早大副総長・江夏教授 サラ金業界からの“研究費”を身内企業に還流の疑い
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サラ金業界からサラ研に寄付された「研究費」が、事務委託費として身内会社に支払われていたことがわかった江夏健一・早稲田大学副総長(常任理事)。創立125周年式典では来賓の福田康夫首相を紹介するという大役を担った(10月21日、早稲田大学)。 |
◇江夏副総長の身内会社にサラ金還流
純粋なサラ金業界団体「消費者金融サービス研究振興協会」(理事長・木下盛好アコム社長)から年間600~700万円、8年間で総額5100万円の寄付金を得て運営する早稲田大学消費者金融サービス研究所(通称・サラ研)は、所長・坂野友昭教授の懲戒処分により、研究機関としてのモラルが大いに問われる事態となった。
12月3日に早大小野記念講堂で予定されていたサラ研主催のシンポジウム「ノンバンクが果たす役割と経済・社会政策の在り方/新貸金業法の施行を踏まえて」は、10月半ばになって登壇予定者に突如、白紙撤回が伝えられた。坂野教授はモデレータ(司会)を担当していた。
事実上の中止なのかとサラ研に問い合わせたところ、電話口の女性は「(開催を準備していたことについて)特にそんなことはない。どなたからお聞きになったのか。何かの間違いだ」と、あからさまな嘘をついた。協賛団体の公益法人「金融財政事情研究会」は浅見淳『月刊消費者信用』編集長が登壇を予定していたが「連絡がなく、正直困っている」という。
そんな混乱のなかで、サラ研をめぐりあらたな不信点が明るみになった。
サラ研副所長で早稲田大字副総長・江夏健一教授の身内会社が、サラ研側から「事務委託費」名目で支払いを受けていたことがわかったのだ。取材に対し早稲田大学広報課が事実を認めた。江夏教授は2002年6月から2年間、同社の取締役になっており、会社から報酬を取り得る立場にあった。サラ金業界から「研究費」として提供されたカネが、めぐりめぐって副総長の身辺に流れ込むという「寄付金還流」の疑いはぬぐい切れない。
江夏副総長は早稲田実業の校長を経て、現在は早稲田大学の常任理事。サラ研発足当時の初代所長でもある。
問題の会社は「株式会社国際ビジネス研究センター(略称IBI)」で、経営者は江夏薫氏。 江夏社長と江夏健一副総長は同じ都内の、健一氏名義の分譲マンションに同居している(末尾「記者コメント」参照)。こうした関係から推測すると両者は親族である可能性が高い。
また役員を務めたのは江夏副総長だけでなく、サラ研所長の坂野教授も同時期に監査役になっている。さらに、IBI社とサラ研は同じ新宿区内のビルに入居しており、周囲の学生らの間では「IBIは江夏先生の会社」とささやかれていたという。
関係を図にするとこうなる。

「守秘義務がある」「大学が答える内容ではない」などと説明を拒んでいた早稲田大学が、一転、上記の関係を認めたのは、大学を通じて江夏副総長あてに次の質問メールを送ってからである。
これに対して電話回答があったのは6日後の10月24日午後、江夏副総長ではなく早稲田大学広報課からだった。男性職員は次のように答えた。
「IBI社が消費者金融サービス研究所と経済的取り引きがあるか、という質問ですが、これはあります。早大総合研究機構(サラ研が所属する上部組織)との間で『事務委託契約』を結んでいます」
事務委託の内容については「守秘義務」があるとして回答を拒否、取引高についても同様に口をつぐんだ。そのうえで次のように付け加えた。
「せいぜい学生のアルバイト料くらいでたいした金額ではありませんよ。申し上げられないのが残念ですが…」
少額でたいしたことではないと言いたげだが、不動産関係者によるとサラ研が利用しているマンションの家賃は月10万円前後。敷金や保証金抜きでも年間120万円以上になる。事務員も常時1~2入を置いており、年間の事務所維持費は少なくみても200万円~300万円はかかっているはずだ。これがはたして「学生アルバイト料程度」でまかなえるのか、釈然としない。
この点を大学に尋ねてみたが、「守秘義務」を繰り返すのみで取りつくしまがない。
サラ金業界が寄付した研究費から「江夏先生の会社」に支払いがなされている。大学幹部が関与したカネの問題だけに、積極的に情報公開したほうが大学の信用を高めると思うのだが、広報課の職員は、いったい何が問題なのかといわんぱかりの口調で「決まりでこれ以上は答えられない」と話し、電話を切った。
◇きっかけはサラ研“事務所費の怪”
筆者がIBIという会社の存在を知ったのは、前述の回答からさかのぽること約1ヶ月。ある研究者の一言がきっかけだった。
「消費者金融サービス研究所で驚くのは、事務所を借りていることですよ。よくお金がありますね」
研究者は驚きを口にした。
ためしにサラ研と同じ早稲田大学総合研究機構に属している同種の研究所を大学のホームページで調べたところ、記載があった139の研究所のほとんどは教授の研究室を連絡先にしている。民間の事務所を使っていることが確認できたものは数例。そのひとつがサラ研なのだ。
東京の都心で事務所一室を借りれば年間100万円は下らない。限りある研究費を削ってまで事務所を借りる必要があるのか、言われてみれば確かに不思議だった。
さっそくサラ研に電話で問い合わせた。その結果判明したのが意外な事実だった。サラ研の事務所は、サラ研が借りていたわけではなかったのだ。
--事務所の家賃は研究所が払っているんですか?
