屋前で、「新聞記者になりたい、マスコミで働きたいみなさんへ」と題したチラシを配りながら、十数人が抗議行動を行った。彼らの中に朝日新聞と裁判を闘っている「ヘラルド朝日労働組合」の組合員、3人がいた。

『ヘラルド朝日』とは、朝日新聞社が、フランスの新聞社「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」(通称ヘラトリ、IHT)と提携して発行している英字紙で、2001年4月創刊、公称発行部数は約4万部だ。IHTから記事の提供を受けつつ、朝日新聞社国際本部ヘラルド朝日編集部に所属する英文記者が独自の記事も手がけるほか、『朝日新聞』の英訳記事も載せている。

現在、朝日新聞の英字紙「ヘラルド朝日」で、記者と翻訳者をしていた3人が、労働契約上の労働者としての地位確認と、判決確定日までのそれに付随する賃金の支払いを求め、朝日新聞社を訴えている最中だ(2005年7月提訴)。

争点は、「労働者」なのか「業務委託契約」を受けた請負労働者なのか。キヤノンや松下は工場において本来、直接雇用をしなければならない人々を請負労働者に偽装していたが、朝日の編集作業においても同様のことが疑われているのだ。しかも朝日は、契約書すらない無法地帯としておきながら、正社員同様に働かせ、社員とは認めずに請負だ、と主張している。

口約束だけでフルタイム働かせていた

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朝日新聞の正門前で訴えの声をあげる、松元千枝氏。真正面には、至近距離で警備員が、少し離れて社員たちが、10人以上いる状態でのアピール(7月27日)。

もともとヘラルド朝日編集部には、朝日新聞の正規雇用者と、非正規雇用者(派遣社員や契約社員、アルバイトなど)が入り混じり、計約80人が編集業務に携わっていた。そのなかにフルタイムで働きながらも、報酬は日給月給制、社会保険はなく、有給休暇もない条件で働く人が、2002年時点で、20人近くいた。

彼らのうちの3人が、朝日新聞に雇用されて働く「労働者」であったのか、朝日新聞に業務を委託された者(つまり請負労働者)であったのかが裁判の争点だ。3人の状況は下記のとおりである。

原告の松元千枝氏(通信社特派員)の場合、1日の拘束8時間、実働7時間、日給月給制、土日祝日休みに、有給休暇のないこと、社会保険の加入がないことを告げられ、契約期間に関する話はなく、契約書もない状態で働いていた。最初は翻訳などをしていたが、しだいに取材・記事執筆をまかされ、遊軍記者として働くようになった。のちに有給休暇が付与されるようになった。

原告の小寺敦氏(フリー翻訳者)の場合、時給制、1日の拘束8時間、通勤費、指示による残業費のを取り決めた一方で、雇用保険、社会保険(健康保険・年金)の加入がないことを告げられ、有給休暇もなく、契約書のない状態で働いていた。業務は朝日新聞本紙のビジネス記事を和文英訳することだった。小寺氏は、以前に、読売新聞社の英字紙「デイリー・ヨミウリ」で記者として5年間勤務していたが、社会保険の加入が可能であるなど、朝日ほど酷い条件ではなかったという。

原告の横村幸美氏(英国系情報サービス企業特派員)の場合、小寺氏とほぼ同様の勤務形態ながら、報酬が異なる条件(日給月給制)で働いていた。同じく有給休暇もなく、契約書もない。業務は、映画やイベント、書評の和文英訳と記事執筆だった。

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東京本社前のアピールで配られた「新聞記者になりたい、マスコミで働きたいみなさんへ」と題されたチラシ。「朝日新聞社が自分の会社内で、「偽装請負」という違法な枠組みで労働者を雇用していた(雇用している)のは知っていますか?」

実態は「労働者」なのに

訴状で原告3人は、朝日新聞とは契約書すら交わしていないため、両者の契約の法律上の性質は、働きの実態に即して検討する以外にないと主張している。

一般的に労働基準法における「労働者」性を判断する場合、「指揮監督下の労働」に関する判断(「使用される者」であるかどうか)、報酬の労務対償性の有無(賃金を支払われる者であるかどうか)、専属性の程度、事業者性の有無といった点が判断基準になる。

裁判では、業務の指示において諾否(許諾)の自由があったかどうか、時間的・場所的拘束性があったかどうか、賃金の支払い形態などが争点となっている。

先にみたように原告3人の仕事内容と報酬はばらばらだが、3人それぞれが、フルタイムで、ヘラルド朝日の仕事に従事していた。

さらに、彼らに対する給与も、名称こそ「原稿料」とされていたものの、原稿の量によって金額が定められるものでなく、勤務時間あるいは勤務日数によって金額が定められていた。よって、原告3人は、給与は、成果物に対するものではなく、労務提供に対する対価として支払われていたとし、労働契約上の労働者としての地位を有する、と主張している。

非正規雇用者の組合結成を機に、いじめが横行

そもそもヘラルド朝日労組の労使紛争を振り返ると、裁判になる以前から長い歴史をもつ。嘱託契約で働いていた外国人の同僚が、松元氏らの、労働条件の不当さを指摘したことをきっかけに、2002年11月、不安定雇用のままにおかれていた18人がヘラルド朝日労組を結成した。会社側との団体交渉が開始され、最大の争点となったのが、裁判と同様、組合員らと会社との契約が、雇用契約であるのか、業務委託契約であるのか、という点だった。

ヘラルド朝日労組の上部団体、全国一般労働組合東京南部(通称・なんぶ)には、大手新聞社の英字紙5紙の労働組合が加入しており、他紙では、組合員が労働者であることを前提に交渉している。しかし朝日新聞だけが、交渉にあたって、組合員ら非正規雇用者の労働者性を否定。会社側は業務委託だと主張し、労働者としての権利を認めなかった。

組合が結成されて以降、ヘラルド朝日編集部では、組合員に対する嫌がらせが始まった

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2004年12月に、松元氏に提示された1年限定の場合の雇用契約書。会社側が業務請負だと主張している現行契約での手取額と、雇用契約となる新規契約の手取額が、比較され、10万円アップが提示されている。

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読者コメント

筆者2008/02/06 11:08
さとし2008/02/04 22:54
荻島隆一2008/02/01 02:51
小山 勇2008/02/01 02:51
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記者からの追加情報

メディア企業における労働現場と言論活動の矛盾に大きな問題があることは、雑誌「世界」7月号に掲載された林香里・東京大学准教授の論文でも指摘されています。
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