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昼は部下いびり下ネタ乱発、夜は酒盛り性犯罪――陸自「大砲部隊」おぞましい現実

若手幹部パワハラ自殺の松山、女性隊員がセクハラPTSD発症の郡山

情報提供
松山募集看板
陸上自衛隊松山駐屯地の入口に設置された隊員募集の看板。2013年、ここで幹部自衛官が自殺する事件が起きた。過労と上司のパワハラが疑われている。

陸上自衛隊の大砲を運用する複数の部隊で深刻なパワハラやセクハラが横行している実態が、自殺した隊員の遺族が起こした裁判や、性暴力が原因で退職した女性元隊員が国や加害者を訴えた裁判で、続々と浮き彫りになっている。郡山駐屯地の部隊では、野外演習のたびに連夜テントの中で酒盛りが開かれ、酔った男性隊員らによる強制わいせつ行為が衆人監視の中で繰り返された。松山駐屯地の部隊では、上司に嫌われた中堅幹部が、射撃訓練の報告をめぐりその上司から常軌を逸した「指導」を受け、月200時間に迫る長時間労働を強いられた挙句にうつ病を発症、追い詰められて自殺した。

Digest
  • 松山駐屯地大砲部隊幹部自殺事件
  • 新隊員受け入れ業務が滞ったわけ
  • 地獄の射撃訓練“報告“
  • 中隊長「記憶にない」と証言
  • 酒盛り、セクハラが横行の郡山駐屯地大砲部隊
  • おぞましい射撃訓練
  • 虚偽報告、隠蔽
  • 告発でしぶしぶ腰を上げた防衛省
  • 「入れ墨OK」検討の背景に若者の自衛隊離れ

普段でさえ最低限の公務員としてのモラルが維持できない自衛隊が戦場に行くようなことになれば、かつての日本軍のように規律が崩壊して無法者集団と化すのではないか。そんな危惧が現実的になりつつある。

松山駐屯地大砲部隊幹部自殺事件

大砲
松山駐屯地の大砲部隊による155ミリ榴弾砲の演習光景。陸自の公表データによると、最大射程距離は30キロメートル(噴進弾)〜24キロメートル(通常弾)。日本製鋼所製造(松山駐屯地のyoutube公式アカウントより)。

国は遺族に、8000万円を支払え――今年(2023年)2月21日、10年前の2013年に自殺した男性幹部自衛官Aさん(享年28)の遺族が起こした裁判の判決が大津地裁で言い渡された。時間外勤務が月100時間を軽く超す長時間労働によってうつ病を発症、自殺の原因になったとして、自衛隊側の安全配慮義務違反を認めた。

判決は原告の請求額をほぼ全額認める内容で、結論だけみれば遺族の全面勝訴だ。それでも遺族は納得できない。判決理由のなかで、上司のパワハラが自殺の一因になったという主張については事実認定しなかったからだ。

後述するとおり、パワハラを裏付ける同僚や上司らの証言は多数存在する。しかし、一方でそれを否定する証言も複数存在する。結局、裁判所は「自由心証主義」のもと、パワハラがあったと断定することはできない、と判断した。

パワハラの有無を事実認定する作業に比べて、長時間労働による安全配慮義務違反を認定するのは容易である。最高裁の判例がある。裁判所にしてみれば、難しいパワハラ認定をしなくとも「長時間労働」を使って原告全面勝訴を言い渡すことができた。そんな事情があったのかもしれない。

じっさい、訴訟の内容を詳しくみると、パワハラ、あるいは限りなくそれに近い問題があったのではないか。そう疑わざるを得ない。

松山駐屯地新隊員
幹部自衛官の自殺事件が起きた陸上自衛隊松山駐屯地。新隊員の訓練が行われている。(筆者撮影)

新隊員受け入れ業務が滞ったわけ

Aさんは、理系の大学を卒業後、2008年に「幹部候補生学校」に入校し、幹部自衛官の道に入る。3尉からはじまり、2011年に2尉昇任。陸上自衛隊第14特科隊(松山駐屯地)の小隊長となった。