「いいえ、ある会社の好意で、事務所の一角を使わせてもらっています」
電話に出た女性はそう説明した。これは後に事実ではないことがわかる。
--好意?なんという会社?
「IBIさんです」
このとき筆者は、初めてIBIという会社の名前を知らされる。江夏教授の関係など知るよしもなく、親切な会社もあるものだと思いながら質問を続けた。
--もうひとつ聞きますが、電話代はサラ研の経費から?
女性はだんだん不機嫌になった。
「いいえ、IBIさんのものを使わせていただいています」
--基本料金、使用料も?回線数は?
「はい、2回線です。ほとんど使っていませんから」(切)
電話も肩代わりしているとは、いったいIBIとはどんな会社なのか。興味がわいてきた。
IBI社の住所を調べると、サラ研事務所の住所と同じだった。訪ねてみると、早稲田大学正門近くにすぐに見つかった。8階建てのマンションで、3階の一室がIBIだった。表札に小さく「IBI国際ビジネス研究センター」とある。
呼び鈴を押すと、女性が出た。取材を申し入れたが「わかるものがいません」と断られた。
一方、サラ研の事務所は同じピルの5階にあった。アパート住宅のような殺風景なドアの上に小さく「消費者金融サービス研究所/消費者金融サービス研究学会」と表示されている。こちらはインターホンを押しても応答がない。
不動産関係者によれば、IBI社の部屋は広さ10坪ほど。サラ研の事務所は、5~6坪で2000年頃にIBI社が借りたという。家賃は月10万円前後。
2000年といえばサラ研が誕生した年だ。IBI社はサラ研のために新たに部屋を借りたことになる。「好意」にしてはやりすぎの感が否めない。
解せない思いを抱きながらIBI社の謄本を調べてみると、冒頭で触れたとおり旧役員に江夏健一副総長と坂野友昭教授が名を連ねていたというわけだ。
◇IBIは「江夏先生の会社」と元学生ら
さらにIBI社代表取締役・江夏薫氏と江夏副総長の関係については、江夏社長の住所となっている分譲マンションの権利関係を調べることで明らかになった。法務局で確認したところ、分譲マンションは江夏副総長名義。副総長も同じ場所を住所にしている(末尾「記者コメント」参照)。要するに、江夏社長は江夏副総長の持家に住んでいる。
二人は親子か、あるいはきょうだいか。IBI社に電話をかけて単刀直入に尋ねた。
--代表取締役の江夏さんは、早稲田大学の江夏健一教授と、どのようなご関係ですか?
