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民主・社民・国民で369議席に 「投票義務化・優先順位付け投票」のオーストラリア方式で

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オーストラリア連邦下院選挙の投票用紙の見本。すべての候補に優先順位を付けなければならない(オーストラリア選挙委員会のサイトより)
 投票が義務化され、かつ、マイノリティーの声も反映されるよう候補者全員に順位付けをして投票するオーストラリアの下院選挙。より民主的といえるこの選挙制度を、仮に今回の日本の総選挙(小選挙区)に導入したら、どうなるのか。共同通信の調査結果をもとに集計すると、社民・共産・国民新など少数政党の声が順位付けで反自民候補により多く反映されること、義務化によって無党派層や若年層が非自民により多く投票することなどで、自公は103議席に激減、民主、社民、国民の「オポジション」勢力が369議席と圧倒的多数を獲得するシミュレーション結果になった。

 第45回衆議院議員選挙が8月30日に行われる。2005年の前回総選挙の投票率は67.51%。このような投票率では政権の正統性に確信を持てない。そこで、オーストラリア在住ジャーナリストの木村哲郎ティーグが、二大政党でもマイノリティーの声が反映されるといわれるオーストラリア下院選の「優先順位付連記投票制」を導入した場合にどのような結果になるのか、今回の日本の衆院選を予想した。

 日本の過去5回の衆院選の投票率を見ると、67.26%(1993年)、59.65%(1996年)、62.49%(2000年)、59.86% (2003年)、郵政選挙となった前回2005年は67.51%で、過去5回の平均投票率は63.35%。とくに1996年の59.65%は過去最低の投票率だった。戦後に男女普通選挙が始まってからの最高投票率は1958年5月22日に行われた第28回衆院選の76.99%だった。

 一方、日本の衆議院にあたるオーストラリアの連邦下院選(任期3年)の投票率は、95.77%(1996年)、94.99%(1998年)、 94.85%(2001年)、94.32%(2004年)、94.76%(2007年)で、過去5回の平均投票率は94.94%。

 オーストラリアの投票率が高いのは、選挙投票が「権利」ではなく「義務」だから。オーストラリア選挙委員会の資料によると、投票を義務としているのは世界で32カ国あり、そのうち19カ国は罰金や刑罰などで義務を厳格化している。OECD加盟国では、オーストラリアのほかに、ベルギー、ギリシャ、ルクセンブルグなども選挙投票を義務としている。

◇オーストラリアは投票率の低下を抑えるために投票を義務化
 オーストラリアで入植の始まったのが1788年1月26日。「オーストラリア連邦」という国ができたのは1901年1月1日のことで、現在は州になっている6つの英国植民地が合併してできた国である。連邦下院の第1回選挙は、1901年3月29日から30日にかけて行われた。当時の選挙投票は、まだ「権利」だった。

 選挙投票が義務になったのは1920年代に入ってから。1922年の連邦下院選では59.38%と史上最低の投票率となったことから、 選挙の投票率低下を抑制するためオーストラリア政府は投票の義務化を決定。これにより1925年の下院選では、91.4%まで投票率が上がった。

 しかし、投票が義務であるオーストラリアでも、投票率は100%にはならない。「正当かつ十分な理由」がある場合には投票しなくてもよいとされているからだ。ただし、何が「正当かつ十分な理由」にあたるかは個々の事情によって判断されるため、一律の規定はない。

 1926年のオーストラリア最高裁判所の判例では、病気や天災であったり、事故などの物理的な理由のほか、公共性のある行動が「正当かつ十分な理由」に含まれるとされている。公共性のある行動とは、けが人や病人を助けていた、ということになるのだろう。

 また、投票日に海外にいるというが「正当かつ十分な理由」になることは広く知られており、労働党の党員に私が話を聞いたところ、「いずれにせよ、理由を言えば認められる。車が故障したと言えばいい」とのことだった。

 行政も、市民が不自由なく投票できるように対処しており、病院や刑務所には移動投票場が向かい、郵便投票をすることも可能。さらに、パスポートさえあれば海外の在外公館でも投票が出来る。日本人が海外で選挙投票する場合は、大使館などの在外公館を通して事前の登録が必要だが、オーストラリア人の場合はそのような手続きは一切不要だ。

 実際に、2007年11月の下院選挙のとき、私は旅行中でマレーシアにいたので、クアラルンプールのハイ・コミッションで投票を行った。(オーストラリアとマレーシアのように英国連邦国家間には「大使館」は設置されず、「ハイ・コミッション」が英国連邦国家間における大使館に相当する)入館時のセキュリティーチェックで時間がかかったものの、20分ほどで外に出ることができた。

 ちなみに、投票に行かなかった場合は、そのことを理由として20ドルの罰金が課せられる。さらに、罰金を払わず投票を行わなかった理由を21日以内に選挙委員会に提出しなかった場合は告訴され、裁判所への出頭を命じられる。有罪判決を受ければ罰金は50ドルになり、裁判費用も負担しなければならない。

 ただし、義務づけられているのは「投票する」という行為であり、白票や無効票を入れることに問題はない。そういう意味では、政治への不参加も許されている、と言える。

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オーストラリア緑の党の「ハウ・トゥー・ヴォート・カード」。どのように番号を振って欲しいか政党が表明している。

◇有権者は選好順位にしたがい候補者全員をランク付けする
 オーストラリア下院の選挙は小選挙区制だ。選挙区は全部で150。上院は州(各12議席)と準州(各2議席)をブロックとする比例代表で76議席。州選出の上院議員の任期は6年で、3年ごとに半数6人が改選され、準州選出議員は下院選に合わせて全議員が改選される。

 この辺りまでは日本人にも分かりやすい選挙方法だと思うが、オーストラリアの選挙方法で日本と大きく違う特徴として、「優先順位付連記投票制」またの名を「単記移譲式投票」があげられる。候補者や候補政党の中から1つだけを選ぶ日本の選挙と違い、オーストラリアでは、有権者が選好順位にしたがって1、2、3…と番号を振っていく。1つの番号は1度しか使えないので、複数の候補に「2」をつけるといったことはことはできない。2005年衆院選の東京18区(武蔵野市、小金井市、府中市)を例にして、この制度を説明しよう。

◇05年衆院選東京18区では当選者を左右したオーストラリア方式
 東京18区で出馬したのは菅直人(民主党)、土屋正忠(自民党)、宮本徹(共産党)の3人だった。オーストラリアの優先順位付連記投票制下でこの3人が立候補したとする。投票用紙には、あらかじめ候補者3名の名前が印刷されていて、名前の横には四角いマスがある。有権者はこのマスに、選好の順番を数字で書き込む。

 例えば、菅直人が一番だと思えば菅直人のマスに「1」と記入する。日本の選挙ではこれで終わりだが、オーストラリアではさらに選好順に従って、土屋正忠か宮本徹のどちらかに「2」をつけなければならない

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オーストラリア学校で公民教育に使われる投票用紙のサンプル。

オーストラリアの制度で予想した改選後の衆議院の勢力。

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