通称「14特科」。155ミリ榴弾砲(FH70)を運用する部隊である。そこで教育や訓練を担当していた。独身で、官舎に一人で暮らしていた。

自衛隊の階級
自衛隊の階級。3尉以上が幹部自衛官、曹と士(曹士)が定員(約25万人)の8割(約20万人)を占める。Aさんは自殺当時28歳、2等陸尉。上司のB中隊長は一佐。近年「士」階級が不足中。

自衛官の階級は、下から順に、2士、1士、士長、3曹、2曹、1曹、曹長、准尉、3尉、2尉、1尉、3佐、2佐、1佐、将補、将――の16種類ある。

士長までが任期制、3曹以上が定年制だ。3尉より上が幹部自衛官で、「陸上自衛隊幹部候補生学校」(福岡県久留米市)や「防衛大学校」(横須賀市)を出ると3尉からのスタートになる。

採用は大きくわけて、①一般隊員(自衛隊候補生=任期付き契約の非正規)、②曹候補、③幹部候補――の3種類ある。

①の一般隊員で採用されると、2士という最も低い階級からはじまり、2〜3年の任期を更新しながら7〜8年で満期となる。満期後も自衛官を続けたい場合は3曹の試験を受けて合格する必要がある。

②の一般曹候補も2士からはじまるが、こちらは期間の定めのない正規雇用で、4年程度で曹に昇任することが予定されている。一般隊員採用よりも、昇任が早い。

③の幹部候補は、前述のとおり指揮官専門のコースだ。Aさんが選んだのは、この道だった。

2013年5月27日、月曜日の朝。出勤時間になっても職場にAさんの姿はなかった。連絡がつかない。官舎にもいない。捜索が開始され、ほどなくして松山市内の演習場で発見された。自殺をはかり、帰らぬ人となっていた。28歳の若さだった。

遺族の調査により、ほどなくして、すさまじい長時間労働の実態が明らかになる。亡くなる半年ほど前から超過勤務時間が激増し、毎月100~150時間に達する。そして、直前1か月は200時間を超す殺人的な激務だった。なぜそんなに忙しかったのか。

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陸自松山駐屯地。

大津地裁は遺族の請求をほぼ全額認めたが、上司のパワハラについては事実認定をしなかった。国側の控訴により現在大阪高裁で審理が続いている。

新隊員の入隊式(陸自郡山駐屯地)。

155ミリ榴弾砲を使った展示演習(陸自郡山駐屯地)。

射撃訓練の様子を伝えたツイッターの投稿(陸自郡山駐屯地の公式アカウント)。

女性自衛官Gさんは、郡山駐屯地のなかで日常的なセクハラや強制わいせつの被害を受けた。上司に訴えても隠蔽されたため、実態を告発し、防衛省に調査を申し入れた(2022年8月、防衛省)。

自衛隊の中途退職者は近年急増、新規入隊者の4割に達している。

入隊者も激減している。令和4年度(2022年度)の自衛官候補生(もっとも階級の低い任期制隊員)の採用数は、予定9000人に対して5000人以下だったと言われる。

入れ墨の入った人の採用をしたらどうかと政府に質問する佐藤正久・自民党参議院議員(5月27日、参院外交防衛委員会。参議院インターネット録画より)。

入れ墨のある人、消した人の採用について検討する旨答弁した町田一仁・防衛省人事教育局長(5月9日、参院外交防衛委員会。参議院インターネット録画より)。

自衛官の定員(予定数)と現員(じっさいの数)、定員充足率を示した表。士の階級の充足率は8割を下回っている。(防衛省HPより)

災害救助をやりたいという動機で自衛隊に入った若者は多い(陸自郡山駐屯地のツイッター投稿より)。

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自衛官自殺者数2023/06/26 00:46会員
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