現役社員初、パワハラ過労裁判でトヨタとデンソーに勝訴 「会社は変わり始めた」
社員の鬱病発症に対し、トヨタとデンソーの過失が認められた。2008年10月30日、名古屋地裁前。 |
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- 泣き寝入りか闘うかで結果が180度違う
- 失敗を一切許さないトヨタ
- 「使えない人はうちにはいらないよ」となじられ
- トヨタ・デンソー両社に損害賠償命令
- 「倒れると自己責任。それが許せなかった」
- 「職場で話しかけてくる人が減った」
- 裁判を起こしたら会社が変わり始めた
泣き寝入りか闘うかで結果が180度違う
2008年10月30日、名古屋地方裁判所は、トヨタとデンソーが社員に過重労働を課して鬱病を発症させたことを認め、両社に約150万円の賠償金の支払いを命じた。被告2社は控訴を断念し、翌11月に判決が確定した。
地裁判決直前の昨年9月に、北沢さんは鬱病発症の労災認定を求める行政訴訟も起こしていた。しかし、民事裁判でトヨタとデンソーに対する損害賠償が認められ、鬱病などを抱える社員に対する一定のケアがデンソー社内で推進されたこともあり、行政訴訟のほうは取り下げている。
これまでパワハラ裁判や過労裁判では、遺族もしくは解雇(あるいは辞職)された社員が会社を訴えるケースが多かった。それに対して北沢さんの場合は、働きながら会社を訴えて勝利した。関係者の話では、トヨタやデンソーの現役社員で会社を訴え、なおかつ勝利したのは史上初だという。
つまり、泣き寝入りすれば結果はゼロ。闘えば勝つ可能性があることを、現役デンソー社員が実証したことに意義がある。民事と行政ともに裁判を終えた北沢さんに、これまでの経緯を振り返ってもらった。
失敗を一切許さないトヨタ
MyNewsJapanでは、北沢さんの裁判を「過酷勤務とパワハラでうつ病になったデンソー社員、トヨタを訴える 「死んでからでは取り返しがつかない」(2007年6月29日)で伝えた。この記事と重複するが、現役社員が会社を訴えるに至ったプロセスを、もう一度簡単に確認しておこう。
北沢さんが、自動車の電機・電子部品などの製造するトヨタグループの㈱デンソーに入社したのは1985年。ディーゼル噴射技術部に長く勤務していた。忙しい技術職だから残業も多く、月40~50時間、多い時は100時間に達することもあったという。しかし、これといって大きな問題はなかった。
1992~1994年には、はじめてトヨタに出向したが、このときにも大きな問題は生じなかった。ところが1999年8月にトヨタに出向したところ、長時間労働、緊急度、難度の高い仕事内容、上司によるパワハラが重なり、鬱病を発症してしまったのだ。
「完璧な仕事を求められ、その日に100パーセントやらなければ翌日の自分の仕事もできず、一緒に働いている人に迷惑がかかるシステムです。市販されている製品が数万円だとすると、開発に使う試作品は数百万円という単位。ですから、数は作れず、ひとつの試作品をAさん、Bさん、Cさん、と複数の人間が共有(持ち回り)して試験データをとるなどして関わることになります。
そうなると、一人でも病気で休んでしまったら、その仕事は成り立たない。そのプレッシャーですね。デンソーで働いているときや1992年にトヨタに出向したときは、試験・評価で4日(予備1日)、データ整理が1日というように仕事を5日で組んでいくような余裕がありました。それだと、予期しない事態に対応できます。
ところが2回目の出向(1999年)は、まるでマージン(余白)がない仕事のやり方で、前は5日で組んでいた仕事を2-3日でやらなければならないようになっていたんです。試験・評価だけで定時間内は目一杯で、残業時間でその日のデータ整理をし、その結果を反映して翌日朝からの試験計画を立て、事前準備なければ、朝からの試験に間に合わない。
精神的にも肉体的にも、本当に追い詰められました。トヨタでは、人間は失敗をしないことになっているし、病気にもならない前提でシステムが構築されています」
会社側の過失を認めた判決文。原告の北沢さんは2回鬱病を発症させたが、1回目は会社が安全配慮義務などを怠った点が認められ、上司の叱責はパワハラに当たるとも認定された。しかし、2回目の鬱発症に関しては、会社側に過失にないと判断された。 |
ここで整理しておくと、北沢さんがトヨタとの共同作業をしたのは3回である。
○1993年 トヨタに出向。(大きな問題なし)
○1999年 トヨタに出向(過重労働で鬱病を発症。休職)
○2002年 デンソー内にいながらトヨタと共同プロジェクト作業(鬱病再発で休職)
「使えない人はうちにはいらないよ」となじられ
「そんなころ、1999年11月15日に会議が開かれ、トヨタとデンソー社員が6人くらい出席しました。このときトヨタの上司が『北沢さん、もうデンソーに帰っていいよ。使い物にならない人は、うちには要らないから』と言ったんです。
