日立製作所“ジョブ型導入済み”は嘘 複数社員「周囲に導入されている様子はありません」
「日立、37万人ジョブ型に」。日立は2022年3月末、単体29,485人が在籍するマンモス企業。本当にジョブ型を導入したら日本の労働市場に影響があるのは確かだが、実態はなかった。 |
2023年元旦の日経新聞1面ワキ(サイド記事)を飾った見出しは「日立、37万人ジョブ型に」だった。「22年7月までに国内で働く本体の3万人にジョブ型を導入した。24年までに国内子会社120社の16万人に拡大する」とある。つまり、国内では既に前年にジョブ型を導入済み、だという。だが複数の若手社員に聞くと、「現時点で私含め周囲に導入されている様子はありません」(SE職)、「現場は、何も変わっていません」(企画職)と、その実態がまるでないことがわかった。“実態なき虚像のジョブ型”である。若手社員の視点からは、今の日立はどう見えているのか――詳細にリポートする。
- Digest
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- スキル定義と研修プログラム
- ジョブ型とは何か
- 新卒採用者の半数がSE職に
- 女性比率下落、後退するダイバーシティ
- 文系出身者の配属はガチャ
- 売上も人員も6割海外、求められる語学力レベル
- 海外赴任者は全体の2%だけ
スキル定義と研修プログラム
新聞記事は、経営側の広報に利用されて、裏付けとなる事実もないのに、嘘を報じることがよくある。日経新聞を真に受けてしまうと就活や転職活動で入社前後のギャップに悩まされるので、騙されないようにしたい。
「実際に何か、変化があったかというと、会社として、社員が自律的なキャリア構築をできるように研修プログラムを提供していきます、と言われただけ。現場は、何も変わっていませんし、今後も変わるとは思いません。強い力を持つ労働組合が反対しますから、今後も、評価制度や給与制度と結び付かないまま、形骸化すると思います」(SE職)
この研修プログラムとは、『Learning Experience Platform』(LXP)の『Degreed』と呼ばれるプラットフォームのことだという(下記参照)。リンクドインなど外部が提供するプログラムや、社内学習ツールを連携させており、これを利用して必要な研修を受け、実際の仕事でスキルを活かし、自分が望むキャリアを築いていってください、ということだ。昔からある、一般的な研修制度をイントラに移植しただけで、何ら新規性はみられない。仕事に必要な研修を受けるのは、当り前のことだ。
日立が導入した『LXP』の『Degreed』という研修プラットフォーム。ジョブ型との関係は、よくわからない。 |
別の社員は昨年、この研修プログラムの説明と併せて、社内の職種別に、役割に応じて必要とされるスキルを定義したリストを見せられ、自己評価と照らし合わせ、上司と面談してください――と言われたという。その結果をもとに、各社員に「SE」「デジタルマーケ」「プロダクトマネジメント」「アカウントマネージャ」「M&Aスペシャリスト」…といった職種のフラグをつけるのだという。
「人事部が外部のコンサル会社に作らせたもので、現場としては『こんなヤツ、いねーよ』というスキルや経験が定義されていました。これを決めたからといって、現在の給与テーブルのレンジが変わったり、従来の枠から何かはみ出るわけではないので、何も変わらないと思います。社内でジョブ型と呼ばれている話で実際に進んでいるのは、その程度です」(企画職)
要は、少し細かくした職種別・役割別に、あるべき人物像と必要スキルを定義して、不足するスキルや知識を研修プログラムに沿って受講していきましょう、という話だ。20年前からコンサル会社が社内でやってきたような、原始的な人材育成の制度であり、本来の職務給にもとづくジョブ型雇用やジョブ型人事とは、直接、関係しない。日立が対外的にアピールしている“ジョブ型”は「名ばかり」で、実態はなかった。
ジョブ型とは何か
『いい会社はどこにある?』145ページより。ジョブ型VSメンバーシップ型 |
本来のジョブ型とは、メンバーシップ型と対比して使われる用語で、左記表のような違いがある。メンバーシップ型が「人間」を軸としているのに対し、ジョブ型は「仕事」を軸としている。もちろん日立は、メンバーシップ型の最右翼的な存在だ。
最も肝となるのは、「配属(チャンスの与えられ方)」と「給与・雇用」の2つ。
ジョブ型では、まず仕事(ジョブ)があり、必要なスキルがジョブディスクリプション(職務記述書)で定義され、そのスキルを持つ社員が採用&配属(アサイン)され、その成果に応じて給与が支払われる。そこに年功序列の要素は微塵もなく、若手であってもスキルと実績があればより難易度の高いジョブにアサインされ、成果を挙げれば給与も上がる。逆に、不況や事業戦略の変更でジョブがなくなれば、実力とは無関係に解雇となる。
メンバーシップ型では、ジョブではなくて人に給料と雇用が紐づいており、
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日立のキャリアパスと報酬
2021年3月卒で28人、2022年3月卒で35人が日立に入社(東京大学新聞社まとめ)
日立ジョブマッチングの流れ
日立製作所の組織図(2022年7月1日現在)
情報開示を後退させ、ダイバーシティに対するやる気のなさがわかる。上:日立サステナビリティーレポート2021、下:同2022。
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終身雇用という美しい言葉に見えるが、自分と日本を衰退させる手法。
「拝承」見に来た。それだけw
日立がそんなに簡単に変わるわけないって思うよね。パナソニックでもそんなに簡単にはいかんのに。
という発言を聞き出すための観測気球じゃないの
そりゃそうとしかいえない
w
いきなり改革はできんけど、やらんことには進まないし、人材獲得に影響があるかがってことかしら。大手電機業界ではパナ、Fは大々的に、Nや東芝もそうで、うたうのがスタンダードになりつつある
拝承
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