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私大病院勤務医「最初に聞いたときは、えっ?と思った」待遇内容――小児科医の仕事は「医療というより、むしろ親とのコミュニケーションです」

情報提供
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「医局では『それが医者なのだ』という、体育会系かつ奉仕の空気が流れています」
 長時間の激務なのに低賃金、それでも高度医療の提供と人材育成の使命をまっとうするため日々、身を粉にして研鑽を積む、世俗を捨てた聖職者のような集団。一方では、医師1人の執刀で4年で18人が亡くなっても誰も止められない群馬大学医学部のようなブラックボックスの世界、そして医局を舞台にした小説『白い巨塔』が描く旧態依然とした政治的駆け引きが横行する、硬直化した組織。そんな、天使と悪魔の混在したような大学病院の医局は、働く場としてどのような功罪があるのか。今回は、私大附属病院の小児科医局に所属する医師に、カツカツの懐事情や小児科医療の未来等について、じっくり聞いた。
Digest
  • 「労使交渉をしません」誓約書
  • 32時間拘束当直明け「何言ってるのかわからなくなる」
  • 30代半ば600~700万、派遣先病院で2倍、戻ると半減
  • 15~20年目が開業適齢期
  • 「けっこう、すっからかん」な理由
  • 大学病院の医局に所属するメリット
  • 2校が「寄付金2千万円だしたら合格」
  • 大学の先輩後輩で診療科も決まる傾向
  • 大学病院でも「7割は風邪」「必要悪として薬出す」小児科
  • 正確なビッグデータで医療現場を変える矢作尚久医師の取り組み
  • 無駄な検査、無駄な薬を減らす中野智紀医師の取り組み
  • 病名診断、治療方法決定のAI化
  • 10年で女性医師は倍増
  • 同期は2人亡くなった
  • 明確な治療目的を持たない患者、生活保護を食い物にする病院
  • 看護師との役割分担、開業医との役割分担

「労使交渉をしません」誓約書

大学病院で働き始めるとき、文書にサインさせられました。「労使交渉をしません」「団体交渉権を行使しない」といったことが書いてある、誓約書のようなものです。(※若手医師は病院組織において管理監督者の指揮を受けて働く「労働者」であるため本来は違法だが、キャリア官僚と同様、暗黙の了解で、慣習的に、医師は労組に入らない)

実際の待遇を聞いて、わかりました。自分は新研修医制度の世代なので、一応、それなりの給料は出ましたが、医師資格取得後の2年間(研修医時代)は、月20万円+当直手当2万5千円(5回分)の計23万円ほどが月給で、ボーナスはありません。一般企業の高卒新入社員並みです。

密度がずっと濃いわけではないですが、拘束時間が長いのが特徴。研修医時代は、朝6時に出勤して入院患者の採血をするところから始まり、当直があると翌日午後まで30時間以上の連続勤務です。時給を計算したら800円台でした。

研修医が終わっても、長時間拘束と低い給料は、ずっと続くことがわかりました。最初に聞いたときは、「えっ?」と思いました。

この私大病院は、本院含め数個の附属病院を持ち、それ以外に医局が医師人事を事実上支配している外部病院の小児科がたくさんある。

外部病院までが医局人事に組み込まれているのは一見、不思議であるが、慢性的な医師不足のなか、優秀な医師が欲しい市中病院側が、医師を教育・育成する使命を持つ大学病院側から、定期的に医師を派遣(出向ではないため身分も給与体系も派遣先次第で変わる)してもらう仕組みは、両者に都合がよい。大学病院内のポストは限られており、大学病院側が、外部病院の診療部長や院長といったポストを植民地的に持っているメリットは大きい。

大学病院から見た外部系列病院は、本体の人事ピラミッド(上に行くほどポストが減る)を三角形に保つという点で、大企業にとっての子会社や、行政機関にとっての外郭団体に似てはいるが、病院の場合は人の非公式なつながりだけで、カネや法規制による支配がない点は異なる。

