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神奈川県警「天下りリスト」企業名の全面黒塗り+大量手続きミスを国賠訴訟で免罪した横浜地裁・岡田伸太裁判長

違法判断うやむやでデタラメ増長、県警と裁判所の癒着か

情報提供
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横浜地方裁判所。神奈川県警の天下りリスト(求人票)の法人名黒塗りの違法性を問う国賠訴訟で、訴訟中に黒塗りを撤回したことを理由に被告・神奈川県の責任にいっさい言及しないまま原告敗訴を言い渡した横浜地裁の岡田伸太裁判長。県警に反省を促す効果の乏しさが懸念される。

神奈川県警退職者の再就職先が記載された「天下りリスト」の法人名を黒塗りにした情報公開非開示処分(訴訟開始9か月後に裁判長の訴訟指揮で開示した)の違法性を問う国賠訴訟(原告:筆者、被告:神奈川県)で、横浜地裁(岡田伸太裁判長)は3月22日、「仮に国賠法上違法であったとしても損害はない」「(黒塗りの撤回により)精神的苦痛があったとしてもすでに慰謝されている」などとして、県の責任に言及しないまま原告敗訴を言い渡した。多大な労力と時間、経費をかけて裁判をしなければ誤りが正されなかったのは明らかで、訴えを起こした側にしてみれば到底納得しがたい。一方、県警にとっては「温情」判決だ。手前勝手な条例解釈のもとで誤った情報公開手続きをした警察の責任が不問に付されるのであれば、「とりあえず黒く塗っておけ」というデタラメがさらに増長するおそれがある。

Digest
  • 県警のでたらめ行政を不問にした横浜地裁
  • 裁判所が「回答」を示唆して県敗訴を回避
  • 「やりすぎではないか」口頭申し入れを県は無視
  • 県の敗訴回避に裁判所が助言
  • 「精神的苦痛はすでに慰謝された」
  • 通知書「間違い60か所超」の責任も不問
  • 板橋区の判例に照らしても異例の逃げ腰判決
  • 日野市「理由の付記義務」違反
  • 通知書の誤りは重大ミス
  • 杉並区「白塗り」事件
  • 訴訟費用を神奈川県に負担させる
  • 訴訟や審査請求を通じて権力機関を躾ける

※資料は末尾にてダウンロード可(判決文PDF×5)

本稿では、板橋区、日野市、杉並区、東京都に対して筆者が起こした各訴訟の判決も踏まえ、岡田伸太裁判長の「黒塗りを助長させてしまう」情報公開法の趣旨に反した判決のデタラメぶりについて、具体的に詳しく解説する(判決資料つき)。

【2023年11月13日追記】東京高裁での控訴審(令和5年行コ125号・第16民事部、土田昭彦裁判長)は、7月12日の第1回口頭弁論で即日結審したが、結審後に裁判所から双方当事者に対して、県側が原告(三宅)に解決金(訴訟費用の一部として)3万円を支払う内容の和解が勧告されるという異例の展開となった。県は和解勧告を受け入れ、県議会での承認(議案80号)を得た上で10月27日、正式に和解が成立した。2021年10月の提訴からまる2年を経て、天下りリスト黒塗りをめぐる裁判は、筆者側の逆転完全勝訴的和解で決着した。

県警のでたらめ行政を不問にした横浜地裁

「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」

2023年3月22日午後1時20分、横浜地裁502号法廷の原告席にいた筆者は、岡田伸太裁判長が言い渡す判決の主文を聞いてがっかりした。神奈川県警が「天下りリスト」(求人票)の法人情報を黒塗り処分にしたことなどの違法性を問い、筆者が神奈川県に対して起こした国家賠償請求訴訟でのことである。

判決を聞いて落胆したのは「勝算が十分ある」と踏んでいたからだが、それでも法廷を出て判決文を手にするまではいくばくかの期待を残していた。行政相手の民事訴訟の判決は主文だけで単純に勝ち負けを判断できない。往々にして判決理由のなかに様々な「勝ち」がある。

書記官室に行って判決文を受け取り、目を通した。求人票の法人情報を非開示とした県警の処分は国賠法に照らして違法である――そんな言葉を探した。だがどこにも見つからない。せめて「黒塗り処分は情報公開条例に反した誤った行政処分である」くらいは書いているだろうと、それも探したがやはりない。

書いてあったのは、以下だった。

「仮に国賠法上違法だとしても、損害はない」

「精神的苦痛を受けたとしても裁判終結までに慰謝されている」

「損害はない」の繰り返しで終わりだ。期待は失望に変わった。でたらめな情報公開事務を行った県警に対して、その肩を抱きかかえて励ますような「温情判決」だった。違法な情報公開手続きをめぐる国賠訴訟を筆者はこれまで何件か経験している。それらの判決にこれほど行政に甘い内容のものはなかった。岡田伸太裁判長(裁判所)と神奈川県警の間に、癒着関係があるのではないか――。そんな疑いすら湧いてきた。

