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滋賀医科大病院の小線源治療をめぐる不正隠蔽事件 患者らが「治療妨害禁止」を求め仮処分申し立て、病院側は1千人のカルテ不正閲覧

情報提供
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小線源治療の手術中の岡本圭生医師。1週間に3件の手術をおこなっている。
 今年2月、岡本圭生医師の手術を受けられなくなった待機患者7名が、岡本医師と共に、病院に対して「治療妨害の禁止」を求め大津地裁に仮処分を申し立てた。司法判断が注目されるなか、病院側は4月1日、自らの主張をPRするかのように、前立腺癌に対する小線源治療の外来を新たに開設した。同病院は、これまで小線源治療で世界的に有名な岡本医師が1100件を超える小線源治療の手術を実施し、患者らの信頼を勝ち取ってきた。にもかかわらず、岡本医師が泌尿器科による医療過誤事件の隠蔽を批判したため、岡本医師による治療を6月で凍結し12月末で解雇するという。係争が激化する中、病院側は、事務職員まで動員し、患者約1千人のカルテの不正閲覧を断行。岡本バッシングの材料探しとみられる。新たに始まった泌尿器科による小線源治療は安全なのか。滋賀医科大の医療過誤事件の第2弾を報告する。(仮処分申立書とカルテ不正閲覧を裏付ける証拠をPDFダウンロード可)
Digest
  • 岡本メソッドによる小線源治療
  • 患者会の抗議活動
  • 小線源治療の2つの窓口
  • 泌尿器科に誘導されそうになった患者
  • 泌尿器科による小線源治療は中止に
  • 隠蔽か謝罪かの選択肢
  • 大学病院側の主張
  • 2週間で岡本メソッドの評価を一変
  • 大量のカルテを不正閲覧
  • 放射線治療の権威と称する人物が意見書
  • 患者が医療を自分で選ぶ権利
  • 「あなたに思いっきりがあるかどうかです」
  • 岡本医師が実践してきた医療

人命を優先するのか、それとも大学病院のプライドを優先するのか。ある意味では答えの判然とした、それでいて詭弁に満ちた係争が、滋賀医科大学医学部附属病院で起きている。

滋賀県大津市にある滋賀医科大学医学部附属病院(以下、滋賀医科大病院)は、2019年3月14日、ウェブサイトに1件の告知をだした。

平成31年4月1日より泌尿器科において、下記のとおり前立腺がん小線源治療外来を開設いたします。

本外来は2名の泌尿器科指導医が担当し、患者さんとともに小線源治療を含めた適切な前立腺がんの総合治療を行います。

 また、平成31年7月からは、本院において経験豊富な放射線科医及び泌尿器科医との協働のもと、小線源治療(手術)を開始いたします。

 受診を希望される患者さんがおられましたら、泌尿器科外来までお問い合わせください。【出典】

この告知から読者は、滋賀医科大病院が新たに前立腺癌に対する小線源治療に乗りだすような印象を受けるかも知れない。が、既に小線源治療を受けた患者の多くが、大学の方針に困惑し、不信感を募らせながら、こう呟かざるを得なかったに違いない。

「大学病院は本当に岡本医師を追放するらしい」

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事件の舞台になっている滋賀医科大病院。滋賀県大津市の郊外にある。

というのも、滋賀医科大病院には、小線源治療の世界的なパイオニア・岡本圭生医師が在籍して、これまで1100件を超える小線源治療の手術を実施し、素晴らしい成果をあげてきたからだ。その功労者である岡本医師を追放して、新たに小線源治療外来を設置しなければならない正当な理由は何もなかった。

後述するとおり、ホームページ上で告知された2名の泌尿器科指導医は、これまで小線源治療を行った経験がない。

岡本メソッドによる小線源治療

小線源治療とは、放射線を放つ小さなシード線源を前立腺に埋め込んで、そこから放される放射線で癌細胞を破壊する療法である。小線源治療そのものは、滋賀医科大病院とは別の医療機関でも実施されているが、同病院の岡本医師が開発した岡本メソッドの特徴は、高い線量で癌細胞を完全に死滅させながらも、前立腺周辺の臓器への放射線被曝は回避できるという画期的なメソッドである。

前立腺癌の診断では、原則として転移のリスクを低・中・高の3段階に分ける。岡本メソッドの場合、5年後の非再発率は、「低リスク」で98.3%、「中リスク」で96.9%、「高リスク」でも96.3%である。