 また、「ある大学病院の小児科とある外部病院の小児科」といったように、医局人事は診療科単位での関係であり、外部病院は、診療科ごとに派遣元の大学病院が異なるケースが普通にある。いずれも、契約に基づくものではなく、慣習に基づく日本独自の方式だ。

32時間拘束当直明け「何言ってるのかわからなくなる」

大学病院の診療・研究・教育を担う激務と、教員という立場(教員といっても、普通に患者さんへの診療をする医師です)による薄給は、よく言われている通り、事実です。自分は、外部病院も含め、いくつかの異動を経て、現在は大学付属病院に戻って勤務していますが、30代半ばでも、大学病院から貰っている給料は、当直手当を含めて年間600万円強。(※これは中堅~大手メーカー並み)

激務になるのは、当直勤務があるのと(月に6回入るケースも)、収入を補うためもあって夜間と土日にバイトを入れて稼ぐ必要があるためです。

現在、小児科は、外来が医師4人で1日約50名の患者を診察。病棟のほうは医師5人で入院患者20名弱を診ています。

日々のタイムスケジュールは、まず診療開始30分前までに、小児科医が集まってカンファ。外来担当の場合、午前9時~17時までが外来患者さんの対応。17時までがデューティー(定時)ですが、病棟担当の医師が困っていれば22時、場合により夜間呼び出しまでヘルプすることもあります。

当直が入っている日は、そのまま翌日の17時までずっと勤務になるため、32時間連続拘束となります。最近は、研修医の労働基準が厳格化されて9時~17時勤務となっているため、現場が忙しくなければ、翌日の午後は帰宅が奨励されています。しかし実際には、午後から基礎研究や勉強会に参加することが多いため、いずれにせよ、当直明けの日が午後から自由になることはほとんどありません。

平日は、1回の夜間当直で、患者さんが多くて10人、少ないと3~4人が来るくらい。看護師が電話対応する段階で、軽症者については翌日の受診を促したり、医師会が運営する夜間小児初期救急診療所を紹介するようにしています。

夜中の1時や3時にも来ます。育児不安から「子供が泣き止まない」程度の理由でも来ます。子どもの医療費は都心部では通常の3割負担でさえなくて、自治体(区や市)が全額負担するのが普通になってきているため、本人(親)の医療費負担がゼロですから、24時間、気軽に利用いただいております。(※子供の医療費ゼロ政策は、『子どもの貧困』の社会問題化によって親が子どもの医療費を払えず受診させない事態から子どもを守るために進められている)

勤務先の病院は「二次救急」に指定されており、夜間は、内科・外科・小児科の3つが診療。小児科は、けいれん・脱水・酸素不足がない限り、翌日の診療で良いのですが、お医者さんは応召義務(来院した患者は全員診る義務が医師法で定められている)があり、親が、不安や、知識がなくて受診していることもわかっているので、多くの医師が優しく丁寧に対応します。

当直の待機中は、仮眠をとったり勉強したり論文を書いたりと、場所は拘束されていますが自由に使える時間が多い。ただ、患者さんが集中すると疲労もたまります。

当直明けが休みになるわけではないのがポイントで、当直明けの午後は、診察していると、自分が何言ってるのかわからなくなる日もあります。

基本は週休2日ですが、日曜日も月に1回、救急対応の当番に入り、朝~翌日17時まで32時間拘束勤務。夜中の2時に「熱が出た」程度で患者さんが来ると、さすがにイライラすることがあります。それでも当直手当は1回5千円ですから、ほぼボランティア活動です。土日に学会や勉強会に出席したりもするので、本当に休める日は、月1だけになることもあります。

30代半ば600~700万、派遣先病院で2倍、戻ると半減

自分が所属する小児科医局は、全体で約150人。医局内の出世の階段は、

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インタビュイーが所属する医局の人事ピラミッド

ある年の確定申告書より

収入の内訳。バイト収入は15種類・場所は9つの自治体にまたがる

国立「成育医療研究センター」が進める「問診システム」の画面(番組『Crossroad』より)

ある月の夜間・休日のスケジュール

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 2016/08/23 00:27
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