「どうして答えなきやいけないんですか
純粋なサラ金業界団体「消費者金融サービス研究振興協会」(理事長・木下盛好アコム社長)から年間600~700万円、8年間で総額5100万円の寄付金を得て運営する早稲田大学消費者金融サービス研究所(通称・サラ研)は、所長・坂野友昭教授の懲戒処分により、研究機関としてのモラルが大いに問われる事態となった。
12月3日に早大小野記念講堂で予定されていたサラ研主催のシンポジウム「ノンバンクが果たす役割と経済・社会政策の在り方/新貸金業法の施行を踏まえて」は、10月半ばになって登壇予定者に突如、白紙撤回が伝えられた。坂野教授はモデレータ(司会)を担当していた。
事実上の中止なのかとサラ研に問い合わせたところ、電話口の女性は「(開催を準備していたことについて)特にそんなことはない。どなたからお聞きになったのか。何かの間違いだ」と、あからさまな嘘をついた。協賛団体の公益法人「金融財政事情研究会」は浅見淳『月刊消費者信用』編集長が登壇を予定していたが「連絡がなく、正直困っている」という。
そんな混乱のなかで、サラ研をめぐりあらたな不信点が明るみになった。
サラ研副所長で早稲田大字副総長・江夏健一教授の身内会社が、サラ研側から「事務委託費」名目で支払いを受けていたことがわかったのだ。取材に対し早稲田大学広報課が事実を認めた。江夏教授は2002年6月から2年間、同社の取締役になっており、会社から報酬を取り得る立場にあった。サラ金業界から「研究費」として提供されたカネが、めぐりめぐって副総長の身辺に流れ込むという「寄付金還流」の疑いはぬぐい切れない。
江夏副総長は早稲田実業の校長を経て、現在は早稲田大学の常任理事。サラ研発足当時の初代所長でもある。
問題の会社は「株式会社国際ビジネス研究センター(略称IBI)」で、経営者は江夏薫氏。 江夏社長と江夏健一副総長は同じ都内の、健一氏名義の分譲マンションに同居している(末尾「記者コメント」参照)。こうした関係から推測すると両者は親族である可能性が高い。
また役員を務めたのは江夏副総長だけでなく、サラ研所長の坂野教授も同時期に監査役になっている。さらに、IBI社とサラ研は同じ新宿区内のビルに入居しており、周囲の学生らの間では「IBIは江夏先生の会社」とささやかれていたという。
関係を図にするとこうなる。

「守秘義務がある」「大学が答える内容ではない」などと説明を拒んでいた早稲田大学が、一転、上記の関係を認めたのは、大学を通じて江夏副総長あてに次の質問メールを送ってからである。
前略 早稲田大学商学学術員教授、理事ならびに副総長・江夏健一さま 江夏教授が副所長を務める「早稲田大学消費者金融サービス研究所」と、江夏教授のお身内とお見受けする江夏薫氏が代表取締役で、江夏教授ご自身も一時取締役になられている「株式会社国際ビジネス研究センター(IBI)」についてお尋ねします。 1 IBI社はサービス研究所と経済的取り引きがありますか、あるいはありませんか。 2 あるとすれば、その費目を教えてください。また年間どのくらいの取引高ですか。 草々 2007年10月18日三宅勝久 |
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(上)(中)株式会社国際ビジネス研究センター(IBI)の事務所。周囲では「江夏先生の会社」と呼ばれていた。ゼミ生や大学院生も出入りしていたという(東京・新宿区早稲田鶴巻町)。 (下)IBIと同じビルに入居するサラ研(早稲田大消費者金融サービス研究所)の事務所。業界がスポンサーとなっている消費者金融サービス研究学会(江夏健一会長)の事務所も兼ねている。家賃は10万円で、サラ研が発足した2000年からIBI社が借りているという(東京・新宿区早稲田鶴巻町)。 ![]() |
「IBI社が消費者金融サービス研究所と経済的取り引きがあるか、という質問ですが、これはあります。早大総合研究機構(サラ研が所属する上部組織)との間で『事務委託契約』を結んでいます」
事務委託の内容については「守秘義務」があるとして回答を拒否、取引高についても同様に口をつぐんだ。そのうえで次のように付け加えた。
「せいぜい学生のアルバイト料くらいでたいした金額ではありませんよ。申し上げられないのが残念ですが…」
少額でたいしたことではないと言いたげだが、不動産関係者によるとサラ研が利用しているマンションの家賃は月10万円前後。敷金や保証金抜きでも年間120万円以上になる。事務員も常時1~2入を置いており、年間の事務所維持費は少なくみても200万円~300万円はかかっているはずだ。これがはたして「学生アルバイト料程度」でまかなえるのか、釈然としない。
この点を大学に尋ねてみたが、「守秘義務」を繰り返すのみで取りつくしまがない。
サラ金業界が寄付した研究費から「江夏先生の会社」に支払いがなされている。大学幹部が関与したカネの問題だけに、積極的に情報公開したほうが大学の信用を高めると思うのだが、広報課の職員は、いったい何が問題なのかといわんぱかりの口調で「決まりでこれ以上は答えられない」と話し、電話を切った。
◇きっかけはサラ研“事務所費の怪”
筆者がIBIという会社の存在を知ったのは、前述の回答からさかのぽること約1ヶ月。ある研究者の一言がきっかけだった。
「消費者金融サービス研究所で驚くのは、事務所を借りていることですよ。よくお金がありますね」
研究者は驚きを口にした。
ためしにサラ研と同じ早稲田大学総合研究機構に属している同種の研究所を大学のホームページで調べたところ、記載があった139の研究所のほとんどは教授の研究室を連絡先にしている。民間の事務所を使っていることが確認できたものは数例。そのひとつがサラ研なのだ。
東京の都心で事務所一室を借りれば年間100万円は下らない。限りある研究費を削ってまで事務所を借りる必要があるのか、言われてみれば確かに不思議だった。
さっそくサラ研に電話で問い合わせた。その結果判明したのが意外な事実だった。サラ研の事務所は、サラ研が借りていたわけではなかったのだ。
--事務所の家賃は研究所が払っているんですか?