これに対して、一般的な小線源治療、ダビンチ手術、それに外部照射治療では、非再発率は40%から70%にとどまる。

ちなみに岡本メソッドでは、「高リスク」の患者に対しては、ホルモン治療、小線源治療、外部放射治療を組み合わせたトリモダリティと呼ばれる療法が適用される。それが「高リスク」の患者でも、非再発率が低いゆえんである。実際、浸潤した癌、特に精嚢に浸潤した難治性とされるT3b(注:前立腺癌の病期分類の表示)や小さなリンパ節転移のある症例ですらほぼ完治させてきたという驚異的な実績が国際雑誌でも報告されている。

その治療技術は高い評価を受け、『ラジオNIKKEI』は岡本医師に対する2回シリーズのインタビューを放送。岡本医師は、前立腺癌の小線源治療学会では第一人者として、誰もが認める存在だ。

告知にある2名の泌尿器科指導医とは、成田充弘准教授と大学院生の和田晃典医員である。この2人は、岡本医師の部下ではない。その成田医師と和田医師が、岡本医師とは別枠で、4月1日から前立腺癌に対する小線源治療を開始する、というのである。

泌尿器科のウェブサイトによると、成田医師は滋賀医科大学の出身で、泌尿器体腔鏡下手術(黒薮注:ダビンチ手術)の専門家である。和田医員は、泌尿器癌治療が専門分野だという。二人が小線源治療の専門医でないことは経歴からも読みとれる。彼らに、小線源治療の執刀体験がないことも分かっている。

が、にもかかわらず滋賀医科大病院は、4月1日から、岡本医師とは別枠で小線源治療を始めると宣言し、ホームページ上で大々的にそれを宣伝しているのだ。実に奇妙な話ではないか。

患者会の抗議活動

大津市郊外に広がる、近代化の波をくぐり抜けてきた丘陵地帯にある滋賀医科大病院。4月9日、午後12時半。雲の切れ目から春の陽がきざす空のもと、病院の前を走る幹線道路の歩道で、ある抗議行動が始まった。

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4月9日に滋賀医科大病院の前で行われた抗議活動。35名が参加した。(写真提供:田所敏夫)

主宰者は、滋賀医科大学・小線源治療患者会(以下、患者会)である。岡本医師の小線源治療を受けた人々を中心に構成された団体で、大学病院が岡本医師による小線源治療の中止を一方的に宣告したのち、断続的に抗議活動を続けてきた。現場で集会を取材したジャーナリストの田所敏夫さんが言う。

「スタンディングには35名が参加し、これまでにない大きな規模でした。病院の事務室のガラス窓は、途中からブラインドが下ろされました。狼狽していたのでしょう」

2時間にわたる街宣行動が終わると、患者会の人々は、JR大津駅前へ移動した。そこで街宣活動を始めた午後3時半には、参加者がさらに増え、80余名になっていた。大規模な街宣活動になった背景には、この日、大津地裁で2つの裁判が予定されていたからである。患者会の人々は、集会が終わりしだい、裁判所へ移動するのだ。

2つの裁判のうち、1つは、患者会に所属する4人が、成田医師らを「説明義務違反」で訴えた裁判である。治療に際して、成田医師らは、小線源治療の手術経験がないことを故意に隠して小線源治療を断行しようとした。しかも、成田医師がおこなう予定だった手術に先立つ術前診察に過失があった、という主張である。

もう1つは、岡本医師と患者会の7人が滋賀医科大病院に対して、岡本医師による小線源治療の継続を求めた仮処分申し立ての審尋である。厳密に言えば「治療妨害の禁止」を求めた訴えである。

二つの裁判はどのような関係になっているのか

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泌尿器科へ誘導されそうになった体験を語る宮野覚蔵さん。最初、騙しの手口には、気づかなかったという。

(上)不正閲覧が明らかになった中橋民男さんのカルテ。(下)飯田由起男さんのカルテ。

弁護団長の井戸謙一弁護士は、元裁判管。住民基本台帳ネットワークシステム差止等請求事件、志賀原子力発電所2号原子炉運転差止請求事件の判決に関与した。看護士による殺人が争点になった湖東病院事件では、弁護士として再審開始を勝ち取った。(写真提供:田所敏夫)

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