2007年7月の沖縄旅行中のGさん。健康的な身体をしている。遺族提供。画像処理は佐藤による。
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大阪でコカコーラ配送をしていた27歳社員が過労自殺した2008年8月、東京ではキリンビバの配送子会社で働く当時入社4年目の23歳社員も過労で倒れていた。1カ月ほど入院して復職したが、1年8カ月後の10年4月、勤務中に営業所の入るビルから飛び降り過労自殺した。死亡前年の残業時間は遺族計算で1300時間を超え、さらに長時間拘束のエリアに転勤となって1カ月半後のことだった。この業界はいったいどうなっているのか。キリンビバレッジ配送過労自殺の遺族に話を聞くと、死亡する半年ほど前に脱毛が始まり、体重も5キロ減るなど心身ともに限界を超えていたが、「(辞めて)アルバイトとなると世間の目もある。もう少し頑張ってみる」などと話していたという。(訴状や労基署認定資料はPDFダウンロード可)
【Digest】
◇18歳で入社、丸の内や八重洲エリアを担当
◇時系列
◇最初から長時間労働 過労で倒れたことも
◇脱毛はじまる 4年目の秋
◇5年目の終わりに初転勤 品川東営業所へ
◇さらに忙しく睡眠4時間に 毎週末には発熱も
◇繁忙期に突入 2日分の仕事を1日で
◇上司に「辞めたい」と伝える 死亡4日前
◇「仕事がつらいんだ、ごめん」 自殺直前に遺書
◇資料ダウンロード
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コカコーラ配送会社で新入社員が過労自殺
トラックで自販機を巡回し清涼飲料を補充する仕事をされている方、取材させて下さい。勤務時間表や給与明細等の会社資料を見せていただける方も歓迎です。ご連絡は右記まで。(FAX050-3488-3175 info@mynewsjapan.com)
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清涼飲料大手「キリンビバレッジ」の配送子会社で働く男性社員、Gさん(当時23歳)は、入社6年目を迎えたばかりの2010年4月13日、いつもどおり午前6時過ぎに出勤し、6時半ごろ、ドリンクを積んだトラックで自販機の巡回に入った。
この日は火曜日。当時の天気予報によれば、東京都心は晴れ、最高気温は前日より6度高い20.0度、風速は毎秒5メートルの南南東の風で、日中はシャツ1枚で過ごせる陽気だったようだ。
いつもは1日に20台ほどの自販機を回るGさんだが、この日は午後3時ごろに14台目の自販機を回ったところで営業所に戻り、午後4時5分ごろ、制服のまま高さ25メートルの倉庫ビル屋上から飛び降り自殺した。胸部損傷による即死。勤務中の自殺だった。
姉の携帯に弟からメールが届いたのは、2分前の、午後4時3分だった。
仕事がつらいんだ
ごめん。
父ちゃんと母ちゃんの子に生まれて幸せだったよ。それに、●●の弟で本当に幸せだった。
最後の最後に迷惑をかけてごめん。●●●のこと力になってあげれなくてごめん。結婚式、楽しみにしてたんだけどな。予定通り必ずやってね。幸せになってね。父ちゃんと母ちゃんのこと、よろしく。
●●さんも心配してるから、あとはお願いします。
ありがとう。さよなら。
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息子の死亡を伝える会社から自宅への電話は、「即死です、お母さん」というだけで、「どうしてですか?事故ですか?」と母が聞いても、それ以上のことは教えてもらえなかった。
両親は、息子がトラック運転中に交通事故を起こし、人を巻込んだのではないか--と思ったという。過労状態のうえに、毎日4時間ほどしか寝ずにトラックを運転していることを知っていたからだ。
母は、蛇皮線を弾く真似をする息子の写真を見ながら、「楽器は弾かなかったが音感は良かった。絵もうまかった。仕事を間違えたよね」とつぶやいた。
◇時系列
2005年03月 | 高校卒業 |
2005年04月01日 | 東京キリンビバレッジサービス入社、中央営業所配属 |
2010年03月01日 | 品川東営業所に転勤 |
2010年04月13日 | 自殺により死亡。精神障害の発症時期は自殺直前。※東京労働局地方労災医員協議会精神部会等専門部会は、自殺直前に気分(感情)障害を発病したとの判断を下している。 |
2011年03月03日 | 品川労働基準監督署に労災申請 |
2011年10月05日 | 品川労働基準監督署が労災認定 |
2012年03月23日 | 損害賠償を求めて東京地裁に会社を提訴 |
◇18歳で入社、丸の内や八重洲エリアを担当
Gさんが働いていたのは、キリンビバレッジの完全子会社「東京キリンビバレッジサービス」(東京都千代田区神田和泉町)の品川東営業所。東京モノレールの大井競馬場前駅から徒歩5分ほどの倉庫ビル街にある(品川区勝島1丁目4番11号)。
おもな業務内容は、トラックで自販機を巡回してドリンクを補充したり、売上金の集金や、自販機脇に設置されたゴミ箱から空き缶の回収など。都市部であれば街中でよく見かける仕事だ。
巡回を終えて営業所に帰ってからは、売上げ本数や作業時刻などのデータを手持ちの機械から会社に送信し、翌日の準備でドリンクを積み込んだりする。
Gさんが東京キリンビバレッジサービスに入社したのは05年4月1日。このとき18歳、高校を卒業してすぐのことだ。東京都江東区千石にある中央営業所に配属になり、約5年間、東京駅を中心とする丸の内エリアや八重洲エリアを受け持った.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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Gさんが来ていた制服。佐藤撮影。 |
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Gさんの受け持ちエリアのマップ。東京駅を中心とするエリアが中央営業所時代に比べて、品川東営業所のエリアが広いことがわかる。遺族提供。 |
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東京キリンビバレッジサービス品川東営業所。2012年7月、佐藤撮影。 |
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労基署が認定したGさんの死亡前6カ月の始業・終業時刻。死亡直前は1日に2日分働いていたことがわかる。佐藤作成。 |
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(上)4月13日午前0時42分に友人に送ったメール。「まだ死にたくない。笑」「死んだらごめん!笑」とも書かれている。(中・下)Gさんが姉に送った遺書のメール。携帯電話はGさんが当時使用していたもの。佐藤撮影。 |
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