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新聞「ABC部数」はこうして改ざんされる――実行者が手口を証言、本社販売局の指示でデュプロ(株)が偽の領収書を発行、入金一覧表なども偽造し数字を整合させる

情報提供
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『ABCレポート』の最新号。「新聞発行社レポート」ともいう。新聞のABC部数が記されている。
 新聞の発行部数を公式に示す「ABC部数」。ABC協会は2年に1度、「公査」を実施し、販売店の現場を調査している。ところがこの公査の直前に、新聞の購読者数を証拠づけるデジタル書類を改ざんしていることが分かった。この問題を告発したのは、毎日新聞の元販売店主・板見英樹氏。板見氏は、現役販売店主だった2016年9月、改ざんの「実行者」である折込チラシ丁合機メーカー・デュプロ(株)社員から一部始終を聞き出した。その録音によると、手口は、新聞拡販の対象者として販売店が保存している「過去の新聞購読者データ」を、現在の読者に改ざんして領収書を発行、そのバーコードを読み込み、入金一覧表なども自動的に改ざんすることで全体を整合させる、というもの。改ざん現場には、毎日新聞の販売局員が立ち会い、指示を出していたという。(※文尾で、全音声9分21秒を公開)
Digest
  • ニセの領収書を大量裁断
  • デュプロの社員を呼び出す
  • 「過去読を起こす」手口
  • 改ざん作業の日は有給の形式
  • 改ざんデータは「事前に用意しておくものでもない」
  • 販売局社員が立ち合いの下で作業
  • 新聞業界とデュプロの深い関係
  • デュプロは「回答しない」
  • 取材は封書以外で受け付けない毎日代表室
  • 毎日新聞代表室の回答
  • ABC協会の見解
  • 新聞ジャーナリズムの限界

改ざんの噂は関係者の間では周知となっていたが、その手口の全容を、改ざん実行者自身が詳しく語ったものが録音されたのは初めて。それは、販売店のコンピュータに保存してある過去の新聞購読者のデータを、現在の購読者であるかのように改ざんして、購読者数を嵩あげするというもので、予想外に単純な手口だった。

新聞業界では、印刷だけされて配達されないまま廃棄される「押し紙」は存在しない、という偽りの前提で事業が展開されているため、「ABC公査」の際には、帳簿上の購読者数を改ざんして増やすことで「押し紙」の存在を隠蔽する必要に迫られる。その偽りの構図が、改めて浮彫りとなった。以下、不正手口の全容をリポートする。

まず、その貴重な録音テープ全体を紹介する前に、ABC部数とは何かを再確認しておこう。日本ABC協会は、ABC部数を次のように定義している。

新聞や雑誌の広告料金は、部数によって決まります。ABC協会は、第三者として、部数を監査(公査)し認定しています。この認定された部数がABC部数です。

対して、公称部数(自称部数)とは、ABC協会に参加していない発行社が自社発表しているもので、数倍から10倍以上の部数を自称している場合があります。

 合理的な広告活動を行うため、発行社の自称ではない、第三者が確認した信頼出来るデータであるABC部数をご利用ください。

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「押し紙」は名目上は販売されたことになっている。そのためABC公査の際には、帳簿類を改ざんして表向きの販売部数との整合をつける必要がある。(この写真と本文は直接関係しない)
「合理的な広告活動を行うため、発行社の自称ではない、第三者が確認した信頼出来るデータであるABC部数をご利用ください」と述べているが、購読者数の偽装を第三者として見破ることができていないなら、ABC部数は信頼出来ないデータだ、ということになる。

こうした偽装工作をする背景には、部数を実態より多く公表し、過大な紙面広告収入と折込チラシ広告収入を得たいという新聞業界全体の事情があり、偽りの部数によって広告収入を得る行為は、広告主を騙す詐欺行為と言ってよい。

ニセの領収書を大量裁断

兵庫県西宮市は、春と夏に高校野球の全国大会が開催される阪神甲子園球場の地元である。大阪中心部から電車で20分。人口49万人の中核都市だ。

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毎日新聞の「押し紙」(ビニール包装された束)と水増しされた折込広告(新聞梱包された束)

