マイクロソフト「MSN」が偽装請負 “名ばかり個人事業主”をシフト管理、Skypeで自宅に指揮命令し不当に人件費削減――ライターが内部告発
内部告発したライターのスマートフォンに画面。在宅作業中のライターに向けて、Skypeのチャット機能で直接の指示が送られている |
- Digest
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- 外部ライターに発注されていた巨大ポータルサイトの更新
- マイクロソフトSkypeでなされる指揮命令
- 勤務時間をシフトで管理される「請負」ライター
- 「時給約1000円」、実態は労働者でも時間外割増手当・社会保険加入・有給休暇なし
- 対外的にはコンプライアンス遵守をアピール
外部ライターに発注されていた巨大ポータルサイトの更新
世界最大のコンピューターソフトウェア会社、マイクロソフトが運営するポータルサイト「MSN」。日本マイクロソフト(樋口泰行社長、本社東京都港区)の媒体資料(2015年4~6月期版)によれば、「MSNホーム」のページビュー(PV)は3億6,000万、ユニークアクセス(UU)は2,160万。国内の大手新聞社や海外通信社などから配信される記事が読める主力コンテンツ「MSNニュース」はPV1億4,000万、UU2,076万(以上、いずれも2014年10月の数値)だという。月間3億PV以上を稼ぎ出すサイトは、日本には数えるほどしかない。
MSNはかつて「YAHOO!」のような総合的なポータルサイトを志向し、占いや求人情報、結婚情報サービスなどのページを設ける一方、ニュースコンテンツは2007年10月から産経新聞と提携した「MSN産経ニュース」で産経記事を中心に掲載してきた。だが、マイクロソフトがMSNの世界的刷新を決定したのに伴い、日本でも2014年10月1日に全面リニューアルを実施。産経との提携を解消し、記事配信元を大幅に拡大した一方、ニュース以外のコンテンツを整理・縮小した。
いまやコンテンツの大半を他社媒体のニュースに依存する2015年3月現在のMSNは、編集業務を東京都渋谷区に本社を置く株式会社インフォバーン(小林弘人代表取締役社長)に外注している。同社は資生堂、トヨタ、花王など大手企業のサイト構築を手掛けるWEBコンテンツ制作&マーケティング会社。1998年には月刊誌「サイゾー」を創刊(その後2007年12月、株式会社サイゾーに事業譲渡)したほか、系列会社メディアジーンが、「ギズモード」「ライフハッカー[日本版]」などのウェブメディアを運営するメディア企業でもある。2005年には小林社長が、内閣府・総務省のコンテンツ政策委員に就任した。
だが、MSNの更新を最前線で担っているのが、マイクロソフトでもなければインフォバーンでもない、外部のライターたちであることは、一般にはほとんど知られていない。インフォバーンと請負契約を結び、現在もMSNの更新作業に従事しているフリーライターの曽我肇さん(仮名)は、次のように証言する。
「インフォバーン社ではMSNの更新作業のために、私のような外部ライターおよそ30人と業務委託契約を結び、それぞれの自宅でサイトを更新させています。私たちが契約している相手はインフォバーンだけで、マイクロソフトと各ライターの間には、表向き、一切の雇用関係もなければ契約関係もない、という体裁です。しかし実際の更新作業では、Skypeやメールを介して、インフォバーンだけでなく、マイクロソフトの社員までが、とても細かく指示を出してくるのです」
インフォバーンと曽我さんら外部ライターとの関係が、契約書どおり業務委託/請負の関係であるならば、労務提供者(ライター)の業務遂行(サイト更新)にどれほどの時間がかかろうと、発注者は事前に定めた額の報酬を払えばよく、直接雇用の労働者や派遣労働者のような残業手当は発生しない。
また、労務提供者の社会保険料を負担したり、有給休暇を与える必要もない。だが、その代わり、仕事の進め方は、個人事業主であるライターに「丸投げ」する必要がある。細かい指示を出すことはできず、当然ながら、始業時間や終業時間を定めることもしてはならない。
注文者側が直接に指揮・命令したいならば、「業務委託」ではなく直接雇用か、さもなければ派遣を利用するかしかない。表向きの契約が委託/請負でありながら、実際は指揮・命令していたということになれば、それは労働基準法や職業安定法、労働者派遣法などに違反する「偽装請負」という犯罪である。
【左=画像1】 【右上=画像2】 【右下=画像3】いずれもインフォバーンもしくはマイクロソフトの社員によるSkypeでの指示 |
マイクロソフトSkypeでなされる指揮命令
曽我さんによれば、MSNの外部ライターの仕事であるサイト更新は、マイクロソフトが独自開発した、MSN更新専用のツール(RSSリーダーに近いものだという)を用いて、以下の手順で、行われることになっている。これは、いわば建前のようなものだ。
① ツールに流れてくる各媒体の膨大な記事の中から、MSNに掲載すべき記事をピックアップする。
② 選んだ記事の見出し(タイトル)を、よりPVが見込めるものに改編する(記事本文に手を入れることはない)。
③ MSNにアップロードする。
これらの行程が、完全にライターに任されているかといえば、全くそんなことはないのが実態だ。記事の掲載順位や見出しはサイトのPV数に直結し、MSNの広告媒体としての価値まで左右するだけに、インフォバーン、そしてマイクロソフトの社員が、リアルタイムで介入してくるのである。
より具体的に、MSNの更新作業がどのように行われているのかを説明するため、蘇我さんが、いままさにサイトの更新作業が進行中の、自分のスマートフォン画面を見せてくれた
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【画像4】(上)ライターに配布されるMSN更新作業シフト表の一部。(下)上図のライター別の勤務時間帯を図表化した
【画像5】2015年1月にライターの一人が誤って一斉送信してしまったインフォバーン宛請求書
日本マイクロソフトの菊地麻生子執行役員。元検事の弁護士で、公正取引委員会の主任審査専門官を務めた経歴も持つ
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指揮命令は重要なとこだからなぁ。普通なら気を遣うとこなんだけどな。事実だとしたらぬるいなマイクロソフト。
マイクロソフトが偽装請負していたわけではなく、インフォバーンという会社がしていたようだ。とはいえ、マイクロソフトにも監督責任あるし。不正があった場合、親発注元に損害請求できるとかしないといけないな。
すき家も当初バイトではなく請負契約と言っていたね。
クソみたいな偽装請負をするような企業がのさばり、労基署が動かないのが中世ジャップランドならば、このような企業や経営者はテロられるべきである。法が労働者を守らないならば、労働者も法を守る必要はない。
なにげにインフォバーンも黒いね。こういうのを見るとナタリーがweb界のスタジオジブリに思えてきた。
“編集業務を東京都渋谷区に本社を置く株式会社インフォバーン(小林弘人代表取締役社長)に外注”
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読者コメント
偽装請負は詐欺にもならないし、人件費の安い人材に大変な業務を行わせて病人にしても強要とはならないのが現状ではないでしょうか。困った時に労働行政は助けてくれるんですかね~。新卒を騙して偽装請負するようなやり方も15年以上前からなくならないのはなぜでしょうか?それから、労働行政側の問題点もたくさん記事にしてほしい。
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