全身傷だらけ、肋骨骨折に脳血管破断―新兵を殺した陸自「格闘訓練」の恐怖
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「徒手格闘」訓練中に死亡した島袋栄吉さんの父・勉さんが記した著書『命の雫』(文芸社) |
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- 肋骨骨折、全身傷だらけの遺体
- 陸自11師団調査報告書
- 技は?場所は? 浮かぶ数々の疑問
- 「大会」出場目前に無理な練習か
- 時効を主張する国VS「真実」求める遺族
肋骨骨折、全身傷だらけの遺体
遺族によるホームページ「命の雫」裁判に詳しいが、事件は2006年11月21日、陸上自衛隊真駒内駐屯地の体育館で起きた。「徒手格闘」の訓練中、島袋英吉1士が意識不明となり死亡した。享年20歳。教育期間を経て同駐屯地に配属されて間もない“新兵”。部隊では輸送隊のトラック運転手だった。
自衛隊の階級制度について簡単に説明しておく。低いほうから、2士・1士・士長・3曹・2曹・1曹・准尉・3尉・2尉・1尉・3佐・2佐・1佐・将補・将。士長までは2~3年ごとに更新する任期制で、3曹以上は定年制だ。島袋英吉さんの階級は「1士」だから下から二番目である。旧日本軍の「1等兵」に相当する。
英吉さんの受傷状況は目を覆うばかりだ。救命措置を行った中村記念病院(札幌市)の診断書によれば、死因は急性硬膜下血腫および外傷性くも膜下出血、さらに頭部外傷による急性脳浮腫、小脳ヘルニア、二次性脳幹部出血もあったという。搬送直後は呼吸があったものの意識不明で、そのまま息を引き取った。「発症状況」として医師の所見がこう書かれている。
〈徒手格闘訓練中、投げられた際、後頭部を強打し受傷。頭部がかなりふられた様子。脳がかなりふられたことが予想される〉
司法解剖の結果をふまえた鑑定書にも、「脳が比較的強く振盪する力が発生したものと考えられる」と記載されている。架橋静脈という頭頂部の重要な血管が切れていることがわかった。頭を強打したことが致命傷になったことは明らかだった。
しかしダメージを受けたのは頭だけではない。医師や解剖医によって次のような傷が確認されている。
① 左ほお・鼻の表皮剥離・② 下唇挫創・下顎切歯の脱落(注)
③ 前胸部・両側胸部の皮下出血
④ 左第4肋骨・同第8肋骨の骨折
⑤ 両腰・背中・ひざ・両肩付近の皮下出血
⑥ 肝臓裂創・出血(注)
解剖所見によれば、②の前歯欠損と⑦の肝臓の損傷については。人工呼吸器の挿入や心臓マッサージなどの医療行為による可能性があるとしている。だが、ほかの傷については病院に運ばれた時点でついていたとみられる。
「訓練中の事故」という自衛隊の説明を、遺族はにわかに信じられなかった。傷だらけの遺体を前にすればもっともなことだろう。
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自衛隊「徒手格闘」訓練の試合の様子![]() |
陸自11師団調査報告書
島袋英吉さんが亡くなったことを受けて陸上自衛隊第11師団が調査を行い、報告書をまとめている。そこに記載された経緯は次のとおりだ
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自衛隊「徒手格闘」訓練の様子。「倒して胴突き」をやっている最中に、返し技で倒され、頭を強打したとされる。
亡くなった島袋栄吉さんが使っていたラッパ。高校時代はブラスバンド部で、自衛隊でもラッパ手として優秀だとの評価を受けていたという。「命の雫」裁判ホームページより
島袋栄吉さんが生前に書いた書「命どぅ宝」(命は宝)。沖縄県出身で、命を大切にするやさしい人物だったという。「命の雫」裁判ホームページより
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陸軍の内務班以来の日本の伝統。
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読者コメント
『自衛隊員が泣いている』(花伝社)に収録しています。ぜひお読みください。
遺族によるホームページ「命の雫」裁判も今となっては404Errorと表示される。ネット情報の鉛筆メディアばかりというのを痛感する。徹底的に残し後世に伝える覚悟(絶対削除しない)がないと世の中変わらないのではないのか。
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