新聞購読者数の嵩あげの手口を実行者から聞き出し、それを録音したのは、毎日新聞の元店主・板見英樹氏である。その板見氏が、

「毎日新聞販売店のコンピュータを管理しているデュプロ(株)という会社の担当者が、全部喋ったのを、録音しました」

と、筆者にその手口を告発した。筆者は事実関係を確かめるため、10月下旬、新幹線で西宮市へと向かった。

録音の発端となったのは、2016年9月に神戸市東灘区にある毎日新聞の2つの新聞販売店――東灘中央販売所と住吉販売所――に「ABC公査」が入ったことだった。

公査と言えば、まるで第三者であるABC協会が査察のようなものを現場に行うと思われがちだが、実際には完全に馴れ合いで、ABC公査が販売店に入る際には、新聞本社には当然のように事前に情報が伝わっており、新聞社の販売局の人間が、事前に公査先となる販売店に赴き、様々な偽装工作を行うことが可能となっている。

公査日の前日の夕方、「デュプロ」という会社の毛塚という社員が、板見氏(当時は現役の販売店主として鳴尾販売所など2店を経営)の販売店に姿を現した。

デュプロ毛塚氏は板見氏に、領収書を高速で自動裁断(切り取り線を入れること)できる機械『卓上シートバースターV-417』を貸してほしい、と告げたという。新聞の扱い部数が500部にも満たない小さな販売店ではこうした機械を備えていないが、板見氏の店は扱い部数が多いこともあって、同機を備えていたからだ。

「なんでわざわざ借りにきたのかと思って、問うてみますと、神戸市東灘区の新聞販売店にABC公査が入る予定があり、それに先だって、データを改ざんすることが分かったのです。大量のニセ領収書を裁断するために、高速の裁断機が必要だったわけです」

ABC公査が入るのは、板見氏が新聞販売の仕事をはじめたころに勤務していた東灘中央販売所と、その隣の住吉販売所だった。そんな馴染みもあって、板見氏は要請に応じた。デュプロ毛塚氏は、車に機械を積み込み、店舗を後にした。

ABC公査が入る前には、ABC協会から新聞社へ連絡が入る。その際に、公査の対象となる販売店が指定され、それを受け、新聞社は指定を受けた販売店にABC公査の日時を告げる。

ほとんどの販売店には印刷だけして配達せず廃棄される「押し紙」があり、「押し紙」を含めた部数をABC協会に報告しているので、ABC公査の際には、「押し紙」を含めた総部数と整合するよう、ニセの領収書を発行したり、(コンピュータ上の)入金台帳などの関連書面を改ざんする必要に迫られる。

毛塚氏が領収書の高速裁断機を借りにきたのも、改ざん作業によって多量のニセ領収書を裁断する必要があったからだった。

デュプロの社員を呼び出す

どのくらい、偽装部数(押し紙)はあったのか。たとえば板見氏は2017年10月まで毎日新聞販売店を経営していたが、板見氏が経営する2店のうち、2010年11月時点における鳴尾販売所の部数内訳は、次の通りだった。

 搬入部数:約2300部

配達部数: 約980部

差異は1320部。かりにこの時期に鳴尾販売所にABC公査が入っていたとすれば、読者数を2300人に改ざんするために、1320枚のニセ領収書を発行し、そのニセ領収書と整合性を持たせるために、入金台帳などを改ざんしなければならなかった。それまでは、公査を受けたことはなかった。

板見氏は、膨大な量の「押し紙」を抱えていたため、自分がデータ改ざんに加担させられることが、心配になった。毎日新聞社に対して「押し紙」を減らすように繰り返し要請していたので、その腹いせに、事前通告のない抜き打ち的なABC公査の対象にされるのではないか。実際には、新聞社がABC公査の対象販売店を決めることはないが、「押し紙」問題で販売局との関係が悪くなっている状況の下では、様々な疑念や想定が、頭をよぎったのだった。

板見氏は、事前に改ざんの手口をデュプロの社員から聞き出したい、と考えた。あまりにも悪質な方法で、刑法の抵触するようであれば、自分の身の安全のためにも協力するわけにいかない、と思ったからだ。

そこで東灘中央販売所と住吉販売所にABC公査が入った日の夕方、改ざん作業を行ったひとりであるデュプロの坂田という担当者を、自店に呼んだ。デュプロとしても、板見氏から裁断機を借りた手前、要請に応じざるを得なかったのだろう。

