死亡事故続出の京急電鉄 車掌が伝える「乗客として知っておいてほしい運行現場のジレンマ」
乗務員(車掌・運転士)が携帯する京急『乗務員手帳』を手に、京急の安全軽視なカルチャーを説明する元社員 |
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- 京急の人災だった新町の踏切トラック運転手死亡事故
- 上大岡の39歳医師引きずり死亡事故
- 横浜駅での衝突もありえたインシデントを隠匿
- 「亀の子」で車掌が指を骨折し自主退職
- 自動化せず職人芸にこだわる京急カルチャー
インシデント=事件(ミス)はあったが事故には至らなかった「出来事」
アクシデント=起こってしまった「事故」
京急の人災だった新町の踏切トラック運転手死亡事故
2019年9月5日、神奈川新町駅近くの踏み切り(横浜市神奈川区)で、下り『快特列車』とトラックが衝突した。120km/hで走行していた電車は、急ブレーキをかけ減速したものの間に合わず、踏切内で立ち往生していたトラックに突っ込み、先頭から3両目までが脱線。トラックは炎上した。この事故でトラック運転手(67歳)が死亡、列車の運転士と乗客30人以上が怪我を負った。
京急は、全87キロの線路に対して踏切が86カ所、つまり平均1キロあたり1か所あり、これは私鉄では群を抜いて多いわけではないが、たとえばJR東の山手線は1周(34.5km)で1か所しかない。
「私が10年以上前に京急の車掌として乗車し始めたときは、『ウチの乗務員は踏切防護要員だから』と言われたものでした。事故が発生しやすい踏切については、特に注意を払っています。踏切事故を防ぐためにも、運転士と車掌の2人体制は必須で、京急ではワンマン体制はありえません。(※東京メトロ等は、ワンマン体制の運行を増やしている)」
「障害物検知装置」と「発光信号機」。京急『2019鉄道安全報告書』より |
踏切でのトラブルを検知して事故を避けるため、現場の踏切には「障害物検知装置」がついている。警報機が鳴り始めると間もなく作動し、センサーが車の進入などの物理的な異常を検知すると、「発光信号機」を通して、近づいて来る電車の運転士に、危険を知らせる仕組みだ。
今回は、トラックが侵入して踏切内で停まっていたケースであり、発光信号機は正常に動作していたという。では、なぜ衝突は防げなかったのか?
「京急側は当初、衝突した原因について、『電車運転士のブレーキ操作が遅れたため』と報道発表しました。つまり、発光信号機で赤色灯の点滅を見ていながら、すぐにブレーキ操作をしなかったため、としたのです。ところが2か月後、『線路が曲がっていて鉄塔があり、運転士の視界が阻まれることから、発光信号を確認可能な地点で非常ブレーキを掛けても、踏切までに停止することは不可能』という決定的な問題をNHKにスクープされ、京急の嘘がバレます。そして、当初の発表を撤回したのです。
実は、この信号機視認性については、運転士から、いわゆるヒヤリハット報告が以前から行われていましたが、そういう問題があるという周知だけして、『ブレーキをかけ始めれば間に合う地点に発光信号の場所を移す』『鉄塔を撤去または移動する』といった根本的な解決策を講じていなかったのです。
つまり、起きることが十分予想できていたのに、経営陣が対策を怠った結果として発生させてしまった、人災による死亡事故と言えます。現場は安全運行したいのですが、せっかく上げたヒヤリハット報告が、日常的に握り潰されたり黙殺されてしまう、といったジレンマのなかで我々は仕事をしているんです」
鉄道会社として必須となる安全意識のテンションが、完全に弛緩していることがうかがえる。事実関係は明らかであるにもかかわらず、なぜか京急の経営陣は、業務上過失致死の容疑で逮捕どころか、警察の取り調べすら受けていない。トラック運転手は、京急がヒヤリハット報告に対し常識的な対応策を打っていれば、命を失うことはありえなかったわけである。
本当の原因を隠匿し、運転士に責任転嫁を図った経営陣の姿勢は、現場の士気を下げた。
各乗務区・各駅に届いた、社員の皆さまへ宛てた「お詫び」。いきなりタイトルに誤字がある。 |
同年12月に、鉄道本部長名(道平隆・専務取締役)で、社員向けに謝罪文(右記画像参照)が掲出されましたが、表題に誤字があるうえに
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まさに職人芸!「人力運行にこだわる京急」(『週刊東洋経済』2015年11月28日号)とメディアからも評され、機械化・自動化に消極的
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横浜地検は2022年3月24日、業務上過失致死傷と業務上過失往来危険の両容疑で書類送検された列車の男性運転士(30)を、不起訴処分(起訴猶予)としたことを発表した。トラック運転手側にも落ち度があり、運転士の過失は「比較的軽微」と判断した。
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