空自幹部はなぜ自死したのか――「上司のパワハラが原因」と遺書で告発、精神科治療妨害の疑い 国賠訴訟で国は遺族と全面対決
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2018年3月15日、航空自衛隊小松基地の情報保全隊副隊長を務めていた2等空尉が、上司の「パワハラ」を苦にして自死した。遺族が起こした国家賠償請求訴訟が東京地裁で続いている(空自小松基地。2011年1月撮影)。 |
- Digest
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- 曹候補から幹部に
- 「若い隊員にしたわれていた」
- Y隊長に対する遺族の不審
- 遺書
- 不眠、集中困難を自覚して病院を受診
- 上司が介入して診療中止か
- 「パワハラはなかった」と調査結果
- 「適応障害は完治していた」と国主張
- 借金は順調に払っていた
曹候補から幹部に
10月1日午前、台風接近中の東京・霞ヶ関。東京地裁4階の廊下に笑い声が響く。自衛隊幹部の自死をめぐる国家賠償請求訴訟(和波宏典裁判長)の口頭弁論の開廷を待つ国側指定代理人(筆頭代理人・本村行広訟務検事)らが饒舌に談笑している。一人の命が失われたという事実を前にして、自衛隊や国の受け止め方は軽すぎるのではないか。そんな違和感を覚える光景だった。
航空自衛隊2尉の男性Aさんが小松市内の公園で首をつり、31歳の生涯を終えたのは2018年3月15日のことだ。自死をはかった直後とみられる午前零時すぎに発見され、病院に搬送されたが助からなかった。
自宅や車の中から上司のパワハラを示唆する遺書が見つかった。なぜ自死したのか。真相を追う遺族のたたかいがここから始まる。
Aさんの自死は上司のパワハラが原因だ――約2年の調査を経てそう確信した遺族は、2020年3月、国を相手どり、逸失利益や慰謝料など約2000万円の賠償を求める国家賠償請求訴訟を起こす。これに対して国側は、予期していたとおり「パワハラはなかった」「いっさいの責任はない」と全面的に争う姿勢を取った。現在審理が続いている。
冒頭で紹介した国指定代理人の「軽いノリ」は、裁判の見通しが国にとって明るいと彼らが考えていることを伺わせた。損害賠償請求訴訟は原則として原告側に立証責任がある。じっさい、遺族側には「パワハラ」を裏付ける証拠は多くはない。遺書だけだ。だが、たとえ訴訟手続き上の困難があったとしても、一般社会の常識感覚に照らせば、「パワハラ自殺」であることを疑うに十分である。Aさんが自分で自分の命を絶つ直前に書いた内容が「パワハラ」だったという、その意味は大きい。
Aさんの遺書は4通見つかっている。1通は肉筆、残り3通はワープロ打ちだった。以下、訴訟記録を頼りに事件を検証する。
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自衛官の任用制度(防衛省・自衛隊採用ページより)![]() |
「若い隊員にしたわれていた」
Aさんは1987年に東京都に生まれ、高専を中退して2007年3月、「一般曹候補学生」(曹候補)という準キャリア枠で航空自衛隊に入隊した
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航空自衛隊小松基地(2011年1月)。
航空自衛隊小松基地から小松空港を臨む(2011年1月撮影)。
航空自衛隊小松基地(2011年1月撮影)。
上司の「パワハラ」を苦にする遺書を残して2等空尉が自死した事件をめぐって国賠訴訟が続く東京地裁。国側は「パワハラはなかった」「安全配慮義務違反もない」として全面的に争っている(2021年10月1日撮影)。
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読者コメント
本件とは別の案件でも陸上自衛隊で起きた職場内苛めが最近でも報道されてましたね。
規律の乱れと言うよりも人心荒廃したような組織が自国で軍事衝突が起きた際に果たして防衛任務を遂行できるのかどうか疑問を感じます。
享年31歳。1987年生まれ。ご冥福をお祈りします。まだ若い人が自殺するという事は普通ならまずない。少子高齢化の進む日本国にとって損失以外の何物でも無い。現場の実態が組織の上にあがらない軍隊がいざという時に勝てるはずがない。
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