日立製作所 「給与水準が17年前と一緒は寂しい」――メリハリなく、コンサル・外資・ベンチャーの予備校化
Ba:普通の企業 (仕事3.5、生活3.7、対価2.8) |
ここまで変わらないものなのか――。筆者がじっくり同社を取材したのは17年ぶりだが、驚くべきことに、なんとその当時から、人事処遇制度も年収水準も変わっていなかった。日立製作所は、典型的な「年功序列・終身雇用の戦後日本企業」の姿をそのまま残している、天然記念物級の昭和企業だ。近年、粉飾決算で解体に至った東芝や、品質不正と過労死続発で評判が悪い三菱電機など、明らかな「敵失」が続き、競合からのプレッシャーもないまま、改革は新聞に書かせるに留まり、現場では進まなかった。
- Digest
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- メリハリない年功序列の人事処遇
- レオパになった男子寮
- S6から「裁量労働制」選択可に
- 「S5主任が勝ち組」ゆとり世代
- 43歳部長なら「若い」
- 幹部候補選抜「Future50」1期生が執行役員に
- 退職金前払い制アリ
- K(課長)、B(部長)表記廃止、「さん付け」で統一
メリハリない年功序列の人事処遇
「私はいま6級ですが、今年の年収が額面600万円強なので、17年前と一緒というのは寂しいですね」(企画職)。過去の記事(2007年)を見ての現役社員の感想だ。給与水準だけではなく、なんと人事制度そのもの(1級~7級)が、2006年と全く同じで、変化ナシ。成果主義やジョブ型が世の中でじわじわと進むなか、17年間にわたって人事制度がそのまま温存されているケースは、実にレアだ。
日立製作所のキャリアパスと報酬水準 |
安定感抜群といえば聞こえはよいが、日本最大級の従業員数(連結で国内15万6768人=2022年3月末)を抱える企業グループ※がこれでは、日本経済が成長するわけもなく、日本人全体の賃金も上がらない。東芝と三菱電機が「日本の暗部」なら、日立は「日本の停滞」を象徴する存在となっている。
※日立は、トヨタ20万3948人(2022年3月末)、NTT18万5778人(2022年3月期)に次いで、国内の雇用を支えている雇用のリーディングカンパニーである。
「仕事しないオジサンが多い会社です。『なんであの人が私の2倍の給料なんですか?』と上司に聞いたこともあります」(SE職)。20代後半~30代前半では実力どおりの給料が貰えず、権限・ポジション・チャンスが与えられないため、実質的に、見ず知らずの社内中高年社員に仕送りする形になっている。
所員(本体社員=S6級)30歳前後の源泉徴収票。手厚い家賃補助を入れて、この数字になっている。 |
その結果、NTTがGAFA予備校と呼ばれて久しいが、日立も、コンサル・外資・ベンチャーの予備校的な存在になっている。定年まで居るつもりがない若手社員たちはストレスがたまり、耐えきれない人が脱出していく。大多数の、自分に自信がない人や、仕事ができない人、終身雇用のつもりで入社した人たちは、残る。企業全体としては、弱体化していく。典型的な「年功序列の闇」である。
女性にとって特に問題なのが、メリハリのなさ。「バリバリ働いてスキルを身に着けて稼ぐか、ライフ重視で出産・子育てをするか、どっちかにしたい」(同)という意見には、説得力がある。「男性が定年まで働くこと」を前提に、徐々に、じりじりと年収が上がる年功序列の人事処遇は、ワーク・ライフのメリハリをつけざるを得ない女性のキャリア人生にとって、実に中途半端だ。
日経グループが行ったアンケートで、子供を持ったことで負担になったことを尋ねたところ、「仕事でのキャリアアップの鈍化・停止」は、女性(43.7%)が男性(5.7%)の8倍近くとなった(→子供持たない理由 女性はキャリア、男性はお金に不安)。
出産・子育てによってキャリアの中断期間が避けられない女性社員は、「仕事(キャリア)か、子供か」の選択を迫られる。なかでも30歳前後は、仕事人としての成長が著しく、同年代での競争も激しい、もっとも重要な局面。そこで出産が重なってキャリアを中断すると、脱落してしまう。
したがって、メリハリをつけて、20代にバリバリ働いてキャリアを積み、一人前のマネージャーの地位を得てから出産に入るのが1つの理想形であるが、30歳で課長になれるキャリアパスは、日立には存在せず、100%無理。過去に例もない。30代前半以下だと、最速でも、マネージャーの一歩手前である「5級」が、せいぜいである(外資やコンサル会社では、ごく普通にアラサーでマネージャーになる ※筆者は31歳だった)。
レオパになった男子寮
キャリアパスを詳しく見ていこう。新卒で入社後、「社会人・日立人の基礎を作る期間」とされる2年目の終わりに、伝統の研修論文の発表会がある。この2年間は「研修員」という身分で、給料は、
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所員・総合職6級の給与明細(28歳~32歳くらい)。本給は安いが、家賃補助が高い。
『日立の壁』(東原敏昭会長・著)。現場社員の雇用や報酬、人事処遇については、完全に無関心とでもいうくらいに聖域化して、触れていない。
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