それまで経験した事のないみじめな気持になり、私という人間の人格、人生すべてを否定されたような気持ちになり、帰りの車で涙がとまりませんでした。翌日は起きられず二日間休んでしまいました」
他の社員もいる場で“不用品”扱いされた北沢さんは、デンソーの上司に「早くデンソーに返してほしい」と訴えたが、すぐには無理だということだった。仕事内容は難しく、長時間勤務もつづき、ますます精神的・肉体的に追い詰められていった。ついには、駐車場から職場のビルまで歩けないほどになってしまったのだ。
こうして、北沢さんは2000年8月末から2か月間、休職。その後デンソーに戻って仕事を始めた。ところが02年5月、トヨタと共同の仕事を命じられて、また鬱病を発症。同年8月から6か月の休職となった。
北沢さんは、2度目の鬱病から復帰したときにデンソー労働組合に相談したが親身になって話を聞いてもらえず、何の解決にも至らなかった。それで闘う組合「全ト・ユニオン」(全トヨタ労働組合)に加盟し、2006年5月、ついにトヨタとデンソーに損害賠償を求める裁判を起こしたのだった。
トヨタ・デンソー両社に損害賠償命令
判決に対して原告の北沢さんはどう思っているのか聞いてみた。
「先ずは、優秀な弁護団と多くの支援者の助けや協力があり勝訴できたことに皆様に感謝を申し上げたい。1回目に鬱病を発症したのは、業務によるものだと認められ、トヨタ・デンソー両社に賠償を命じたことが一番うれしいです。また、会社が社員の健康管理に関する安全配慮義務を怠ったことも認められました
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第1回の鬱病発症時の労働時間。双方に主張の時間は一致しないが、会社の責任は認められた。
第2回鬱病発症時の原告・被告双方が主張した労働時間。このころ業務命令で英語学習の負担もあったが、これは残業時間には認められなかった。また、2回目の鬱発症に会社の責任はないとの判決が下った。<imgsrc="https://www.mynewsjapan.com/static/extrapictures/kaiin.gif"
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裁判おつかれさまでした。
工藤氏あたりははらはらドキドキだろうなぁ。
良記事。デンソーうつ裁判原告勝訴。社員に「使い物にならない人は、うちには要らないよ」と叱責し敗訴したトヨタ。関連http://www.katch.ne.jp/~atunion/densoutsu.html
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読者コメント
電装派遣社員労災裁判ってどうなりました?
飛島物流Sのとある上司は、イレギュラーが発生すると、うまく指示するどころか協力会社や他の社員の目の前で怒鳴るような大声でその関係社員を罵倒してるらしい。そして、「いやなら、他の部署に異動させるぞ。」が決まり文句だ。
そもそも報連相がなされていないのは、上司としての寛容さと資質に欠けているから、部下が関わりたくないからだ。部下が上司の評価を行う制度を早く導入してもらいたいものだ。
当時、会社代表労働組合にも、全トヨタ労働組合にも書簡で相談(いわば内部告発)しましたが、双方反応はなかったです。会社側には権力で屈し、頼みの組合も無反応で、無力感でいっぱいでしたね。
>>法令非順守 20:04 05/31 2016へ
会社内のホットラインなど大抵はガス抜きとしてしか機能していません。MyNewsJapanに内部告発しましょう!事実はどれだけ遠くに投げても必ず戻ってくるのです。隠蔽し続ける体制は維持されません。旧ソ連のように。
悩みを相談するホットラインに相談をしたら、担当弁護士が会社へ通告し、会社と結託して事実隠蔽されました。
派遣会社、オートシステムの派遣社員に対する、過重労働による健康被害の労働基準監督署えの告発、及び、それに対する慰謝料請求の裁判を起こし、現在、係争中
パワハラはトヨタ系に限った話じゃないと思ってる。
匿名さんへ 注意してくれるだけいいと思います。トヨタ系は上司による徹底的な無視がありますよ。気に入らない部下に仕事を振らず精神的に追い詰めることをやる会社です。
遠く離れた長崎ではこの様な問題を知る人は少ない。マスコミも都合のいい問題だけでなく、真実に基づく貴重な問題も掲載すべきと考える。トヨタの悪評は知ってるつもりだったが、デンソーもか…。救いがあるのはデンソーがこの問題から変わりつつある事。間違いから反省し変わる事は大切な事。
TV報道やらないから、知らなかったニュースです。大々的に報道するべきですよね。うつ病や精神疾患患者増加は、今や社会問題なのですから。
愛知県豊田市はトヨタ王国といったひとつの国です。日本を支配した後は世界制覇を望んでいるのでしょうか?
