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奨学金は武富士から借りると思え!――法令・判決無視で問答無用の貸しはがし

「債務全額に延滞金10%」で借金地獄に転落する機関保証利用者

情報提供
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日本学生支援協会と熊谷信太郎弁護士の顧問契約書。随意契約で、長年顧問を務める。熊谷氏が経営する事務所には、吉村洋文・現大阪府知事も在籍していた。

「支払能力があるにもかかわらず著しく延滞」した場合にのみ、分割弁済を中断して債務全額の一括弁済を求めることができる――法令がそう規定しているにもかかわらず、支払能力を無視し、困窮者と知りながら問答無用の全額一括請求(貸しはがし)を乱発。若者を、延滞金が激増する借金地獄へと突き落とす行為が、奨学金返済の現場で横行している。貸し手である日本学生支援機構(吉岡知哉理事長)は、再三にわたる批判を無視。函館地裁で違法判決を受けたが反省なく、文科省の「見ぬふり」をいいことに違法な回収を今日も続ける。支援機構の顧問弁護士は、武富士の代理人だった熊谷信太郎氏で、寺澤有氏や山岡俊介氏らジャーナリストらを相手に不当提訴を行ったことで知られる。現在の法令軽視の傲慢な態度は、往年の悪徳サラ金・武富士を超えている。

Digest
  • 10年前から指摘してきた違法行為
  • 「繰り上げ一括請求」とはなにか
  • 施行令の要件「支払能力があるにもかかわらず」
  • 「支払能力」無視して一括請求
  • 違法性を明言した函館地裁
  • 業務方法書で施行令無視できる詭弁を認めた冨田一彦裁判長
  • 判決無視で違法回収強行
  • もうひとつの詭弁「確認書」
  • 詭弁にお墨付き与えた中野琢郎裁判長
  • 機関保証の延滞金は暴利10%

※資料は末尾にてPDFダウンロード可

2020年度の大学生の奨学金利用率は49・6%で、30年前の20%台から大幅に上昇した。いまや、学生の2人に1人が、平均で324万円を借り14.7年で返済するほど、奨学金の利用は一般的になっている(日本学生支援機構データより)。

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独立行政法人日本学生支援機構市ヶ谷事務所(東京都新宿区)。2004年に旧日本育英会が独立行政法人に組織変更され、違法回収の問題もそれに伴って深刻化した。

「教育の機会均等の実現」の名のもとに、その奨学金ローン事業を行うのが、独立行政法人・日本学生支援機構である。だが、貸す時はほとんど審査しない一方で、一転、その取り立てになると豹変。そのなりふり構わない法令軽視ぶりは、あまり知られていない。奨学金を借りる際には注意が必要だ。

10年前から指摘してきた違法行為

日本学生支援機構の目にあまるコンプライアンス崩壊ぶりを象徴するのが「繰り上げ一括請求」だ。筆者がこの問題を発見し、世に問うたのは10年前、2013年のことだった。以来、絶えず違法性を指摘し、改善を求めてきた。この間発表してきた主な記事や著作には次のようなものがある。

「奨学金」という名の悪質公的学生ローン 施行規則も何のその、「支払い能力」無視して一括繰上げ請求しまくり

日の丸学生ローン「日本学生支援機構」、支払能力を無視した違法な「一括繰上げ請求」乱発を認める

共著『日本の奨学金はこれでいいのか!』(あけび書房、2013年)第2章「ルポ・奨学金地獄 若者の借金奴隷化をたくらむ『日本学生支援機構』―延滞金を膨らませて骨までしゃぶる”奨学金”商法―」

『消費者法ニュース』連載「日本学生支援機構『繰り上げ一括請求』の研究」(123号〜129号)

『週刊金曜日』連載「”日の丸ヤミ金”奨学金」(継続中、現在21回)

しかし、なんら改められる気配はない。法令違反、コンプライアンス違反は明白なのに、まるで馬耳東風である。

なぜそんな態度が通用するのか。理由はいくつか考えられる。まず、監督機能が実質的に存在していない。たとえば、銀行や貸金業者などの金融機関は金融庁の監督下にある。問題があれば行政処分の対象となる。ところが独立行政法人日本学生支援機構は、文部科学省を所管庁としているものの監督されているわけではない。

いったい独立行政法人となにか。総務省の説明は次のとおりである。

1)公共性の高い事務・事業のうち、
2)国が直接実施する必要はないが、
3)民間の主体に委ねると実施されないおそれのあるもの
を実施するものであり、
・業務の効率性・質の向上
・法人の自律的業務運営の確保
・業務の透明性の確保
――を図る仕組み。

