廃盤にされたShimaのCD『ザ・グッド・ライフ~ジャズ・スタンダード・フロム・ニューヨーク』
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東京地裁は今年2月、スカパーで有名なスペースシャワーネットワーク社(社長は伊藤忠出身の清水英明氏)などが新人ジャズシンガー「Shima」のCDを廃盤にしたあと、著作権を無視して音楽配信ビジネスなどを展開していた、として約50万円の支払いを命じる判決を下した。Shimaは2011年2月に初のCDを発表したが、約1月後に突如として廃盤に。理由は「契約違反行為があった」「苦情があったから」とされたが、それを裏付ける証拠は裁判所に提出されていない。一方、スペース社などは、廃盤後もCDをレンタルに出したり、国内外の100を超える配信会社に配信して違法に利益を得ていた疑惑があり、裁判所は違法ダウンロード数を207回と認定したが、デビット・マンなど著名なミュージシャンが参加したこのCDの曲が世界中で207回しかダウンロードされていないのはいかにも不自然だ。音楽著作権が盗まれる事件は続発しており、そのあり方が問われている。廃盤から裁判に至るShimaの日々をレポートした。(判決文はPDFダウンロード可)
【Digest】
◇他人の著作権を無断で
◇日本レコード協会の元会長に対する刑事告訴
◇ジャズ発祥の地
◇「廃盤にすることが唯一の手段」
◇成城署に刑事告訴
◇灰色の日々
ひとりの女性ジャズシンガーが法廷に立っている。芸名はShima。優れた歌唱力を持ちながら、不条理の渦に翻弄され、ステージから消えた。
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東京六本木にあるイースト六本木ビルの玄関。スペース社の本部が入っている。 |
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CDの廃盤とは、音源データを削除し、店頭にあるCDを全て回収または破棄し、在庫品を一掃することである。CDが発売された直後に、一方的にCD廃盤を宣告されたら、CDの売り上げを糧に細々と生きるアーティストは、ただ呆然とするしかない。
2011年4月、ある1枚のCDが密かに廃盤に処された。ひと月まえに発売されたばかりのCDで、新人歌手・Shima(シマ)のデビュー作だった。
『ザ・グッド・ライフ~ジャズ・スタンダード・フロム・ニューヨーク』と題するそのCDには12曲が収められ、音楽関係者からも高い評価を得ていた。
『毎日新聞』(2011年2月17日付)は、次のようにShimaのCDを批評した。新聞の文化欄がジャズの歌手を紹介することはあまりない。
Shimaの特徴は、正確な発音で丁寧に歌詞の内容を追いながら、日本人には少ないブルージーでポップな感情をもっているところ。選曲も「スタンド・バイ・ミー」「ザ・ローズ」といったポピュラーをジャズとして歌いこなすかと思えば、「スピーク・ロウ」「マイ・ロマンス」などスタンダードを鮮明なスタイルで聴かせる。「コルコバード」などボサノバの哀感も特徴的で、話題を呼びそう。
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また、NHKのジャズ講座講師であり、東京ジャズフェスティバル初代編集長であるジャズ評論家・高木信哉氏は、『Jazz RECORD REVIEW』で、次のようにShimaのCDを評価している。
期待の新人、Shimaのデビュー作。彼女は、幼少期を米国で過ごし、本場のライブに触れてきた。その感性と実力は、本物だ。伸びのある澄み切った声を持ち、丁寧にリリカルに歌う。いろいろなジャンルの曲をうまく自分のものにしている。確かな歌唱力があり、大事な音がしっかりと聞かせられるところが凄い。心技体三拍子揃った逸材と思う。
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◇他人の著作権を無断で
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毎日新聞(2011年2月17日付け)に掲載されたのShimaのCDの紹介。 |
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廃盤にされたCDは、小針俊郎氏が代表(当時)を務めるタッズ・インターナショナル社(以下、タッズ社)から発売(レーベル名は「24ジャズジャパン」)され、スペースシャワーネットワーク社(以下、スペース社)によって販売ルートに乗せられた。
このうちタッズ社の小針氏は、1948年生まれのジャズ・プロデューサーである。現在、FM放送「MUSIC BIRD」の「Jazz In Applause」という番組で司会を務める。FM東京に在職中は「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」などのジャズ番組を制作した。
また、販売を請け負ったスペース社は、同社のウェブサイトによると、「日本のロック・ポップスを中心に、邦楽・洋楽・メジャー・インディーズを問わず、様々なジャンルを網羅し、全国のスカパー!J:COM、ひかりTV、ケーブルテレビで24時間放送する日本最大の音楽チャンネル」を運営する会社である。このうち「スカパー!」の知名度は極めて高い。
最近では、ベッキーの不倫事件で話題となったゲスキワ(ゲスの極み乙女)のプロモーターとしても知られる。アーティストやレーベルと契約し、音楽配信(レコチョク)やCDの製造販売を行う、日本最大級の音楽企業である。
同社役員には、伊藤忠商事の関係者が名を連ねている。
■スペース社の役員構成
伊藤忠商事が37%の株式を所有する、同社の関係会社(住生活・環境カンパニー分野)でもある。
いわば、ShimaのデビューCDは、「24JazzJapan」というレーベルから、小針俊郎氏のお墨付きで世に出て、日本を代表するメディア企業の販売ルートに乗せられたのである。
ところが、スペース社と小針氏は、発売から1カ月弱にも満たない時期に、Shimaの了承も得ずに、CDを廃盤に処したのである。
この事件は、後に裁判になりShimaが勝訴するが、東京地裁の判決文の中でも小針氏らの廃盤行為が、次のように認定されている。.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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著作権が盗まれていたキャンデーの「春一番」。穂口雄右氏の作詞作曲。 |
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ニューヨークの町。出典:ウィキペディア |
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配信は国内外の100社以上に対して行われていたことを示す小針氏の手紙の一部 |
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