労災隠し王ト○タ。偉そうにする上司、問題を起こせば会社が守ってくれる。だから部下が泣く。メンツばかり気にしないで企業は問題を起こせば守らない。そんな態度をとって欲しいものです。車が売れなくなれば、簡単に潰れる会社。ト○タ車反対。
エコをうたっている会社が実は裏では・・・自分たちの地位を守る為自分の部下を肉体的傷つけもみ消そうとしているのですから、戦国の下剋上なみですよ。この様な上司が高収入を得て会社が成り立っているのですからトヨタは怖い会社です。
トヨタ系企業は労働問題がたくさんあります。
もっとマスコミは報道すべきです。
>病院に行き鬱の診断書を出し上司をパワハラで訴える…
おっしゃる通りならその社員とやらの勇気に感動します。鬱の実態が知られた昨今、こんな行動が鬱とは縁もゆかりもないことなど誰だって知っています。詐病です。それがゴロゴロいるんですか?見上げた度胸です。むしろ上司とやらの管理能力を徹底的に責めるべきでしょう。
弊社では仕事もろくにせず、注意されると病院に行き鬱の診断書を出し上司をパワハラで訴えるとんでもない社員がゴロゴロいます。他社でもいっぱいいるのでしょうね。
トヨタ関連の株式会社ファインシンターという会社でも労働問題色々あります。
企業内組合を脱退し
ATU(全トヨタ労働組合)に加入し公然化しました。
労働問題、その他職場の環境問題の解決に努力しています。
他のトヨタ関連で働く人たちも労働者の権利向上に向けて闘いましょう
トヨタに限った事ではないでしょ。IT関係の仕事もうつ病や蒸発など結構ありますね。そえにパワハラ、残業代を一円も払わず月に300時間以上働かせたりね。経営陣はごめんなさいの一言もないですよ。これ新卒で初めて働いた会社がこれでしたから経営者って聞くと汚い人間かこいつとかしか思いません。もちろん間違った認識しなんだろうけど
字数制限のため書けなかったのですが『上司のエゴ』は、トヨタさんの管理職の方々を決め付けるためのものではありません。また、組織の利益と部下たちの板ばさみとなっている管理職の方も居るはずです。そして、信頼、尊敬されている管理職の方も多く居るはずなので、誤解のないようにお願いします。
上司のエゴの本質
①何よりも保身と出世が大切だ。②人件費を安く、コストを下げて評価を上げたい。③必要が無くなった人員は解雇したい。病気になった人員は交換したい。④労災事故や労働基準法に関する責任は問われ難い仕組みがほしい。⑤自分の意見にYESしか言わない(言えない)部下がほしい。⑥良い成果は自身の手柄。良からぬ結果は部下たちの責任だ。⑦威張っていたい。周りから丁重な扱いを受けていたい。
環境に良い車を製造してますが、職場内では環境悪いですね?自分の部下を育成する立場なのに部下に対し肉体的に傷付け地位を守るため隠すのですよ!管理監督者としての立場忘れています。
外資以上にとことん人材を使い切るからある意味海外勢力に勝てたんでしょうね・・。恩恵を受ける地域や国や家族的には良いのでしょうが・・。働く人のことももう少し考えて欲しい。
物づくりの拠点などとすばらしいことのように言われますが、トヨタの実態は人をとことん使いきる。部品と同じです。どこもかしこも時間と競争しての仕事です。又使いきらなければ管理能力を問われるわけですからね。
弱肉強食、下克上の縮図が垣間見える。
やりきるまでとことん進むしか生き残れない。
最後通告はやめたければいつでもやめればいい、代わりいくらでもいる。です。
パワハラは犯罪です。その認識のない社会人はみな窓の無い部屋へ。
私も同じ頃元上司を訴える寸前でしたよ。
今元上司は異動し窓の無い部屋にいますが。
団塊の世代位が滅茶苦茶やってましたから
トヨタさんはエコに関する宣伝するのも良いのですが、『人間様の扱いに関するISO』でも作ったらどうなのでしょうか?
ビジネスパートナーが過労状態や病気になったら足元を見て、イジワルするような雰囲気や職場環境ってどうなのでしょうか?
この事例から分かることは、立場の弱い人が職場で疲弊していくような職場環境や仕組みになっているということです。
なるほど、これがトヨタ人ですか!他人にトコトン厳しく、自分はエライ、トヨタは人でそれ以外は使い捨て、確かに偉そうにしているトヨタさん、多かったですね、何様の積りと思いましたね
北沢さんでした。失礼しました。
パワハラとは犯罪であるということを示す事が出来て良かったですね。北川さんお疲れ様でした。
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