お上の組織だから違法・不当なことはやらないという前提に立った制度設計なのだ。制度に根本的な欠陥があると言わざるを得ない。

日本学生支援機構の場合、監督機能の欠如に加えて、弁護士や学者らでつくる専門家集団の手ぬるさもあると指摘せざるを得ない。奨学金問題に取り組む代表的な団体に「奨学金問題対策全国会議」(大内裕和代表)がある。彼らは、一括請求問題を世に問うということをほとんどやっていない。むしろ背を向けている。

じつは、2013年に全国会議が設立された当時、筆者は会員だった。ところが「一括請求」問題への関心の低さに失望し、2年あまり後に退会した。その後2019年になって、全国会議のなかで多少なりとも問題意識が出たことを確認したため、「再びいっしょに問題に取り組みたい」と再入会を申し出た。すると入会を拒否された。予想外のことだったがその拒否理由がふるっている。

三宅は一括請求問題に関心が高い。入会すると同問題について強い発言をすることが予想され、会の活動に支障が生じる――(趣旨)

わけがわからないが、一括請求問題に取り組みたくないことは理解できた。全国会議の消極姿勢も影響して、新聞やテレビで「一括請求問題」がニュースになることもない。日本学生支援機構のやりたい放題を許す結果を招いている。

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一括請求問題に消極的な「奨学金問題対策全国会議」共同代表の大内裕和・武蔵大学教授。著作盗用が発覚しているが現在もいっさい責任をとっていない。

なお、全国会議代表の大内裕和武蔵大教授(当時は中京大教授)の盗用問題(筆者=三宅=の著作からの盗用・剽窃が濃厚に疑われる文章を多数発表していた)が発覚したのはこの「入会拒否」事件の1年後のことである。

足元の組織が堕落してしまっていては、日本学生支援機構のコンプライアンスを難じるどころではないのかもしれない。

「繰り上げ一括請求」とはなにか

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日本学生支援機構法施行令5条5項には、一括請求の要件として「支払能力があるにもかかわらず」とあるが、支援機構は無視し続けている。

さて、「繰り上げ一括請求」とはなにか、そのどこがどう違法なのか。また問題なのか。説明したい。

「借りたものは返すのが当たり前だ」

奨学金ローンの問題を書くとそんな乱暴な反響を目にすることがある。そう言いたくなる気持ちはわからないでもないが、これは間違いである。金融機関や政府機関を貸手とする金の貸し借りは、貸手と借り主の間で取り交わされた契約に基づく行為だ。双方の当事者は契約事項を守る義務がある。関連する法令もあり、それらも遵守することが前提だ。契約内容やその解釈・運用が違法だったり無効ということもあり得る。

つまり、契約と法令が何より重要なのであって、「返すのが当たり前」とは限らない。筆者が「一括請求」を問題視するのは、日本学生支援機構が守るべき「契約」を守っていないからである。

奨学金ローンは金銭消費貸借契約の一種である。ただ行政機関と個人の契約であることから、民間の金融機関の場合と区別して「行政契約」と分類される。

契約の方法についてみると、金融機関の一般的なローンではふつう契約書を交わすのに対して、奨学金ローンには契約書がない。それにかわるのが日本学生支援機構法などの法令だ。返還方法に関する諸条件は、以下のとおり法令で明記されている。

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2013年に出版した『日本の奨学金はこれでいいのか!』の第2章で、筆者は日本学生支援機構の「一括請求」をめぐる違法回収を告発した。

一括請求の問題を告発した筆者の記事(2013年発行『日本の奨学金はこれでいいのか!』第2章より)。

一括請求をする際に支払能力を審査していないことを認める日本学生支援機構の回答文(2013年9月2日付)。

「支払能力」を無視した一括請求を要件不備で無効だと断じる判決を下した函館地裁。

支払能力を無視した一括請求は無効だと判断した函館地裁判決。

日本学生支援機構北海道支部(札幌市)。

札幌地裁・高裁が入る裁判所の庁舎(札幌市)。

日本育英会業務方法書を使えば施行令を無視して一括請求できるという暴論にお墨付きを与えた札幌高裁判決。独立行政法人化に伴って変更された新業務方法書の記載内容に照らして誤判である可能性が高い。

函館地裁判決を「下級審の判断」だと軽視する内容が記載された日本学生支援機構の回答。

確認書裏面の記載(右上)を使えば施行令を無視できるという暴論を裁判所で展開した日本学生支援機構。最新の確認書では記載内容に変更がある。変更理由については現在のところ明らかではない。

確認書裏面の記載を使えば施行令を無視して一括請求できるという支援機構の暴論を追認した札幌地裁判決。控訴審で事実上否定された。

奨学金ローンの機関保証業務を行っている公益財団法人・国際教育支援協会。延滞金は年10%と高率だ。

公益財団法人国際教育支援協会の奨学金ローン保証事業は、近年収支が逆転している(支援協会の決算資料より)。

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