神奈川県警の側も、ここまでの「優しい」判決は予想していなかったのだろう。県指定代理人たちがいつになくうれしそうな顔をして裁判所を去っていった。

裁判所が「回答」を示唆して県警が敗訴回避

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横浜地裁の裁判官に促されて訴訟中に「自主的に」開示した神奈川県警の天下りリスト(求人票)。警視庁など他の自治体警察が開示していることをみれば、県警に勝ち目がないことは当初から明白だった。

ことの発端は2年前、神奈川県警本部長が2021年4月に行った「求人票」に関する情報公開の黒塗り処分(一部非開示処分)にはじまる。

公務員と企業との癒着を防ぎ、再就職「透明化」を目指す狙いで作られた「神奈川県キャリアバンク」という制度がある。求人票とは、この制度に基づき、企業などの法人から県に提出された文書だ。これを県情報公開条例を使って開示請求したところ、県警は約800件(2016年度~20年度分、県警管理職以外)を特定したが、こともあろうに文書のなかの法人名や企業名というもっとも基本的な情報を黒く塗りつぶした。

処分当時の通知文によれば非開示理由はこうだ。

神奈川県情報公開条例第5条2号の「公開することにより当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する。

県民市民をバカにするにもほどがある――とこれを見た瞬間、筆者は憤慨した。警察に求人をしたことが明らかになったからといって、企業に不利益があるとは思えない。そもそも癒着防止と透明化のために作成された「求人票」である。法人名すら隠していったい何が「透明化」か。

「やりすぎではないか」口頭申し入れを県は無視

警視庁公開
警視庁による「天下りリスト」(企業連絡票)の開示状況を示す一部開示決定通知書。企業名はすべて開示されている。

「いくらなんでもこれはやりすぎではないか。法人名は開示しなきゃいけないのではないか」

当初、筆者は口頭でそう伝えて県警に再考を促した。相手は「法人名の黒塗り」にこだわり、撤回しようとはしなかった。強気である。だが警視庁(東京都)では同様の文書について法人名を開示しているという話を警察問題に詳しいジャーナリストの寺澤有氏から聞いていた。ならば、裁判をすれば神奈川県警の勝ち目は小さい。

いったい神奈川県警は情報公開条例の意味や趣旨をどこまで正しく理解しているのかと、疑問を覚えた。公文書は原則としてすべて開示せよ。それが情報公開条例の基本理念だ。この大原則に立った上で、条例が定める非開示事由に該当する情報のみ、それを非開示にしてよい。ただし、非開示にする場合は理由の説明が義務づけられている。また裁判や審査請求などの異議申し立ての手続きも保障されている。

県警が非開示理由に掲げる「公開することにより当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」(情報公開条例5条2号)についてみると、同じ条文が情報公開法5条2号イにある。この解釈について最高裁は、漠然とした「おそれ」では不十分で、「競争上の地位、財産権その他正当な利益」が害される蓋然性が客観的に認められることが必要だとの解釈を示している(第二小法廷2011年10月14日判決、『新・情報公開法の逐条解説(第7版)』〈宇賀克也著、有斐閣〉参照)。

神奈川県が作成して知事部局に配布している情報公開条例の解説『神奈川県情報公開条例の解釈及び運用の基準』には、条例5条2号をこの最高裁判決に沿って解釈するよう説明がなされている。

 公開請求に係る情報が当該法人等又は当該個人の「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」情報に該当するかどうかは、当該情報の内容のみでなく、法人等又は事業を営む個人の性格、目的、事業活動における当該情報の位置付け等にも十分に留意しつつ、慎重に判断する必要がある。なお、この「害するおそれがある」かどうかの判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。(20頁「4 本号該当性の考え方」)

5条2号で非開示になり得るのは、企業が公にしていない「企業戦略、人事戦略等の経営上のノウハウ」といった情報である。公務員の再就職の透明化を目的とする「求人票」に記載された企業名が「経営上のノウハウ」の類ではないことは、警視庁が「企業連絡票」の法人名を公開しているのになんら支障が生じていない事実からも明白だろう。

こうした事情を踏まえれば、「求人票」の法人名を黒塗りにするなどあり得ない判断だ。司法の場で県警の誤りをはっきりさせ、情報公開制度を尊重するよう再教育する必要がある――筆者はそう考えた。これが、面倒な訴訟をあえて起こした動機のひとつである。

県の敗訴回避に裁判所が助言

裁判がはじまると被告・神奈川県は全面的に争う姿勢をみせた。だがその言い分は精彩を欠いた。そして提訴から約9か月が過ぎた2022年7月12日、弁論準備手続(裁判官と当事者による非公開の協議)の席上で、裁判官が県の指定代理人に尋ねた。

「(黒塗りにした法人情報の)開示を検討する意向はありませんか」

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争点の黒塗り部分は訴訟中に開示されたから損害はないと述べた横浜地裁の判決。法人名の非開示が条例上違法か否か、また国賠法に照らして違法か否かについていっさい言及していない。

神奈川県警本部の前に立つ銅像。

神奈川県庁内の県政情報センター。県警の情報公開手続きもここで行われた。

最高裁判所。

東京地裁。

天下りリストの法人名黒塗りを訴訟中に撤回したのは条例違反であると認識したからではない、との反論を述べた被告・神奈川県の準備書面。横浜地裁が判決で「条例違反」や「国賠法上違法」を明記しなかった弊害は大きい。

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