「いいえ、ある会社の好意で、事務所の一角を使わせてもらっています」
電話に出た女性はそう説明した。これは後に事実ではないことがわかる。
--好意?なんという会社?
「IBIさんです」
このとき筆者は、初めてIBIという会社の名前を知らされる。江夏教授の関係など知るよしもなく、親切な会社もあるものだと思いながら質問を続けた。
--もうひとつ聞きますが、電話代はサラ研の経費から?
女性はだんだん不機嫌になった。
「いいえ、IBIさんのものを使わせていただいています」
--基本料金、使用料も?回線数は?
「はい、2回線です。ほとんど使っていませんから」(切)
電話も肩代わりしているとは、いったいIBIとはどんな会社なのか。興味がわいてきた。
IBI社の住所を調べると、サラ研事務所の住所と同じだった。訪ねてみると、早稲田大学正門近くにすぐに見つかった。8階建てのマンションで、3階の一室がIBIだった。表札に小さく「IBI国際ビジネス研究センター」とある。
呼び鈴を押すと、女性が出た。取材を申し入れたが「わかるものがいません」と断られた。
一方、サラ研の事務所は同じピルの5階にあった。アパート住宅のような殺風景なドアの上に小さく「消費者金融サービス研究所/消費者金融サービス研究学会」と表示されている。こちらはインターホンを押しても応答がない。
不動産関係者によれば、IBI社の部屋は広さ10坪ほど。サラ研の事務所は、5~6坪で2000年頃にIBI社が借りたという。家賃は月10万円前後。
2000年といえばサラ研が誕生した年だ。IBI社はサラ研のために新たに部屋を借りたことになる。「好意」にしてはやりすぎの感が否めない。
解せない思いを抱きながらIBI社の謄本を調べてみると、冒頭で触れたとおり旧役員に江夏健一副総長と坂野友昭教授が名を連ねていたというわけだ。
◇IBIは「江夏先生の会社」と元学生ら
さらにIBI社代表取締役・江夏薫氏と江夏副総長の関係については、江夏社長の住所となっている分譲マンションの権利関係を調べることで明らかになった。法務局で確認したところ、分譲マンションは江夏副総長名義。副総長も同じ場所を住所にしている(末尾「記者コメント」参照)。要するに、江夏社長は江夏副総長の持家に住んでいる。
二人は親子か、あるいはきょうだいか。IBI社に電話をかけて単刀直入に尋ねた。
--代表取締役の江夏さんは、早稲田大学の江夏健一教授と、どのようなご関係ですか?
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人生125周年説を唱えた建学者・大隈重信にちなんだ早稲田大学創立125周年の記念パレード。教旨に「学問の独立」が掲げているものの、かすんでいるようにみえる。125年を経て建学の精神も“寿命”なのか。(10月21日)
MNJなどの報道を受けて早稲田大学が3週間遅れで発表した坂野友昭教授の処分内容。答案用紙に穴を開けて印をつけさせたとする「穴あけ疑惑」が不問にされるなど、甘さを感じさせる。研究費の問題は依然調査中というが・・・(10月10日、早稲田大学発表)
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読者コメント
過払返還請求してやる。
やましいことがないのなら出てきてきちんと説明すればいいのに
サラ金研究所の不正会計の一つが暴かれそうで良かったです。商学部設置の他の研究所の会計も怪しいのがありますよ。特に金額の大きいもの。自宅の購入資金の頭金とかにしている教授も・・・いるかもしれません。
委託研究費というのは研究ができない場合は返還しなくていもいいのでしょうか?
記者からの追加情報
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