加納さんが豊橋駅の駅員に書かせた覚書。「本日からの定期券なら運賃は必要ない」と書かれているが、本来の規則では、前売り定期券でも運賃は必要ない。
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JR東海が、無人駅からの定期券を購入する場合は最寄りの発売駅までの往復運賃を請求しない規則を設けていながら、実際には運賃を支払うよう乗客に指示し、不当に運賃を徴収していることがわかった。JR東海の全403駅のうち無人駅は224駅と半数以上にのぼり、全国では莫大な搾取額になる可能性がある。不当に運賃を払わされた会社員から話を聞いた上で実際、駅での対応を検証すると、「往復の運賃は有料」「往路のみ有料」と偽の案内をされた挙句、最後は訂正したが、該当する運賃約款の公開すら拒んだ。
【Digest】
◇不正乗車呼ばわりされ定期券の購入を拒否
◇東京駅の助役も規則を理解せず
◇営業担当の誠意無き対応に交渉打ち切り
◇無人駅には表示無く、対応も駅員次第で規則無視
◇駅でもテレフォンセンターでもころころ変わる案内
◇不当に支払わされた運賃を取り戻すには
◇不正乗車呼ばわりされ定期券の購入を拒否
運賃を不当に徴収されたのは、加納幸市さん(41歳、仮名)。
JR東海(東海旅客鉄道株式会社)の飯田線で、2008年8月30日に無人駅の下地駅から乗車して、最寄の定期券発売駅である豊橋駅に行き、9月1日からの前売りの定期券を購入したいと駅員に伝えたところ、下地駅からの運賃140円を支払うように言われたという。
加納さんは、事前にJR東海のテレフォンセンター(050-3772-3910)に問い合わせ、「無人駅から発売駅までそのまま乗車して、発売駅でその旨を伝えれば、定期券購入の証明をするので、往復の運賃は不要」と案内されていた。
その案内を駅員に告げ、「扱いが違うならテレフォンセンターに確認してほしい」と反論した。
しかし、駅員は耳を貸さず、前売りの定期券の場合は運賃が必要であり、テレフォンセンターの案内は間違いである、そのとおりにするなら不正乗車として扱う、と宣告し、改札口に立ちはだかった。
この対応に憤った加納さんは、その主張を紙に書くように駅員に迫り、駅員は次のような覚書を書いて加納さんに手渡した。
「9/1からの定期券を買いに無人駅から乗車して、豊橋まで来られました。しかし、8/30は定期区間外なので、140円収受します。
本日からの定期券でしたら運賃は必要ございません。」
改札窓口には他にも2名の駅員がいたが、この騒ぎを傍観していたという。
加納さんは結局、定期券を購入せずに下地駅に戻るために列車に乗り、車内にいた車掌に片道運賃である140円を支払い、下地駅で降りた。
◇東京駅の助役も規則を理解せず
しかし、JR東海の対応に納得のいかない加納さんは、9月8日に所用のついでに東京駅を訪れた際、JR東海の出札窓口に行き、この件の関係規則を見せてほしい、と要求した。
「東京駅はJR東海の本社にも近い大きな駅なので、間違いなく規則は置いてあると思いましたし、話がスムーズにできると思ったのです」(加納さん)
しかし、渡された規則集は、無人駅を利用する乗客が定期券を購入するときの手続きが載っていないものだったため、加納さんは、この駅員に対して、テレフォンセンターと豊橋駅のどちらが正しい扱いなのかを尋ねた。
しかし、駅員は何らの文書を参照することもなく、「この場合には支払っていただくことになります」と答えたという。
加納さんが、その根拠となる規則を示すよう要求すると、「当駅は新幹線の駅なので在来線の規則はわからないから、熱海から先の駅に行ってほしい」と告げてきた。
納得できない加納さんが問い詰めていたところに、駅の助役が現れたので、経緯を説明したところ、助役は、在来線の規則が手元にないので調べておくから時間をもらいたいと答えた。
そこで加納さんは、所用を済ませて3時間後に東京駅に戻った。
しかし、その助役は加納さんに「当日からの定期券ならば駅員に話せば運賃不要です」と的外れな答えを返してきた。
加納さんが、前売り定期券購入の際の規則について尋ねていることを再度説明したところ、今度は先の駅員と同じく、当駅は新幹線の駅なので在来線の規則はわからない、と繰り返したという。
呆れて帰宅した加納さんは、数日後にJR東海テレフォンセンターに再度電話して、これまでの経緯を伝えた上で、どのような扱いが正しいのかを担当者に質問した。
しかし、30分後に折り返し電話してきた担当者は、「規則は手元にないのですが、やはりお支払いいただくこととなります」と回答した。
納得できない加納さんは、規則上どのように書いてあるのか理解してから回答してほしい、と再度の説明を求めた。
30分ほどしてかかってきた電話では、同じ担当者が、「誠に申し訳ありません、お客様の言うとおりでした。当社規則では定期券購入の場合には無賃で乗車できることとなっています」と答えてきた。
担当者によれば、
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上大井駅の駅舎。定期券購入に関する案内は全くなかった。
上大井駅からワンマン列車乗車時に受け取った整理券。
松田駅で購入した前売り定期券。本来発行されるはずの定期券購入証明書は渡されなかった。

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JR東日本の早川駅駅舎。こちらは規則どおりの運用がされていた。
早川駅改札にある定期券購入の案内表示。
早川駅で購入した切符には駅員が定期券購入を証明するスタンプを押し、小田原駅で払い戻しを受けた。
小田原駅で購入した前売り定期券と、その際に発行された乗車票。乗車票を早川駅で渡せば復路運賃が不要となる。

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加納さんと筆者が体験した、前売り定期券購入に関するJR東海の案内一覧表。加納さんへの誤った案内と不当な対応は、3ヶ月経っても改善されていなかった。

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