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八ッ場ダム、環境破壊に9千億円の税金無駄遣い 岩盤崩落・地滑りリスクも

情報提供
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(写真a)【ダムサイト建設予定地。ダムの高さは渓谷の深さの倍以上にもなる。】
 総額およそ9,000億円もの巨額の税金が投入される群馬県吾妻渓谷(吾妻川の中流域)の八ッ場(やんば)ダム計画。2004年に1都6県の納税者で構成する「ストップさせる会」が住民訴訟を起こしているものの、2006年度予算は事業費356億円と前年度比27%増となる見通し。

 計画ストップをマニフェストに掲げた民主党が昨年の衆院選で大敗したこともあり、開発は着々と進もうとしている。厳冬の現地を取材した。(この記事は動画付きです)

Digest
  • 岩盤崩壊の危険
  • 地滑りの危険が高まる
  • 温泉地の生活排水や畜産排水が首都圏に
  • 数々の滝が水没
  • レッドデータブック60種超の動植物の生息地が水没
  • 国の天然記念物「臥龍岩」等も水没
  • 詩人の直感

 午前中は、反ダムの市民団体「水源開発問題全国連絡会」(代表・嶋津暉之氏)のバスで、ダム周辺を回る現地視察に同行。午後からは単独でダム本体のある名勝・吾妻渓谷へ向かうスケジュールだ。

岩盤崩壊の危険

JR吾妻線・川原湯温泉駅。まず、ここから国道145号をバスで1分弱の距離の、ダム本体建設予定地へ向かった。ダム完成予想図という国土交通省のつくった看板の前で、バスは止る。看板には、ダムの堤頂長(横幅)336m、堤高(高さ)131m、体積160万㎥(東京ドームの約1.2倍)とある。とてつもなく巨大なコンクリートの塊だ。この地点から渓谷までの深さが約52mなので、ダムの高さは、今立っている位置から、さらに80メートル近く高い。(写真a)

現地看板によれば、ダムの貯水面積は3.04kuで、同じ群馬県内の榛名湖の約2倍。吾妻渓谷の約4分の1が水没し、横を走る国道やJR駅も、軒並み水没する。

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【水没エリア】(国交省八ツ場ダム工事事務所HPより)

嶋津氏は、東京都環境科学研究所勤務を経て、「東京の水を考える会」や「水源開発問題全国連絡会」の事務局スタッフとして活動。各地の水源開発の技術的な解析を行う。『どうなってるの?東京の水』『やさしい地下水の話』『水問題原論』『21世紀の河川思想』等の著書がある専門家だ。

その嶋津氏が「ここは危険な場所」と説明する。ここの地盤には無数の亀裂が走っており、さらに、付近に川原湯温泉があり、その温度は深い地点で300℃以上にもなるため、岩盤が熱変質して脆弱化しているという。

ほかならぬ建設省自身も昭和45年の国会で、そのことを指摘し、当初はここにダムを建てることに反対していた。

★答弁概要
 昭和45年の国会答弁で、文化庁の役人が以下のように「不安な地形」と連呼し、同席していた建設省の役人も「お話の通りでございます」と答弁していた。(昭和45年06月10日 衆 - 地方行政委員会 文化庁役人の答弁、要約)

出典:国会会議録 昭和45年06月10日 衆院議員地方委行政委員会

 「地質調査の結果、この地点は地質が非常に熱水変質を受けている部分が多く、ダムの基礎地盤としては極めて不安定であるということでございます。それからもう一点は、かりにダムをつくった場合、一番力のかかる下流端の付近に河床を横断する三メートル幅の岩の断層があり、ダムが非常に不安定である、不安であります。それから全体としまして岩盤に節理が非常に多いということで、これもダム建設、しかも大型ダムの建設場所としてはきわめて不安な状況であるということで、総じて実地調査をした結果については、この種のダムを建設する場所としては非常に不安な地形であるということがわかりました」

「これで本当に巨大なコンクリートの塊を支えることができるのか。本当に大丈夫なのか?ダムを支える岩盤が崩壊するかもしれない。そうした危険性を伴っている」と嶋津氏は指摘する。

地滑りの危険が高まる

次に、地滑り防止法指定地域の林地区に向かった。小高い山を登ったところでバスが止る。そこから下を見下ろすと、体育館やプールが備えつけられた長野原第一小学校が見える。生徒数は現在、35人。2002年に水没予定地区から移転して開校したこの学校は、山を削り落として建てたため、校舎の裏側が急斜面の崖になっている。崖の至るところに崩落防止のための砂防ダムや大量のアンカーボルトが打ち込まれており、いかにも危険な場所に見える。

その後、丘からバスに乗り、数分下った。この林地区は半水没地区。その水没エリアでバスは止り、山の中を徒歩で1分ほど下った。そこには、地滑り対策で作った水抜き井戸がある。傍から見るとこの井戸は縦、横1m弱でしかないが、実は深さ35メートルもあり、地底深い部分で、長さ70mものボーリングが八方に伸び、地下水を汲み取り、ボーリングで川に排水している。

林地区には、この井戸が十数個もある。こうやって土中にたまる水を抜かないと、地滑りを起こしてしまうためだ。しかし、ダムができるとこの井戸も水没する。「排水しなければ危険にもかかわらず、逆に水を貯めるのだから、地滑りは必至。学校のある上部も危ない」と嶋津氏は警告する。

もし地滑りが起こると、周辺の土砂がダムに流れ込み、水が溢れる恐れもある。実際、1963年、イタリアの「バイオントダム」では、地震と地滑りが発生し、山腹の土砂が大量に流入し、ダム湖から溢れた水が下流を襲い、2,600人もの死者を出している。(久慈力著『あなたは八ツ場ダムの水を飲めますか』より)

ダムサイト本体と周辺の地盤が共に脆弱で、二重に危険なエリアに八ツ場ダムは作られようとしている。

温泉地の生活排水や畜産排水が首都圏に

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【上野原取水堰の水溜り。八ツ場ダムができると、この汚い水が首都圏に供給されることになる】

ダム建設予定地は、吾妻川の中流域に位置するが、バスはその後、吾妻川上流の上野原取水堰へ向かった。ここを分岐点として川の流れが変わり、大半の水がダム建設地を迂回して水力発電に使われている。

ダムができる頃には、迂回せずに貯水される予定だが、現状は、発電所で使う分以上の水量にならないと、流れが止まって干上がった状態になる。この日も干上がった状態で、ところどころに水溜りができていた。この水溜りが濁った緑色で、見るからに汚そうだ。ほとんど乾いている部分の水は、脂ぎって光っている。

その原因は、上流の温泉の硫黄が強酸性である上に、草津温泉や万座温泉、万座スキー場から大勢の観光客の生活排水が流され、高原キャベツで有名な嬬恋村からは多量の化学肥料が流され、さらに5千頭以上の牛を飼育している四町村からは大量の畜産排水が流されているためだ。送電用の水は流水だからまだよいが、貯水すると、沈殿して藻が異常繁殖し水質がさらに悪化する。

水溜りの汚い水は、ダムで貯水された状態と同一といえる。「夏場になると、この水溜りは、異臭を放っている」と嶋津氏は言う。八ツ場ダムができると、この水が首都圏に供給されることになる。浄水場でいかに強力に浄水したとしても、飲料水として

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【吾妻渓谷。約80年前、詩人の若山牧水は「もしこの流れを挟んだ森林が無くなるようなことでもあれば、諸君が自慢しているこの渓谷は、水が枯れたより悲惨なものになるに決まっている」との一文を書き残した】

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長本 厚2009/09/23 07:45
松本武洋2008/02/01 02:49
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