デュプロ坂田氏は、板見氏の質問に応じて、購読者数を改ざんする手口の全容を語った。板見氏は念のため録音しておいた。この録音記録をここでは「坂田テープ」と命名しておこう。坂田テープからは、毎日新聞に限らず、改ざん作業を行った対象の新聞社として、朝日新聞、神戸新聞、産経新聞の社名もあがった。新聞社本体の販売局から、主任や副部長といった担当者が販売店の現場に赴き、改ざんを指示するという、衝撃的な事実も明らかになった。

「過去読を起こす」手口

坂田テープによると、既に述べたように2016年9月にABC公査の対象になったのは、毎日新聞の場合、神戸市東灘区にある2店の販売店だ。東灘中央販売所(石田所長)と住吉販売所(吉岡所長)である。坂田氏が担当したのは、住吉販売所のほうだった。東灘中央販売所は、デュプロの別の社員が担当した。

一方、これも坂田テープによるが、毎日新聞社からは住吉販売所へ販売局の川口デスクが赴き、データ改ざんの指示を出した。東灘中央販売所へは山本主任担当が赴いて、やはりデータ改ざんの指示を出したとされる。

改ざん方法について板見氏が、次のように問うた。

「あれは数字をやるわけ、あれはどうやるんですか?」(板見)

これに対して坂田氏は、

「過去読を起こす」(坂田)

と、答えている。「過去読」とは、かつて毎日新聞を購読していた読者を意味する。これに対していま現在の読者は、「現読」という。

坂田テープが言う「過去読を起こす」とは、過去に毎日新聞を購読していた読者を、いま現在の購読者として改ざんするという意味である。新聞販売店のコンピュータ上には、発証台帳(一種の購読者一覧)などがあり、そこには「現読」はいうまでもなく、過去の読者の名前や住所などが保存されている。板見氏が言う。

「過去読は赤色で表示されます。死亡した人や転居した人は、抹消しますが、それ以外は、セールスの対象になるので保存します。今、他紙を取っていても、再勧誘の対象になるから保存しておくのです」

坂田テープによると、まず改ざんの第一歩として、「過去読」を「現読」に変更するのだという。このあたりの方法について、板見氏は、次のように坂田氏に再確認している。

「まあいえば、現在(新聞が)入っていないお客さんでも、入っているようにして、それでデータを全部作ってしまう?」(坂見)

「うん」(坂田)

「たとえばうちのところで(実配部数)1700部だったとする。(板見氏が別に経営している)南(甲子園)店と合わせても2300部だとすると。そうすると両方のコンピューター上で、本来全然入っていない、いわば架空のお客さんが入っているような形にデータを作り上げる?」(板見)

「そう」(坂田)

「一回証券も全部発証してしまう?」(板見)

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毎日新聞の領収書例。領収書は簡単に発行できる。(写真は直接、本文と関係するものではない)

証券を発証するとは、領収書をプリントアウトするという意味である。「過去読」を「現読」に改ざんした後、実際に領収書を発行するのだという。このプロセスについて板見氏は念を押したのである。これに対して坂田氏は、

「します」と答えた。

次のyoutubeは、冒頭2分の録音である。全貌は末尾をご覧いただきたい。

既に述べたように、東灘中央販売所と住吉販売所にABC公査が入る前日に、デュプロの毛塚氏が、板見氏のもとを訪れ、裁断機を借りて帰った。この事実は、坂田氏が認めたように「過去読」の領収書をプリントアウトして、裁断機にかけるという説明と整合する。

ちなみにプリントアウトするニセ領収書の発行対象期間については、板見氏が質問する前に、坂田氏がみずから説明している。

「お店によってちがうんですけど、まあ3カ月ぐらいを。追加した(過去読)分だけでも領収書を出します」(坂田)

「ほーおー」(板見)

板見氏の驚きの声が録音されている。あまりにも露骨な不正行為に面食らっているようだ。

改ざん作業の日は有給の形式

さらに坂田テープは、驚くべき事実に言及する。デュプロがこうした改ざん作業をしているのは、毎日新聞の販売店だけではなく、朝日新聞、神戸新聞産経新聞の販売店でもやっているというのだ。次の会話である。

「9月の1週に朝日さん、2週に神戸さん、3週に毎日さん、4週に産経さん、そんなふうに割り当てて。読売さんは

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デュプロの製品。折込広告丁合機の場合、大半の新聞販売店がデュプロ製品を使っている。出典:デュプロのウエブサイト

新聞販売店に備えてある順路帳。新聞の配達先が地図上に記されている。

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バネ足2019/12/25 22:05
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