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元隊員が語る「自衛隊に入るのはやめたほうがいい」――証拠なしでも「ウソ発見器に出ている」と自白迫る陸自警務隊の人権蹂躙

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鉄帽(ヘルメット)の紛失事件が起きた陸上自衛隊富士駐屯地(静岡県御殿場市)。警務隊は、陸士長で今年3月に退職したAさんの犯行だとみて、取り調べを行なった。だが客観的な証拠はなく、Aさんは否認。それでも「ポリグラフに反応がある」などと執拗に自白を迫っているという。
 広島市の市街地で大規模な土砂崩れが起き、自衛隊の災害出動がなされているさなかの8月24日、陸上自衛隊の富士駐屯地(静岡県)で、実弾44トン使用、費用3億5000万円の派手な「富士総合火力演習」が行われた。だがその陰で、同駐屯地では、深刻な人権侵害が進行していた。元1等陸士のAさん(28歳、今年3月に退職)に対して、「部隊への嫌がらせのために同僚隊員のヘルメットを盗んだ」という疑いがかけられたのだ。Aさんは身に覚えがないと否認。指紋や目撃者といった客観証拠もなかった。それでも「ポリグラフ(ウソ発見器)に反応がある」「白状しないと(窃盗の時効の)7年間取り調べを続けることになる」などと脅しともとれることを言われ、退職から5カ月を経た今に至るまで、休日を拘束され、明に暗に自白を迫られ続けているという。「僕はやっていない。自衛隊はふざけている」とAさんは訴え、こう続ける。「自衛隊に入りたい人に言いたい。やめたほうがいいです」
Digest
  • いじめと暴力の毎日
  • 「洗濯室から鉄帽が消えた」
  • 身に覚えのない容疑で家宅捜索
  • 「お前がやったんだろう!」
  • 物証なしで自白を迫る
  • 「時効の7年間ずっと取り調べる」と暴言
  • 自衛隊に入るのはやめたほうがいい

いじめと暴力の毎日

陸上自衛隊富士駐屯地(静岡県駿東郡小山町)に所属する士長Aさん(28歳)は、入隊して丸4年になる今年3月末で、退職する決心をした。陸曹という上の階級に進む道もあった。しかしとてもそんな気にはならなかった。自衛隊生活は、いじめと暴力に満ちていた。もはや耐えられない、と自衛隊に見切りをつけたのだ。

営内と呼ばれる駐屯地の宿舎でAさんは寝泊まりしていた。いじめはこの営内を主な舞台として行われた。Aさんが振り返る。

「先輩の3曹がひどかったです。パチンコに負けた腹いせに殴ったり蹴ったり。けがをする寸前のところまでやられました。けがをすると発覚するので。週に一度はやられました」

Aさんのいた部隊はほかと比べても特にいじめがひどく、9人いた同期入隊の隊員のうち8人までが4年を待たずして辞めてしまった。最後に残ったAさんは我慢強かったわけだが、それでも4年が限界だった。自衛隊にいても将来は暗いと判断し、民間会社に就職する決心をしたのだ。

就職活動の結果、運良く埼玉県の会社に就職がきまった。3月末で自衛隊を退職し、入社は4月。Aさんは3月上旬から休暇をとり、引っ越し作業に取りかかった。埼玉に新しくアパートを借りた。群馬県の実家とアパート、富士駐屯地をオートバイで行き来しながら、新生活の準備を進めていた。

携帯電話に部隊からの一斉送信メールが届いたのは引越し作業のさなかにあった3月下旬。ちょうど実家にいたときのことだった。文面をみてAさんは驚いた。

〈B士長の鉄帽(ヘルメット)がなくなった。心当たりのあるものは連絡せよ〉

メールにはそういう意味のことが書いてあった。装備品が紛失したとなれば大問題になる。徹底的に捜索し、発見するか、もし見つからなければ原因を突き止めない限りことは収まらない。部隊に呼び戻されるのは必至だった。1週間後の4月1日に入社式を控えていた。引っ越しもまだ終わっていない。

「やっかいなことになった」

Aさんは暗い気持ちになった。「持ち主のB士長が間違ってどこかに送ったのではないか」とも思った。B士長にはそそっかしいところがあったからだ。Aさんと同様にB士長も3月末で退職を予定していた。引っ越し荷物を実家などに送る際、間違って鉄帽も入れてしまったというのもあながちあり得ない話ではなかった。いや、そんな単純ミスであってほしかった。

このときAさんは、まさか自分が「盗んだ」と疑われるとは夢にも思っていなかった。

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富士駐屯地で紛失した鉄帽。通称としてテッパチとも呼ばれる。住友ベークライトや東レが製造。汗や汚れで悪臭がつくため、隊員はときどき洗剤入りの水に浸け置きして洗浄している。鉄帽の紛失は、浸け置きしていた場所から無くなったとされる(防衛省HPより)。

「洗濯室から鉄帽が消えた」

ほどなくして同僚や先輩を通じて、事件の噂が聞こえてきた

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8月24日、富士駐屯地演習場で行なわれた富士総合火力演習。実弾44トン、3億5000万円もの経費がかかったとされる。派手な大演習の影で、富士駐屯地では暴力といじめが日常的にあり、Aさんの同期隊員はほとんど辞めてしまったという(防衛省HPより)。

富士山麓にある陸自富士駐屯地と今年の「富士総合火力演習」のポスター。鉄帽紛失事件で、Aさんは退職後の新居である埼玉県からバイクで3時間かかる富士駐屯地まで何度も呼び出された。

無実を訴えても、ほとんど犯人ときめつけた取り調べは執拗に続いた。朝4時に埼玉の家を出て富士駐屯地に向かい、5時間以上拘束された後に、疲労困憊して帰宅の徒につくAさん(7月27日夜7時半、東京・新宿駅)。

自衛隊内のいじめは絶えることがない。Aさんも先輩から殴る蹴るの暴力を「週に一度は受けた」という。集団的自衛権容認の憲法解釈という乱暴なことが安倍政権下で閣議決定され、自衛隊は米軍の下請け組織となりつつある。それとともにモラルの崩壊も進んでいる。インターネットで流出した陸上自衛隊のものと思われる隊員虐待写真。

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読者コメント

 2015/08/20 23:14
吾輩は無登録である2015/08/20 10:28
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