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資生堂、工場で口紅製造の女性労働者22人を違法解雇、裁判に 「女性に優しいイメージ」の裏側

情報提供
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資生堂鎌倉工場で突然、クビを切られた原告たち。左が池田和代氏。右が露木美香氏。横浜市内の「全労連・全国一般労働組合神奈川地方本部」の事務所で撮影
 女性に優しい企業というイメージを売りにしたい資生堂が、馬脚を現している。同社鎌倉工場で口紅製造に従事していた女性労働者22人が09年4月、突然、派遣元の会社から解雇を宣告されるという事件が起きた。うち7人が労組に加盟し、10年6月、資生堂と派遣会社を相手取り、地位確認や賃金支払い等を求める裁判を横浜地裁に起こしている。天下りキャリア官僚の女性には大金を支払う一方で、現場の女性労働者はモノのように違法に切り捨てる資生堂。華やかなイメージをふりまく資生堂の裏側で、何が起きたのか。原告2人への取材に基づき、マスコミには報じられない実態を詳報する。(訴状全46ページは記事末尾からPDFダウンロード可)
Digest
  • 「労災申請したら次はない」資生堂
  • クリスマスパーティーで差別待遇
  • 政府公認ブラック企業との偽装請負を隠ぺい
  • 「クビ切りの下準備」契約期間変更と希望退職募集
  • 地位確認を求めて横浜地裁に提訴

「2013年度までに女性リーダー比率30%達成」(2009年度19%)」を目標に据え、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長だった岩田喜美枝氏を資生堂で「女性として初の副社長」に役員報酬6900万円を積んで就任させるなど、女性の登用に熱心な資生堂

岩田氏の天下り受け入れ後、資生堂は厚労省配下の東京労働局から、次世代育成支援対策推進法に基づき、2007年には次世代認定マーク「くるみん」も取得。背景を知らぬ情報弱者たち限定ながら、女性の労働環境に優しいイメージも手に入れた。

ところが、企業カルチャーの本質は、マネジメント層ではなく、工場現場など末端の「細部」に宿る。2009年4月、同社鎌倉工場で、既に「1年契約」を交わしていた派遣社員に対し、強引に2カ月契約に切り替えさせた挙句、約60人のうち22人を違法に指名解雇する事件が発生した。

解雇された社員らは、派遣元だった「アンフィニ」を相手に「地位確認、賃金仮払い」の仮処分請求を横浜地裁に申し立て、2009年12月、東京高裁で勝訴。黒幕である資生堂に対しても訴訟を起こすことに決め、2010年6月1日、資生堂とアンフィニを相手取り、横浜地裁に提訴。地位の確認、賃金や慰謝料の支払いを求め、争っている。

現場では何が起こっていたのか。詳細に取材した。

「労災申請したら次はない」資生堂

取材に応じたのは、原告の池田和代氏と露木美香氏。池田氏が資生堂鎌倉工場で働き始めたのは01年頃。派遣会社リライアンスから派遣された、事実上の派遣社員だった。しかし、形式上は製造業は04年2月までは労働者派遣が法律で禁じられていたため、資生堂との「請負契約」の形を取っていた。これを〝偽装請負〟という。

原告によると、鎌倉工場でつくる製品は大きく分けて「口紅」「化粧水」「クリーム」「チューブ類」の4つ。同工場の従業員は約1,000人。そのうち9割は女性。正社員は約300人で、年齢層は20代、30代が中心。残り約700人は偽装請負の派遣社員とパートで、こちらは40代以降の主婦層が多かったという。

池田氏は、「口紅」を担当した。仕事内容は、まずは、ビデオを見るなどの新人教育を受けた後、資生堂の社員や派遣の先輩の教育を受けながら、生産ラインで比較的簡単な作業を担当した。具体的には、口紅のラベル貼りや、ケース入れ、外箱入れ、段ボールに梱包などの作業だった。

その後、「検品」という作業を覚えた。これは口紅が資生堂の標準書通りに仕上がっているかを目視で確認する作業である。口紅一本につき、およそ6秒の間に、充填された口紅に気泡や傷がないか、ゴミが混ざっていないか、中味が垂れていないか、曲がっていないか、強度が十分か、など計10項目をチェックする。口紅の形状(砲弾、スリム、スティック)によっても、チェック項目が異なる。

「この検品作業は、少しでもモタモタすると、あっという間に口紅がたまってしまうため、口紅を両手に持って作業しました。検品は、スピードと正確さが要求されます。熟練の技術がなければできません」と池田氏は言う。

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資生堂鎌倉工場の口紅の生産ライン風景。裁判資料より

次に、「中味」という作業を覚える。これは、バケツ並みの大きなポットに入れた口紅の液体を、電子レンジで90℃~120℃に熱した後、かき混ぜて空気を抜き、恒温槽に保存し、そのポットを持って階段で2階まで上ってタンクに流し入れる作業である。

原告たちによると、この作業の最中、熱した口紅の液体が、手や足にこぼれてヤケドする者が後を絶たなかったが、資生堂からは、「労災があったら次の仕事はない」と言われていた。そのため、作業員たちはヤケドをしても我慢していたという。

なお、「検品」「中味」は、資生堂社員による「見極め」と呼ばれる審査に合格した者だけが作業が許された。そこからさらに経験を積むと、サブリーダー、ラインリーダーに昇格する。池田氏は01年からサブリーダーを担当し、02年からラインリーダーに出世した

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「希望退職の募集について(お知らせ)」

池田氏に対する解雇予告通知書

労組がアンフィニに送った「抗議文」。露木氏ほか1名の原告の雇い止めの経緯が記載されている

筆者の質問に対する資生堂の回答全文

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SIVAPROD2012/07/02 14:18

”企業カルチャーの本質は、マネジメント層ではなく、工場現場など末端の「細部」に宿る。” まさに。

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dekaino2012/07/01 22:23

労災隠しは問題だ

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orzie2012/07/01 03:26

《原告たちによると、この作業の最中、熱した口紅の液体が、手や足にこぼれてヤケドする者が後を絶たなかったが、資生堂からは、「労災があったら次の仕事はない」と言われていた。》

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原告勝訴的和解が成立2016/01/26 22:07会員
役人国家2012/07/02 14:09
JAL2012/07/02 14:04会員
蛇足です2012/07/02 13:10
応援会員X2012/07/01 10:57会員
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